第32話 婚約者達からのお願い事
「……何,これ?」
封筒を開けて中身を見ると,梨央君は何故か不思議そうに俺を見たのだった。
えっ!?何、その顔!?一体,何が書いてあったの!?
俺は不気味な笑みを浮かべた宴会部長を見ると,冷や汗をダラダラとかいた。
「梨央,中身何だったの?……ランプの魔シンお願い券?」
その言葉を聞くと,俺は天音の首元を掴んで抗議した。
「天音!!お前,またとんでもないものを仕込んだだろう!!」
「え~,だって面白みがあった方がいいでしょう~。」
「前に一度,それをやって俺が散々な目にあったの忘れたのか!!」
中学の頃,奈都姫達を入れたクラスメイト数人でビンゴゲーム大会をしたのだが,その時も天音は似たような景品を仕込んでいたのだ。
それを,クラスメイトの女の子が引いてしまい,数回ほどその子のお願いでデートをすることに。だが,それだけなら特に問題はなかった。
問題なのはそのことを俺の財産目当ての女子達に知られてしまい,教室が大騒ぎになってしまったのだ。以来,こういった景品は入れないようにしていたのだが……。
「ねぇ,シン。これって,もしかして……。」
「俺じゃなくて,天音に聞いてくれ……。」
物が出たのなら仕方がない。俺は諦めた顔で天音に説明を求めた。
「は~い!それでは,説明しま~す!その景品は何と,シンにお願い事をできるお願い券になりま~す!」
「シンにお願い……!?ちょっと,天音!?それって,中学の時と同じじゃ……。」
「ピンポ~ン!大正解!ちなみに,今回はお願い券が5枚入ってるよ~!」
「ちょっと,待て!!中学の時より,数が増えてるぞ!?」
確か,中学の時は3枚だったはず……。やはり,こいつは家に連れて来るべきじゃなかったか……。だが,梨央君はずっと固まっているが,どうしたんだろう?
もしかして……あまり嬉しくなかったのかな?
「シンさん,質問いいでしょうか?」
「な,何かな?」
「このお願いって制限とかあったりしますか?例えば,シンさんがしてほしくないことは要求しては駄目とか……。」
梨央君,ナイス!!!確かに,ここで俺がやってほしくないことを言えば,梨央君なら絶対にしないはずだし,皆にも言質を取ることができる。案の定,天音は面白くないという顔で不貞腐れているが,この際,放っておこう。
しかし,そこまで気を回せるって本当にこの子は小学2年生何だろうか?何度も思うが,絶対にリュウや天音より精神年齢上だと常々思う。
「ごほん。まあ,梨央君ならそこまで変なお願いはしないと思うから特には制限しないでおいて上げてもいいかな。だけど,俺も無理なことは無理って言うからね。」
「……要するに,シンさんが無理なことはその場で言うけど,特には制限しないって思えばいいんでしょうか?」
「そう思ってくれて構わないよ。」
まあ,小学生のお願いなんて特に問題が起こることはないだろう。それに,彼は男の子だ。まさか,彼女がいるのにそっち系の趣味はまずないだろう……。
だが,彼は俺だけでなく皆の予想を覆す行動に出た。
「……じゃあ,早速1枚使いますけど,いいでしょうか?」
「ん?何かあるのかな?」
「はい。……この券,姉さんにあげてもいいでしょうか?」
「「……へ?」」
俺だけでなく奈都姫も梨央君の言った言葉に唖然とした顔をしてしまった。今,何て言った?奈都姫にあげたい?いや,別にそれは構わないけど,どうして……。
「駄目でしょうか?」
「い,いや,別に構わないよ?それに,奈都姫なら権利を使わなくても……。」
「じゃあ,別のお願いを。姉さんのお願い事を必ず聞いてあげてください。」
「梨央!?」
ちょっと待ってぇぇぇ!?梨央君,とんでもないことお願いしていない!?
しかも,それってこの場で断れば,俺は奈都姫のお願いを聞きたくないって言ってるのと同じことになるよな……。まさか,この子に俺は嵌められたのか?
