第31話 風間流ビンゴゲーム大会!!

 さて,諸君。ビンゴゲームというのはご存じだろうか?


 25マスに番号が書かれたカードを用いて、5つの数字が揃った条件を満たしたものを勝者とするゲームだ。非常に簡単なゲームで老若男女問わず,気軽に遊べるとしてイベント行事などでも人気を集めていることだろう。


 特に,子供達はビンゴゲームで手に入るプレゼントにワクワクするだろう。だが,それは大人も同様だ。最新鋭のゲーム機から,プラモデル等の玩具,時には大人達が目を光らせるようなプレゼントが出ることもあるのだ。


 そして,この俺,風間新之助は親しい人達と集まってこういったワクワクするようなゲームをすることが大好きであったのだ。


 最近,動画配信サイトでは,投資,節約といったお金に纏わる動画をよく見かけることは増えただろう。その中でも,俺はある配信者の言葉に惹かれていた。


【自分の心を満たすには,何にお金を使えばいいのだろうか?それは,自分のためにお金を使うことではなく,人のためにお金を使うことである。】


 無論,全ての人達に無償でお金を使えということではない。人間には与える人,奪う人,与えたら返してくれる人の三種類の人間が存在する。


 学園にいる女子達の一部はおそらく奪う人だろう。俺自身,それを理解しているからこそ,彼女達とはできるだけ関わらないように考えている。


 だが,俺の周りにいる奈都姫達はどうだろうか?彼女達は俺みたいにお金を持っているわけではないが,それ以外に多くの物を俺に贈ってくれている。


 そんな彼女達のために,何かお返しをしたいと思うのは必然だろう。だからこそ,俺は大切な人達のために自分の財力を惜しむつもりはない。それは,先程まで行われていたホームパーティーとて同じだ。


 そして,今から行われる風間流ビンゴゲームも同じことであった。


「それでは,皆さんお待ちかね!!風間流ビンゴゲーム大会を始めまーす!」


 宴会部長の天音の言葉と共にカウンター席に座っている大人達やソファーに座っている子供達は天音に拍手を送った。


 ――風間流ビンゴゲーム大会


 内容はただのビンゴゲーム大会であるが,俺は一言で言うとお金持ちだ。そして,自慢じゃないが,普段はかなりの倹約家だ。何せ,家計簿も付けて,安売りの食材を買い求めてスーパーを徘徊するほどに……。義妹には飽きれられてもいる。


 そんな俺が唯一財布の紐を緩める時,それは親しい人達と楽しく騒ぎたい時だ。故に,そのプレゼントはどれも高価な代物で合ったりする。


「か,風間様!?こ,この景品は一体……。」

「いや~,課長さん達が好きな物が分からなかったので色々と適当に。まあ,これだけ景品が豪華になったのは銀が原因でして……。」


 そして,今回は珍しく銀が来ているのだ。いつもは家の用事で忙しいのだが,今日は課長さん達と会わせたかったのでこちらから来て欲しいと頼み込んだのだ。


 だが,それだけでは終わらず,ビンゴゲームをすると言ったら……。


『だったら,僕も少し出そうか?』


 という,お言葉を頂いてしまったのだ。何せ,銀は俺以上にお金を持っていたりする。実家のお金に手を付けてはいないが,それでもそのズバ抜けた投資センスで莫大な資産を既に持っていたりするのだ。


 そして何より,銀は身内には無茶苦茶甘い。部室棟の件もそうだが,義妹が部室を欲しいと言っただけで学園に許可を貰って部室棟をもう1つ作ろうとするぐらいだ。今回のビンゴゲームはいつもより豪華なってしまったのはそういう理由だ。


「ほいみん,どれ欲しいのかな?」

「う~ん,新作のゲーム機も欲しいけど,プラモデルも欲しいかなぁ。同好会に居る子に物凄くガチな子が居るから塗装とか色々としてもらって……。」

「あ!ユウ,あれ欲しいかも!」

「二泊三日温泉ペアチケット……。風間君,こんなのまで用意したのかい?」


 シスターズや先輩達は景品を見ながらどれがいいか,物色を始め出していた。しかし,課長さん達はやはり見る所が違うのか,震えた顔である景品を見詰めていた。


「課長……こ,これって,数十万ぐらいする腕時計じゃないですか?」

「こんな物もあるのか……。本当に信じられん……。」

「お気に召しませんでしたか?」

「とんでもない!!ですが,風間様。我々が参加してもよろしいのでしょうか?ご厚意はとても有難いのですが,その,何と言いますか……。」


 まあ,課長さんが言いたいことは理解できる。奈都姫達と違い,松本さんや課長さん達は俺達に酷い仕打ちをした御上側の人間だ。恭哉さんのように,未だに婚姻活動推進課の人達に敵意を向けている子供達もいるとは聞いている。


