第27話 温かい家族に憧れて
「ただいま~!」
「ただいま。お母さん,足りなくなっていたものは買っておいたから。」
「ありがとうね,梨央。」
買い物から戻ってくると,梨久ちゃんはテーブルに座り,梨央君に買ってもらったお菓子に夢中になっていた。
その梨央君はというと,買ってきた調味料や食材を片付けると,途中まで梨沙おばさんと作っていた料理の下拵えを始め出した。
本当にこの子,小学2年生か?
「それで,シンさんと姉さんとはどんな話をしていたの?」
「ん?梨央にはまだ早いかもしれないわねぇ。もう少し大人になったらこっちの話に参加させてあげるわね。」
「お義母さん!?だから,さっきの話は偶然だって……。」
「……シンさん,姉さんに手を出したんですか?」
「ぶっ!?」
俺は飲んでいた麦茶を吹き出しそうになった。
梨央君、何処でそんな言葉を覚えたんだ!?
この子は絶対に小学生じゃないだろう!?
奈都姫に至ってはもう完熟トマトより真っ赤になって黙り込んでいるし,この状況本当にどうしたらいいの!?
「梨央,あまりシン君達を揶揄わないの!それよりも,二人に良い話があるわよ。」
「なになに~!」
良い話と聞き,梨央君よりもお菓子を食べていた梨久ちゃんが先に反応した。
小学生ぐらいならこっちが当然の反応なのだが,梨央君はどうしてこんなに成熟しているんだろうか?
隣にいる奈都姫を見ると少し困ったような顔をしていたので今度事情を聞ける時にでも聞いてみようと考えた。
「おかあさん,いいことって?」
「シン君がお家でパーティーをするって。二人を誘いに来たらしいわよ。」
「パーティー!?いきたいー!シンお兄ちゃん,いつなの!?」
目を輝かして俺を見ている梨久ちゃんに俺は苦笑してしまった。
どうやら,去年のクリスマスパーティーが相当楽しかったようだ。
まあ,あの時はリアルサンタさん(フレディの変装)が来たからはしゃいでいたし、梨央君に至ってもサンタさんって居たんだ・・・と目を丸くしていたぐらいだ。
今回のパーティーも何かしら催しをした方が盛り上がるだろう。
後で,宴会部長と相談だな……。
「明日だよ。二人とも参加できるかい?」
「あした!?ぜったいにいく!」
「僕も参加できます。それと,シンさんに少しお願いが……。」
ん?梨央君が俺にお願い?
この子が俺にお願いとは珍しいことがあるなぁと奈都姫と一緒に思っていると,梨央君は意外なことを言ってきた。
「その,僕のお友達も呼んでいいでしょうか?」
「お友達?構わないけど,何名だい?」
「1人,です。」
1人?友達と言ってたから5,6人かなと思っていたら意外と少なかった。
しかし,1人だけ友達を連れてくるなんてその子は大丈夫なんだろうか……。
「にぃに,もしかしてひかりちゃん?」
「梨久!?しーーー!!」
ひかりちゃん?
名前からして女の子だと思うけど,梨央君と一体どんな関係なんだろう?
チラッと梨沙おばさんを見るとニコニコとしており,今度は梨央君を見ると,少し顔を赤くしていたので俺と奈都姫はまさかと思った。
「梨央!?あなた,彼女ができたの!?」
「!?う,うん……。」
「マジか……。」
女の子に告白ばかりされて萎えていると言っていたが,彼女が居たのか……。
「連れて来ては駄目でしょうか?」
「俺は別に構わないよ。奈都姫も別に構わないだろう?」
「私も別にいいわよ。それよりも,梨央。その子といつから付き合っていたのよ?全然,教えてくれなかったじゃない!!」
「は,恥ずかしくて言えなかったんだよ!!彼女何て、初めてだし……。」
年相応に恥ずかしがる梨央君を見てやっぱりまだ子供だなと安堵した。
しかし,梨央君に彼女かぁ。
もしかしたら,俺の義妹になるかもしれない子なんだよなぁ。
少し興味が湧いてきた。
……言っておくが,俺の友人の犯罪予備軍とは違う意味でだぞ!!
