第29話 憂鬱なことは楽しいことで忘れよう!
『皆さん,よく聞いておいてください。今回の問題は皆さん同士で起きた事件です。内容は……皆さんの婚約者達の奪い合いです。』
聞きたくもない話だった。
まさか,俺達みたいな境遇の子供の中に自分が必死で選んだ婚約者達を横取りしようとする者が居るなんて……。
しかも,あの話には続きがあったのだ。
『他の婚姻活動推進課の職員は絶対に教えないと思いますが,私は皆さんを信用して敢えてお教えします。くれぐれも他言無用でお願いしますね。』
今回の事件を起こした者,その子供は今回の選ばれた子供達の中でも最上位に位置する子供,かなりの大企業の御曹司だそうだ。
云わば,俺と同格と言っていいだろう。
だが,性格が非常に問題があって彼が通っている学園の女子達は彼の婚約者になりたくないのが大半だったそうだ。
しかも,お金目当ての女子達ですら嫌厭するほどであり,最終期日までに彼は規定人数の婚約者を選ぶことができなかったらしい。
ただ,理由があってのことなので財産の没収はなかったのだが,彼のプライドは物凄く傷付けられたことで強行に走ったらしいのだ。
それが,自分好みであった女性を政府の圧力を使って自分の婚約者にすることであり,その被害は恋人関係であった女性を無理やり自分の婚約者にするほどであった。
『おいおい,松本さん。政府はまさかそいつのやっていることを認めたのかよ!?』
『認めたくないに決まっているじゃないですか!その子がやっていることはどう考えて政策そのものを白紙にさせかねない行動なんですから!ただ,その子の実家は数十年に渡り,政府と深い繋がりのある大企業でして政府も首を横に振るわけにはいかなかったらしいです。なので,恋人関係の女性には手を出させないようにしましたが,そうではない女性の方にはこちら側から譲歩を提示して……。』
俺でだけでなくその場にいた全員は言葉を失った。
その話を聞くと,今回の政策で一番のイレギュラーは俺や恭哉さんじゃなくてその子供じゃないのかと思ってしまった。
『あのう,恋人関係に手を出さないと言いましたが,それじゃ何で僕達が選んだ婚約者を横取りしようとしたんでしょうか?』
『……皆さんもお気付きでしょう。今いる自分達の彼女達を見れば。』
俺も含めて皆は談笑している自分達の婚約者を見た。
奈都姫が可愛いのはそうだが,よく見るとそれに引けを取らない女の子が数多く,傍から見れば何処のアイドルグループだよと言われてもおかしくないだろう。
どうしてこんなにも可愛い子ばかり……。
『言い方が悪いですが,今回の政策は名家や企業同士で行われている政略結婚を度外視した政策です。なので皆さんも時間がなかったこともありますが,自分が好きだと思った女性に告白して婚約者に選んだんじゃないでしょうか?』
『『う……。』』
まあ,規定人数を決めなければ財産の大半を没収されるとなると親も政略結婚など決めている暇などなかったはずだ。
要するに、家柄を度外視して自分の好きな女性,まあ,学園でも人気がある子達に皆状況を説明して婚約を申し込んだのだろう。
これは,自分の手中に手に入るならどんな手段を使っても欲しいと思う者はいると思い,今の話を含めて合点が言ったのは確かだ。
『松本さん,その話の決着はどうなったんですか?』
『勿論,私達は断固反対で抵抗しました。』
私達は,か……。
その言い方すると,かなり悲惨な結末だったんだろう。
『残念ながら企業同士のトラブルになると我々は介入できません。婚約者の方を横取りされずにはなりましたが,実家の取引先が
『政府の一部が企業に圧力を掛けている,ですか……。』
『はい……。』
その場に居た俺達は溜息を付くしかなかった。
最早,その者は問題児ではなく災害そのものだ。
こちらが関わりたくなくても何かの拍子でこちらに接触してくるかもしれない。
そうなれば,被害は確実に免れないだろう。
『でも,そのことって他言無用なんですよね?よかったんですか?俺達に教えて?』
『自慢じゃないですが,私はもう風間君のことがあって恐れを捨てました。問題が起こって首を切られてもまた再就職先を探すつもりです。』
その言葉を聞くと,皆は一斉に俺を見た。
俺は苦笑するしかなかったが,担当者が松本さんで本当によかったと思った。
それなら……俺も誠意を示す必要があるな。
『松本さん,その取引先を断られている企業,教えてもらってもいいですか?』
『えっ?構いませんが?一体,何を為さるおつもりで?』
『新しい取引先の紹介を。多分,直ぐに問題が解決すると思いますよ。』
俺は松本さん達に不敵な笑いをした。
まさか,新しくできた取引先が銀の実家だとは相手さんも思わないだろう。
案の定,問題の渦中にあった企業と御子息には泣いて頭を下げられたものだ。