 だが,俺としてはもうそのことは気にしていない。いや,むしろ今では今回の婚約騒動は起こってくれてよかったのでは思い始めている。


 今回の出来事が起こらなければ,俺や奈都姫達が関わっていたあの事件は何れ忘れ去られていただろう。それを見つめ直す,いい機会だと思ったのだ。


「それに,どんな事情であれ,俺と同じ境遇の人達と出会えて仲良くなれましたし,良かった思いますよ。ただ,未だに御上連中は許せませんけどね。」


 最後にワザとらしくそう言うと,課長さんは少し顔を微笑んでくれた。


「それでしたら,お言葉に甘えて楽しませてもらいましょう。これだけ豪華な景品何ですから,持ち帰って部署の物に自慢しなければ……。」

「はは,そうしてください。あ!でも、1つだけお願いしたいことが……。」

「風間君,お願いとは?」


 不思議そうに同僚の人と景品を物色していた松本さんが尋ねてくると,俺は先程と違い真面目な顔で景品が置かれている棚を見た。


だけは絶対に取らないでください。」


 俺は中央に置かれている可愛らしい封筒を見て行った。他の豪華な景品と違って何故かその封筒だけ異質な雰囲気を漂わせていたのだ。


「何ですか,あれ?」

「宴会部長が仕込んだ爆弾ですよ。……俺に取ってはですけど。」

「「爆弾?」」


 不思議そうにその封筒を見る大人達を他所に俺は真剣な眼差しで神に誓った。


 絶対にあれだけは誰にも取らせてはならん!!


 前に一度,天音があれを仕込んでいたことを知らなかったので,後日に散々な目にあったのだ。今回は身内だけだから大丈夫だと思うが,気を付けることに越したことはない。最悪,買収することも視野に入れなくては……。


「シ~ン,そろそろカードを配るから始めるわよ~!」

「おう!では,俺はこれで。3人とも頑張ってくださいね。」


 課長さん達と別れると俺は天音の近くに座り,皆の様子を伺った。


******************************


「36番!!」

「あ,ビンゴです!」

「真白ちゃん,おめでとう~!」


 ビンゴになった真白ちゃんに皆が拍手を送ると,彼女は景品を選んだ。多分,彼女のことだから拓人と何処かへ出かけたいかなと思い,温泉ペアチケット等も混ぜていたのだが,既にペアチケットは姉御が奪い去っていた。


「先輩,これでお願いします!」

「自動食器洗い乾燥機かぁ。真白ちゃん,もう主婦でしょう。いや,拓人の嫁か。」


 俺が冗談で言うと彼女は顔を赤らめて黙り込んでしまった。


 親友よ,そんな目で睨まなくてもいいじゃないか……。


 逆に師父は笑っているし。本気であの二人がくっ付くことを望んでいるんだろう。


 だが,未だに例の物は誰も引いていない。俺も自分のカードを見ると,ビンゴまで後2つ。これは駄目だと思うと絶望に打ちのめされた。


 こいつ、ワザと当てにくいカードを俺に渡したんじゃないだろうな……。


 隣の宴会部長は事情を知っているためか,俺を見てにひひと怪しく笑っていた。


「(まあ,このメンバーなら大丈夫だと思うが,今回は一体どんな要求を……。)」

「あ!ビンゴだ!やったー!」


 今度は梨央君の彼女であったひかりちゃんがビンゴを引いた様だ。微笑ましく,何を選ぶのかなと見ていると,彼女は例の封筒に目を向けていた。


「ひかりちゃん,何か気になる物でもあったの?」

「う~ん,あれかな?」

「!?」


 やはり,彼女は例の封筒が気になっているようだ。冷や汗をかく俺を見ると天音は未だに不気味な笑みを浮かべて俺を見て笑っていた。


 あいつ,本当に何を仕込んだんだ!?


「でも,ひかりちゃん。あっちが欲しいって言ってなかった?」

「うん!!じゃあ,あっちにする!!」


 そう言って彼女が選んだのは例の封筒ではなく,その奥にあった巨大なクマのぬいぐるみであった。やはり,あの年頃の女の子は可愛い物が良いのか,嬉しそうにぬいぐるみを渡すと笑顔で抱きしめていた。


 助かったぁ……。だが,まだ油断はできない……。


 それから,膝をついて絶望している親友よ。お前,あれを狙っていたのか……。俺は静ねぇに慰めて貰っていたフレディを見て何とも言えない顔をした。


「あ,ビンゴだ。」

「にぃに,おめでとう!」

「梨央,おめでとう。さっきも言ったけど,あなたの好きなものにしなさいね。」


 どうやら,梨央君は家族にお土産を持ち帰ろうと考えていたらしく,奈都姫は苦言を言って自分の好きなものを選ぶように言ったのだ。


「……それじゃ,その可愛らしい封筒を頂けますか?」

「!?!?」

「梨央,そんなのでいいの?」

「うん。ひかりちゃんが気になっていたみたいだから。……彼女が欲しい物なら問題ないでしょう?」


 照れながらそう言うと,流石の奈都姫もそれ以上は何も言わなかった。だが,俺は今絶賛,その封筒の中身に入っている物が気になって仕方がなかった。


「……何,これ?」


 封筒を開けて中身を見ると,梨央君は何故か不思議そうに俺を見たのだった。


 ******************************


 次回:婚約者達からのお願い事 お楽しみに!

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