案の定,天音はニヤニヤとこちらを見て悪代官のような笑みを浮かべていた。
「……分かった。そのお願い事を聞くよ。」
「シン!?」
「ありがとうございます。てことだから,姉さんどうぞ。」
そう言って封筒を奈都姫に渡すと彼は小声で奈都姫に何か言ったのか,彼女は急に顔を真っ赤にさせた。梨央君,お姉さんに何を吹き込んだの?怖いんだけど……。
俺は未来の義弟?に恐怖を覚えてしまった……。
「なっちゃん,いいな~。私もお兄ちゃんに色々してほしいことあるのにぃ。」
「う~ん,だったらほいみんも1枚いる?あと,静ねぇも。」
「奈都姫さん!?」
「別に問題ないでしょう?それとも,シンは二人に渡すと問題でもあるの?」
「う……。」
何,この悪循環。従兄弟と親友二人を見ると,諦めろという顔をされてしまった。
俺は3人をもう一度見ると,嬉しそうに談笑をしていたので仕方がないと思った。
「‥…わかった。その変わり3人とも,俺も無理なお願いは聞けないからな。」
「ふふ,大丈夫よ。シンちゃんに無理なことは言わないつもりだから。」
「私も言わないよ?というわけで,お兄ちゃん。今月のガチャの額を増やし……。」
「お前はもう少し自重しなさい!!」
俺が義妹に怒ると,皆は笑い出してしまった。まあ,この3人なら無理難題は押し付けないだろう……。多分……。
俺は少しだけ不安を抱えることになってしまった。
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「先輩,お邪魔しました。今日は楽しかったです!」
「いつも邪魔してばかりですまないな。」
「気にするな。師父も今日はいらしてくれてありがとうございます。」
「はっはっ,今日は存分に楽しませてもらったからな。それと,新之助……。」
保衣美と談笑している二人を他所に師父に呼ばれると顔を近付けた。
「少しだけ,気を付けておいた方がいい。」
「えっ!?師父,まさか……。」
「今回はそっちではなく,真面目な話だ。これは,大人からの助言だと思っておいてくれ。上手く行き過ぎる時ほど,問題は起きやすいからな。」
師父の言葉を聞き,俺は納得した。確かに,婚約騒動の時もゴタゴタしたが,特に問題なく,3人とは婚約することはできたのは確かだ。
だが,奈都姫の周りの問題は片付いていないし,先日のお茶会で聞いた話もある。
俺は改めて師父にお礼を言うと,気を引き締めようと思った。
「それじゃ,お兄ちゃん。白ちゃん達を送って来るね~。」
「おう!任せたぞ。」
保衣美達を見送ると,俺は家の片づけをするためにリビングに戻った。
「悪いな,フレディ。片付けを手伝ってもらって……。」
「気にするな。」
それだけ言うと,彼は皿洗いの続きを行った。本当にこいつは家事全般が得意過ぎるだろう……。絶対に生まれてくる性別を間違えていると確信した。
「……静ねぇ?どうしたんだ?何か凄く顔が赤いけど?」
「えっ!?そ,そうかな?」
珍しく動揺していたが,何かあったのだろうか?チラッと未だに皿洗いをしている親友を見ると,いつも通りだったので,特に心配することでもないと思った。
「シン~,こっちは準備できたわよ~。」
「今行く~!それじゃ,俺は梨央君達を奈都姫と一緒に送ってくるから。」
「うん。気を付けてね。」
「フレディ,静ねぇを頼むぞ。」
俺がそう言うと彼は何も言わずに頷き,奈都姫達と一緒に自宅を後にした。
「ねぇねぇ,梨央君。何であんなお願いごとしたの?奈都姫のため?」
「おかしかったでしょうか?」
目の前で奈都姫の友達に先程のことを聞かれている梨央君を見ると,俺は苦笑してしまった。この子は社交的だなぁ。それよりも,君達。ひかりちゃんが困っているから,あまり揶揄わないで上げなさい。話し方は大人だけど,二人はまだ小学生だぞ。
「すぅ……すぅ……。」
「ごめんね,シン。梨久ったらはしゃぎ過ぎたのか,寝ちゃって……。」
「気にするな。それよりも,今日は楽しめたか?」
「物凄く楽しめたわ!それに,こんなお土産までもらちゃって。」
大事に抱えている長細い箱を見ると,嬉しそうに笑った。実は先程の景品で余った親父のコレクションを奈都姫に持って帰るように勧めたのだ。
「おじさん,今日は帰って来るんだよな?」
「そうよ。シンからのプレゼントって言ったら,驚くかしら?」
「どうだろうな……。まあ,梨沙おばさんには挨拶したけど,近い内に婚約のことも含めて挨拶に行かないと駄目だな。」
「……そうね。」
それを聞くと、奈都姫は押し黙ってしまった。おじさんに婚約の挨拶に行く。奈都姫に取っては偽装のことを話すことでもあり,気が重いと感じてしまったのだろう。
言い方を少し,外してしまったかな?
「ねぇ,シン。もし,私が偽装じゃなくて……。」
「奈都姫~!私達はこっちだから~!弟君の彼女さん任せていいかな~!」
「…………。」
目の前の奈都姫の友達が呼ぶと,彼女は小さな溜息を吐いた。
「……奈都姫?」
「何でもないわ。ひかりちゃんはこっちで送るから。二人ともおつかれさま~。」
俺と離れた奈都姫は梨央君達の隣に行くと,友人達に手を振って別れた。
奈都姫の奴,さっき何を言おうとしていたんだろう?俺は首を傾げると,後ろで未だに寝息を立てていた梨久ちゃんを起こさないように,ゆっくりと前を歩いていた奈都姫達の後を追ったのだった。
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次回:もうすぐ!学園体育祭! お楽しみに!
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