「(一応,県内にいる彼等にも何かあれば協力を約束するとは言った。あまり生家の力を使いたくはないんだが,今回は別だ。もし,標的が奈都姫達になったら俺だけの力ではどうすることはできない。)」
例え偽装婚約だったとしても,そんなとんでもない奴の所に3人を嫁がせるのは俺でも我慢ならないことだ。
そう考えると,少しでも生家とは繋がりを作っておくべきだと思った。
最悪,オジキや兄貴にも協力を頼むことも視野に入れておこう。
「……聞いてるの,シン?」
「ん?」
キッチンで本日のパーティーで出すオードブルを作っていると,隣で一緒に料理をしていた奈都姫が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「お店から帰ってからずっと暗い顔をしているけど,誰かと喧嘩でもしたの?」
「してないさ。むしろ,色々と話が聞けてよかったよ。そっちはどうだった?」
「シンとの関係を根掘り葉掘り聞かれちゃった……。あと,連絡先も交換したから進捗があったら教え合おうって言われちゃったわ。」
どうやら,女子達は有意義な時間を過ごせたらしいようだ。
昨日,自宅に帰ってきたら保衣美は物凄く羨ましそうにしてたから個人的に彼等とまたお茶会を開くのも悪くないかなと思った。
うん,今度は保衣美と静ねぇも必ず連れて行こう。
「奈都姫,そろそろ梨央君と梨久ちゃんを迎えに行かなくていいのか?」
「えっ?もうこんな時間なの!?ちょっと,行ってくるわね!」
「急ぐのは良いけど転ぶんじゃないぞ~。」
「私は小さい子供じゃないんだからだいじょ……うわぁ!?」
ガシャンガタンと玄関付近で大きな物音がした。
言っている傍からお決まりのパターンみたいに転んでどうするんだよ……。
俺は小さく溜息を吐いた。
「お兄ちゃ~ん,飾り付け終わったよ~。」
リビングの飾り付けが終わったのか,義妹が俺の傍に近寄って来た。
「一人で任せて悪かったな。」
「
興味津々に俺が作るオードブルを見ていると,俺は1つだけそれを取り,保衣美の前に持って行った。
「食べてみるか?ほれ,あ~ん。」
「あ~ん……!?美味しい!?ねね,これ何!?」
「クラッカーを使ったオードブルだ。色々とあるぞ。あと,松本さん達も来るから親父のコレクションを1つ拝借して生ハムとかキャビアを使った……。」
「お兄ちゃん,それホームパーティーで出す料理じゃないと思うよ?」
残念ながら義妹よ。それは本命ではないのだよ。
本命は今,静ねぇが迎えに行っている銀が持ってくるのだ。
しかし,リュウは本当に今日は残念だと思った。
「お兄ちゃん,昴流さんって今日,龍にぃと約束の日だったっけ?」
「ああ。昨日,連絡が来たみたいでな。兄貴も自分じゃなくて俺の婚約パーティーを優先しろって言ったらしいんだが,リュウは兄貴の方を優先するって。」
意外かもしれないが,リュウと兄貴にはある繋がりがあるのだ。
そして,月に1回は二人で食事をしたり,釣りとかに出かけたりするのだ。
風華グループの次期後継者が一般庶民のリュウと何故繋がりがあるのだと不思議に思うかもしれないが,この二人には切っても切れないある関係があるのだ。
――ピンポーン
インターホンが鳴る音がした。どうやら,静ねぇ達が戻って来たみたいだ。
「静ねぇ,おかえり~!あ、銀にぃだ!いらっしゃいー!」
「うん。お邪魔するよ。」
玄関から声が聞こえると,直ぐに大人数が歩く音が聞こえ、そこには保衣美と一緒に静ねぇ,銀,フレディが一緒にいた。
そして,フレディの肩には大き目のクーラーボックスが掛けられていた。
「シン,今日ってどれくらい人数が来るの?」
「リュウ以外のいつものメンバーと師父,奈都姫の友人が2名ほど。後は,松本さんの所から課長さんと同僚が1名,梨央君と梨久ちゃんに梨央君の友達が1名かな。」
「凄い大人数だね。……量増やそうか?」
「問題ないと思うぞ。それに,師父が寿司を持ってくるとか言ってたからな。それで,昨日言っていた物はそれか?」
銀が頷くとフレディは肩に掛けていたクーラーボックスを開けた。
その中には,キラキラと光る赤い宝石のように,見事なサシが入った最高級の物がぎっしりと詰め込まれていたのだ。
「お,お兄ちゃん,これってまさか……!?」
「そのまさか、だ。これが本日のメインディッシュだ。」
俺も早く調理したいと思ったがここは我慢だ。
案の定,保衣美は早く食べたいと俺に強請ってきたが,パーティーまで我慢だと言うと不貞腐れた顔で俺は文句を言われてしまった。
無論,その顔を見るとその場に居た皆が笑ったのは言うまでもなかった。
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次回:これって本当にホームパーティー!? お楽しみに!
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