第8話 グループ戦テスト
フライトテストのあとに待ち構えていたグループ戦テストのチーム分けは、くじ引きで決まった。
唯一の友人であるトールと組みたかったカッツは、見事にくじ運に負けてしまう。
4対4のチーム戦でカッツのチームの他のメンバーは、仲良し3人組だったようだ。
「わ~、知ってる人と組めてよかった~!」
「よろしくね~!」
「早速作戦会議しよ!」
カッツを置いてけぼりにして、女子3人で仲良く話しながら作戦をワイワイと立てている。
彼は、この3人組にどう話しかけたら良いものか迷っていた。
「あの、僕なにか手伝えることあるかな……?」
「あ、ジャバウォック、いたんだ。よろしくね」
「今、作戦を立てるからちょっと待ってて」
カッツは蚊帳の外で立ち尽くしている。
「カッツ、何をぼさっとしている。俺達も作戦を立てるぞ」
一時的に人間形態に戻っていたレヴィがカッツの脇腹を肘で小突いた。
「え? でも、あの子達が考えるって……」
「それをまるっきり信用するのはお前の人徳だとは思うが、どうせお前を囮にして相手を誘い出すとかそんな役割しか与えられんぞ、あの調子だと」
レヴィは同じチームの女子たちを見てフンと鼻を鳴らす。
その女子たちの近くでは、レヴィに恐れをなしたドラゴンたちが身を寄せ合って震えていた。
「とにかく、こちらも独自に動けるように打ち合わせをしておかなくてはならん。囮になるとしても、おとなしく敵チームの集中攻撃を受けるのは、お前だって嫌だろう?」
「それはそう」
――でも、「協調性を試す」っていう趣旨のテストなのに、これでいいのかなあ……。
カッツは疑問を抱きながらも、レヴィと話し合うことにしたのだった。
女子3人組の作戦は、レヴィが予想した通り、カッツが囮となって相手を誘い出し、そこを3人が囲んで集中攻撃しよう、というものである。
「ジャバウォック、色んな人の嫉妬を買ってるから、多分面白いように敵チームも食いつくと思うよ」
「頑張ってね」
入れ食い状態になる都合の良い餌、くらいにしか思われていない。
しかし、カッツはそれを不満に思う様子もなく、「わかった」と頷いた。
「はーい、作戦会議は終わりましたか~? それではこれより、グループ戦テストを行いまーす」
イゾルデは学園に用意された戦闘用のフィールドで生徒たちを待ち構えている。
このフィールドは岩や草むら、森など、自然を模した障害物やオブジェクトが点在している。
カッツたちは1番最初にこのテストを受ける順番になっていた。
「ふむ……カッツ、お前はとことんくじ運に恵まれていないと見える」
レヴィは顎に手を当てていた。
初めてのグループ戦、おまけに慣れない戦闘用フィールドで特別仲の良いメンバーのいないチーム戦を強いられるというのは、テストを評価される側としてはだいぶ不利だ。さらに、1番最初という順番は、初めてのグループ戦においては他のチームの戦術などを参考にできない、という不運っぷりである。
「まあ、不幸体質はどうしようもないからね。でも、運に左右されるような騎手を背中に乗せたくはないでしょ?」
「フン、俺のことが少しは分かってきたではないか」
鼻で笑ってはいるが、レヴィはかなり上機嫌だった。
そして再びドラゴン形態に変身し、カッツがその背に飛び乗る。
「征くぞカッツ! お前を侮っている奴らに、目にもの見せてくれようぞ!」
レヴィが一声吼えると、戦闘フィールドの空気が揺れ、森の木々がざわめいた。
「カッツとレヴィアタンを狙え!」
「竜王の子を1番先に潰せ!」
敵チームのドラゴンライダー4人が一斉に襲いかかってくる。
「レヴィ!」
「応とも!」
レヴィは地面を蹴り、そのまま翼を広げて敵チームを睨んだまま、後方へと飛び下がる。
「えっ?」
「ちょっと、なんでこっち来るのよジャバウォック!」
