第28話 選ばれた子供達とのお茶会

「着きましたよ。ここです!」


 松本さんが先に降りると,運転手さんが扉を開けて俺達を降ろしてくれた。


 そして,俺が見上げた目の前には洋館をアレンジしたお店があった。


「あ!ここってケーキバイキングがあるお店だ!」

「そうなんです!皆さんの婚約者の方々を連れてきておりますので女性の皆さんにはこちらを楽しんで頂こうかと。風間君達には申し訳ないんですが。」


 こちらを見て申し訳なさそうにすると,俺も仕方がないと思った。


 何せ,今日俺達が集められたのは理由があるからだ。


 表立っての理由は県内にいる俺と同じ境遇の子供達と親睦を深めるため。


 そして,実際の理由は……。


「また,事件が起こったんですね。」

「はい……。」


 そう,またしても事件が起こってしまったのだ。


 しかも,今回は同じ境遇,選ばれた子供達同士で起こった事件。


 それの説明会という名の注意喚起というわけだ。


 まったくもって面倒くさくて仕方がないことだ。


 だが,俺はその事件が非常に気になっていた。


「(まさか,恭哉さんが言ってたのはこのことだったのかな?話を聞いてみないと分からないが,彼等とはできるだけ仲良くしておきたいものだ……。)」


 俺はお店の中にいる顔も名前も知らない同じ境遇の子供達と敵対関係ではなく友好的になりたいと心の底から思った。


「それじゃ,入りましょうか。」


 松本さんに続いて俺と奈都姫も彼女の後を追ってお店に入って行った。


 店内は洋館風のオシャレな雰囲気となっており,既に満席状態でもあった。


 やはり,数十種類のケーキの食べ放題が魅力的であるのか,中は多くの女性客で賑わっている状況で,隣にいる奈都姫を見ると目を輝かせていた。


「ようこそ,いらっしゃいませ。」


 執事服のような格好した白髪の男性が俺達に声を掛けてきた。


「すみません,既にお連れの者がお店に来ていると思うんですが……。」

「もしや,松本様でしょうか?お連れのお客様は既に中で楽しんでおいでです。こちらへどうぞ。それから……お久しぶりですね,新之助。」

「坊ちゃま?」


 初老の男性は俺を見てそう言うと奈都姫だけでなく松本さんも不思議そうに見た。


「その呼び方はやめてくださいよ,瀬場さん。俺はもうあっちの人間じゃないんですから。……お店,繁盛しているらしいですね。」

「ええ。ここで3店舗目ですが,新太郎様のお陰もあってお店は繁盛しております。それよりも,立ち話もどうかと思いますのでこちらへどうぞ。」


 初老の男性はそう言うと奥の席に案内した。


「ねぇ,シン。あの人と知り合いなの?」

「この店のオーナーさんで元親父の専属執事。親父が家を出る時に一緒に生家を出てきたんだよ。で,今は趣味でこういったお店をやっているわけ。」

「「専属執事!?」」


 奈都姫だけでなく松本さんも驚いていた。


 まあ,親父の専属執事だったってことは結構なお偉いさんなわけなのよ。


 意味を理解したのか,松本さんは目の前で案内している初老の男性と俺を交互に見て口をパクパクとしていた。


「こちらの席になります。それでは,何かありましたら近くのスタッフかベルでお呼びください。それと,坊ちゃ……いえ,新之助様。」

「もう,坊ちゃまでいいですよ。それで,何でしょう?」

「お隣の女性の方は……もしや,あの方のご家族の方でしょうか?」

「!?!?」


 目の前の初老の男性にそう言われて奈都姫は一気に青ざめたが,俺は何食わぬ顔で奈都姫の肩を抱いた。


 その光景を見て松本さんだけでなく目の前の男性も驚いた。


「俺の婚約者です。何か質問でも?」


 鋭い視線で初老の男性にそう言うと彼は少し驚いた後、何故か笑みを浮かべて奈都姫を見て頭を下げた。


「失言,大変申し訳ありませんでした。あとでお詫びの品をお待ちいたしますので。本日は坊ちゃまと楽しんでお帰りくださいませ,。」

「若奥様!?」


 驚いた奈都姫に笑みを浮かべて早々に男性は俺達の前を後にした。


 それを確認すると,俺は奈都姫の肩から手を離した。


「……悪い。咄嗟の判断で勘違いされる言い方をしてしまった。」

「き,気にしていないから大丈夫よ。それよりも……ありがとうね,シン。」

「お礼はいいよ。それよりも,折角来たんだからそっちは楽しんでくれ。」

「うん♪」


 お互いに何食わぬ顔で仲良く会話していただけなのだが,どうやら松本さんと既に席に座っていたは違っていたようだ。


「……風間君,東条さん。」

「「はい?」」

「おそらくですけど,皆さんが説明してほしいと言う顔をしております……。」


 席に座っていた彼等は俺達を交互に見て興味津々な顔をしていた。


 その顔を見ると,俺は少し照れた顔で頭をかき,奈都姫に至っては真っ赤になって俯いてしまった。