そして,あいつは今回,誘わない方がいいのではと思ってきた。
「さてと,それじゃ私は梨央と一緒にお昼の続きを作ろうかしら。」
「わたしもするー!」
「じゃあ,梨久も一緒にしましょうね~。」
「お義母さん,私も手伝おっか?」
「奈都姫はシン君の相手をしてあげなさい。婚約者何でしょう?」
梨沙おばさんに揶揄われると奈都姫は激しく抗議し,俺はそんなやり取りをする二人を見て微笑ましく思ってしまった。
「もう,事情を知っているのにお義母さんは揶揄いすぎでしょう!」
ソファーに深く座り込むと奈都姫は若干不機嫌そうに言った。
「仲が良くていいじゃないか。……少し羨ましいな。」
「シン?」
「御袋が生きていた時は俺も家事を手伝っていたし,親父も家にほぼ居たからさっきみたいなやり取りを良くしていたよ。勿論,今の家族でも仲はいいよ。どちらかといえば,羨ましいと言うか,少し懐かしくなってしまったな。」
「……ごめんなさい。」
俺の言葉を聞くと奈都姫は悲しそうな顔で俯いてしまった。
だが,俺はそんな彼女の頭を撫でると,お前は何も悪くないと言った。
「お前もおじさんも責任を感じ過ぎだと思うぞ?他の被害者の家族達がどう思っているか知らないが,俺達は2人に責任があるなんて思っていないからな。」
「っ!?でも……。」
「奈都姫。」
俺は真剣な目で奈都姫を見た。
やはり,彼女は目に少し涙を浮かべていた。
それほどまで,彼女に取ってあの事件は心に深い傷を残す事件であったのだ。
さっきの話をしたのは軽率だったかなと俺は自分自身を悔やんだ。
「何度も言うが,お前は何も悪くない。悪くないんだ。だから,これからは俺の為にも笑っていてくれ。じゃないと,俺を守った御袋だって浮かばれないだろう?」
「……そうね。おばさんに怒られちゃうわね。」
作り笑いであったが,奈都姫は笑顔を浮かべてくれた。
本当にどうしたら彼女の心を救ってあげることができるのだろうか……。
奈都姫には本当に笑っていてほしい。
今の偽装婚約が解消して俺が彼女の隣に立っていなくても……。
ふと,視線を感じてキッチンの方を見ると,東条家の面々が凝視していた。
「にぃに,どうしてめをふさいでいるの?」
「梨久が見るのはまだ早いからだよ。まだ,見ちゃ駄目だからね。」
「奈都姫、シン君。……二人っきりにしてあげよっか?」
梨沙おばさんにとんでもないことを言われてしまい,俺達二人はソファーから立ち上がり抗議した。
梨央君と梨久ちゃんの前で何てことを言うんだ,この人は!?
「お義母さん,何勘違いしているの!?」
「え~,シン君が泣かせたんだがら責任は取ってもらわないと……。」
「俺が確かに悪いですけど,二人が居る前でそんなこと言わなくても……。」
「……シンさん,姉さん。」
何故か申し訳なさそうにしているのか,顔を赤くして梨央君は爆弾を投下した。
「二人って,大人の関係,何でしょうか?」
「「違うよ!!(違うわよ!!)」」
この子は本当に何処でそういうことを学んでいるんだ!?
今度,梨央君と二人っきりになった時にでも彼に尋ねてみよう……。
あまり,聞きたくもないが……。
俺は未来の義弟?の成熟さに少し悩むことになったのだった。
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「二人とも,もう少しゆっくりしていけばいいの……。」
早めのお昼をご馳走になり,俺と奈都姫は早々に東条家を出ようとしていた。
実はお昼から別の用事があり,かなり忙しいスケジュールとなっていたのだ。
「おねえちゃん,もういっちゃうの?」
「ごめんなさいね。明日,迎えに来るからいい子にしていてね。」
「うん!」
笑顔を向ける可愛い義妹の頭を奈都姫は撫でると俺は梨央君と向き合った。
「梨央君もまた明日。ところで,彼女さんを連れてきたい理由って何だい?」
俺が奈都姫達に聞こえないように小声で尋ねると梨央君は恥ずかしそうに言った。
「その,シンさんから色々と学ばせてもらえればと。あと,シンさんのご友人に彼女さんがいるって姉さんから聞いてましたので……。」
ふむふむ。明日天野会長や拓人を梨央君に紹介させてあげた方がいいかな。
それから,梨央君。
言ってないが,俺は今彼女がいないからお手本にはならないからね!
……あれ?何か涙が出てきちゃった。
「それじゃ、また明日。」
「シンお兄ちゃん,バイバ~イ。」
梨久ちゃんに手を振られると俺達は東条家を後にしてマンションを降りて行った。
「それで,迎えが来てくれるって本当なの?」
「そのはずなんだが……。」
「風間く~ん!!」
マンションから出て腕時計で時間を見ていると遠くから声が聞えてきた。
そこには,助手席から手を振っている松本さんの姿があった。
「急にごめんなさいね。……あれ?妹さんと千堂さんは?」
「二人は今日は来ませんよ。全員を連れて行かなくてもいいんですよね?」
「う~ん、まあメインは風間君達の顔合わせだけだから特に問題はないと思います。それじゃ,時間もないんで乗ってください。急ぎましょう。」
そう言われると松本さんが乗って来た車に乗り,急いである場所に向かっていた。
俺と同じ選ばれた子供達が待っている,ある場所へ……。
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次回:選ばれた子供達とのお茶会 お楽しみに!
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