「なにかおかしかったか? 俺達はたしか、囮になって貴様らに敵を誘導する話だと聞いていたんだがな?」
レヴィの目が意地悪く弧を描く。
敵チームの4体はそのままレヴィをめがけて突っ込んできた。
それをレヴィは翼を広げて上空に駆け上がり、敵ドラゴンたちは方向転換できず、仲良し3人組にそのままぶつかる。
「きゃああああ!」
女子たちは何の準備もできていなかったのか、敵ドラゴンにふっ飛ばされた。
「おやおや大変だ。カッツ、俺に指示を」
「敵をなぎ倒して!」
「お安いご用だ!」
素早く地上に降りたレヴィは尻尾を振り回し、敵チームを一斉に薙ぎ払う。
吹き飛ばされたドラゴンたちは戦闘フィールドに置かれた岩や崖に叩きつけられ、そのまま気絶してしまった。
観客や審査員はその迫力に圧倒され、「おお~……!」という興奮混じりの声が上がる。
ドラゴン同士の気迫あふれる戦闘というのは、この世界においては一種のスポーツのような娯楽のひとつでもあった。
「そこまで!」
校長が右手を挙げて戦闘を止める。
レヴィはおとなしく従い、地上で翼を休めた。
「うーん、カッツくんとレヴィアタンくん、なかなかいい連携でしたね~。同じチームの他の子達とはちょっと連携が甘かったようですが……」
「すみません、なにせ急なグループ戦だったものですから、作戦を立てても実際に動くとなると難しかったようです」
イゾルデの評価に、カッツはへラッと笑って言い訳を並べる。
「そうですね~。そう言われると抜き打ちテストを行ったこちらもなんとも言えませんが、校長先生どう思います~?」
「いや、カッツくんの言う通りでしょう。それに、抜き打ちの割にはいい動きでした。今回の戦闘でのMVPはカッツくんとレヴィアタンくんのコンビかな」
「ありがとうございます」
カッツは丁寧にお辞儀をした。
問題は、後ろで睨みつけている女子3人組である。
すぐに首根っこを引っ張られるように、裏に呼び出されて恫喝された。
「ちょっと、どういうことよジャバウォック!」
「話が違うじゃない! アンタたち、抜け駆けしたわね!」
「MVPをかすめ取るなんて信じらんない!」
女子3人はぎゃいぎゃいとわめき、人間形態のレヴィはうるさいと言わんばかりに耳に手を当てている。
「かしましいぞ、貴様ら。そもそもカッツを囮にしようと画策したのは貴様らの方だ。貴様らこそ、カッツを踏み台に抜け駆けしようとしていたのでは?」
「はぁ~!? 何の根拠があって言ってんのよ!」
「敵のドラゴンが突っ込んできた時、貴様らが何の用意もしていなかったのが何よりの証拠ではないか。あのまま俺達が敵に囲まれて袋叩きにされるのを高みの見物したかったとしか思えんな?」
「それは……ッ」
女子3人が言葉に詰まったのを見て、レヴィはそのうちの1人の顎を指で持ち上げた。
「!?」
「カッツのことを、許してやってはもらえまいか。俺がカッツを焚き付けて今回の作戦を主導したのだ。責任は俺にある。俺をいくら罵倒してもらっても構わない」
「あ……」
純白の髪に、赤い目の美しい青年に見つめられ、顎を持ち上げられたまま親指で唇を撫でられた女子の目がとろけていくのが見えて、カッツは(うわぁ、えげつな……)と思ってしまう。
「――ッ、し、仕方ないわね! レヴィアタンに免じて、今回は許してやるわジャバウォック! でも覚えてなさいよ、今回のリベンジはするつもりだから!」
立ち去る女子3人組は「レヴィアタンに顎クイされてずるーい!」「どうだった? ねえ、どうだった!?」と相変わらずきゃぴきゃぴしていた。
「……レヴィって女たらしだね」
「俺のような美竜では仕方あるまいな」
「自分の美貌に自覚がある分、厄介だな……」
とにかく、6月のテストは無事に終了したのである。
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