 ******************************


「驚いたね。僕よりも年下なのにあんなに受け答えがしっかりとしている何て。」


 先程の光景を見て俺より年上,今は大学1年生らしい眼鏡を掛けた男性は驚きを隠せずにいた。


 俺自身も驚いたが,どうやら彼がこの県内で一番年上であるらしく最年少では中学2年生の男の子まで居たのだ。


 本当に今の状況って未成年の子供達しかいないんだなと改めて思った。


「しかし,驚いたな。俺が聞いた限りだと身長2m前後で冷酷で寡黙,なのに女好きで義理の妹にまで手を出してる鬼畜インテリ野郎って聞いてたんだが……。」


 だから一体,誰なんだよそれ!?


 恭哉さんの時も婚姻活動推進課の担当者さんがそう言ってらしいけど,俺ってそっちで通っているの!?


 俺は困惑した顔で松本さんを見ると手を合わせてごめんなさいと言った。


 あとで,理由を聞いてみよう。


「(しかし,改めて見ると色々な人がいるな……。)」


 最年長の大学生の方は眼鏡を掛けた落ち着きのある人,さっき俺のことを言った人は俺と同じ齢で金髪のヤンキーみたいな風貌,でも話して見ると意外と普通だった。


 他にもオドオドしている子や真面目にこっちの話を聞いている子達もいるなど松本さんの言う通りこの県内では本当にいい子だけしか集まっていないようだ。


 そして,そんな俺達の婚約者達はというと……。


「ねぇねぇ,彼とはどんな関係なの!?もしかして,結構進んでいたり……。」

「そ,そんなわけないじゃないですか!?」

「本当ですか?仲睦まじくて凄く羨ましいです……。」


 先程の俺達の光景に興味をそそられたのか,皆奈都姫に質問ばかりしていた。


 男子達よりも婚約者達の方が凄く仲良くしているのはどうかと思うが,仲が悪いよりも良いことではあるのでよかったと思っておこう。


「それで,松本さん。僕達に話って何でしょうか?僕達はもうそっちに何の要求もしませんよ?最初は色々と思うことはありましたが,彼女達とも良好に進んでおりますし,そっちのお陰で恋仲に発展できた子達も居たみたいですから。」


 チラッと中学生の二人を見ると彼等の何人かは,顔を赤くして頭をかいていた。


 好きだった女の子に告白して婚約者になったってパターンもあるのか……。


 色々と問題はあったが,やはり良いこともあったんだなと少し気分が良くなった。


「私が担当している皆さんは絶対に怒らないと思っております。ですが,別の地域で起こってしまったことなので注意喚起をしようかと。」

「問題って,もっと援助をしろとか,人数を増やしてくれってことっすか?でも,俺達は金も持ってますし,人数も今で十分すよ。むしろ,俺は1人だけでよかったんだが,あと1人を探すのに相当苦労したんですからね……。」


 遠い目をする彼と同様にその場にいた全員は同じ気持ちだったのか頷いた。


 恭哉さんがおかしいんだな,やっぱり……。


 俺はあの腹黒先輩の担当者になった婚姻活動推進課の方に改めてご愁傷様と心の中で手を合わせた。


「皆さん,よく聞いておいてください。今回の問題は皆さん同士で起きた事件です。内容は……皆さんの婚約者達の奪い合いです。」

「「……はぁっ!?」」


 俺だけでなく周りにいた同じ境遇の男子達は同じように顔を引き攣らせた。


 先日,恭哉さんと別れる時に聞いた話とまったく同じじゃないか……。


『風間君,君に1つ同じ境遇の者として教えといてあげるよ。』

『ん?何ですか?』


 話を終えて車から降りた俺に恭哉さんは意味深な言葉を投げ付けた。


『君も担当者から聞いていると思うけど,僕や君以外にも問題児が居たことは覚えているかな?件数は少ないと思うけどね。』

『そういえば,何かチラッと言ってましたね。政府の圧力を使って恋人であった彼女を奪ったり,一線を越えてしまった子達がいるって。』

『まあ,一線を越えてしまった子達はお互いに納得した上でだから仕方がないと思うよ。……文句を言うなら、僕ならさっき言ったことをするけどね。』


 俺はその言葉を聞くと,やはりこの人とは友好的でいようと本気で思った。


『問題なのはその彼女を奪った方だよ。 僕も担当者からチラッとしか話を聞いていないんだけど,かなり性格の問題がある子らしくてね。ないとは思うが,僕達の婚約者に手を出すかもしれないからね。気を付けておいてくれ。』


 そう言い残すと彼を乗せた車でその場から立ち去って行った。


「(恭哉さんが言ってたのはこのことだったのか……。)」


 俺もまさか,今目の前で松本さんからその話を聞くとは思わず,今回の問題を起こしたその問題児のことに驚きを隠せずにいたのだった。



 ******************************



 次回:憂鬱なことは楽しいことで忘れよう! お楽しみに!

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