第2章 裏切り
星月夜
月明かりが辺りを明るく照らす。しかし、それはすぐに雲に隠されてしまった。
一人の若者が血を流しながら、森を進んでいる。
彼はほとんど意識が朦朧としているようで、足取りは不安定だ。進んできた道には足跡をなぞるように血の跡が付いている。いつ倒れてもおかしくない血の量だが、それでも若者は一歩一歩確実に前に進んでいる。向かうべき場所は、はっきりと分かっているのだろう。
しばらく進んだ後、一本の木の前で足を止めた。その木の幹はとても太く、信じられない程の時を過ごしてきたことが窺える。
若者は身を屈め、木の根元を手で探る。しばらくそうした後、地面に木の板で覆われている場所を発見した。彼はその板を慎重に退けて、中に入っていった。
中では若者が、誰かと声を交わしているようだった。
「バウリット…貴様……よくも…」
「長よ…今は…時間がありません。小言は…ふっ……お互い死んでからに……しましょう」
どちらの声も弱々しく、短い会話しかできなかったようだ。すぐに声は聞こえなくなった。
辺りには獣や蛙、虫の鳴き声だけが響き渡っている。
それからしばらくして若者が出てきた。血色の悪い顔に、それでも興奮し満足げな笑みを浮かべている。
「数十年、数百年後の同志よ。これは私からの心ばかしの呪いだ。私の、そして〈メス〉の悲願を果たしてくれ給え」
そう言うと若者はそこで気を失ってしまったようだった。その場に倒れ込み、そして、それから動くことはなかった。
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