第26話 奈都姫達の家族
俺の家でホームパーティーを約束した前日の土曜日。
我が学園は週休2日となっており,学生達は普段の学校の疲れを十分に癒す時間を取っていた。そんな中,俺と奈都姫は二人っきりである場所に向かっていた。
「そういえば,奈都姫の家に行くのっていつ以来だろう……。」
「去年のクリスマス以来じゃない?梨央と梨久にクリスマスプレゼントを用意したから渡したいって言って。……私はとんでもない物を貰ちゃったけどね。」
「前々から欲しいって言ってたからな。乗り心地はどうだ?」
「もう,最高よ!お父さんが無茶苦茶羨ましがっていたから!あれってオーダーメイドでしょう?本当に感謝でしかないわ!」
隣にいる可愛い少女は相棒のことを思い浮かべると,ご機嫌になっていた。
俺が奈都姫に何を送ったかって?残念ながら宝石ではない。
だが,もしかしたら宝石より高価なものかもしれない。
何せ,奈都姫の相棒は銀に頼んで発注してもらった専用のオーダーメイド品だ。
この世に1台しかない物だと思ってもいい。
「そういえば,おじさんは今日も仕事か?」
「そうよ。昨日から帰って来てないって聞いてるわね。」
「なぁ,前言ったことだけどおばさん達も俺が住んでいるマンションに……。」
「シン,それ以上は駄目よ。」
俺が提案したことに奈都姫は首を横に振った。
これ以上は甘えるわけにはいかないという顔をされてしまった。
「今のマンションだっておじさんが用意してくれた場所でしょう?セキュリティも十分過ぎるぐらいだから大丈夫よ。」
「だが,家に居るのっておばさんと梨央君と梨久ちゃんだけだろう?おばさんは奈都姫みたいに腕っぷしが強いわけじゃない。」
「その言い方だと,私が腕っぷしが強い暴力女に聞こえるんですけど?」
ジト目で睨まれてしまった。
そんなつもりで言ったわけではないのだが,どうやら勘違いされたようだ。
やはり,乙女心は難しい……。
奈都姫を宥めながら歩いていると,俺達が目指していた場所まで辿り着いた。
早速エレベータに乗ると,目的地の奈都姫が住んでいたマンションに向かった。
「お土産って菓子折りだけでよかったのか?明日はおばさんは来ないんだろう?」
「シン,気を使い過ぎよ。あまり気を使い過ぎると逆にこっちが困るでしょう?」
「まあ,そうなんだが……。」
自分でも注意しているつもりなんだが,どうしても奈都姫の家族に対してだけは気を使ってしまう傾向があるみたいだ。
やはり,俺自身もあの事件で色々と思うところがあり,再婚したとはいえ,奈都姫の家族には幸せに居て欲しいと思っている。
――ピンポーン
「は~い。どちらさまですか~。」
インターホンを鳴らすと,中から可愛らしい声が聞こえて来た。
「梨久~,帰ったわよ~。開けてくれるかな~?」
インターホン越しに言うと,ドタドタと走ってくる音が聞こえてきた。そして,扉が開くと,中に居た赤い髪のセミロングの女の子が迎えてくれた。
「シンお兄ちゃんだ!いらっしゃい~!」
「おおっと!梨久ちゃんも久しぶりだなぁ。少し大きなったかい?」
俺は満面の笑みを浮かべて抱き着いてきた小さい女の子の頭を撫でると,彼女は嬉しそうに笑った。
この子の名前は
「お義母さんと梨央はどうしたの?」
「んとね。キッチンでおりょうりしてる~。」
俺達は顔を見合わせると,家に上がらせて貰うことにした。
俺達が住んでいるマンションよりは少し狭いが奈都姫達の家族が住むにしては結構な広さがあり,奈都姫や滅多に帰ってこないおじさんのことを考えると広すぎるのでは?と思ってしまった。
「奈都姫~,おかえりなさい。あらぁ,シン君も一緒じゃない!?こんにちわ~。」
「おばさん、こんにちわ。梨央君もこんにちわ。おばさんのお手伝いかい?」
「うん。姉さんがシンさんのお嫁に行ったから僕が家事の手伝いをしているよ。」
「ちょっと,梨央!お嫁って……。」
小さい男にそう言われて奈都姫は顔を真っ赤にしていた。
小学2年生に言われたことであたふたしてどうするんだと俺は肩を竦めた。
しかし,本当に彼は小学2年生なのかといつも思ってしまう。
どうみてもリュウより大人に見えて仕方ないのだ。
俺も昔はあんな大人っぽい感じだったのかなと思うと,,苦笑するしかなかった。
彼の名前は
「そういえば,1つ言い忘れていたかも。」
「言い忘れていた?」
梨央君は手を洗うと,俺の前に来て頭を下げた。
「不器用な所もありますが,自慢の姉です。どうか幸せにして上げてください。」
「梨央!!??」
「あはは,困ったな。」
本当にこの子,小学生か?絶対,中身は俺と同じ高校生だろう?
隣を見ると奈都姫は顔を真っ赤にして頭から湯気が湧き出ている状況であり,未だにキッチンに居るおばさんは俺達を見て微笑ましそうに笑っていた。
「……梨央,お醤油を切らしているんだけど,買ってきてくれないかしら?」
「あれぇ?おかあさん,おしょうゆってきのう……。」
「うん,わかった。梨久,お菓子も買ってあげるから一緒に行っこか?」
「!?は~い!」
梨央君は梨久ちゃんの手を引くと,買い物に出かけて行ってしまった。
子供二人で大丈夫かなと思ったが,梨央君が居るなら大丈夫かなと思った。
「本当にしっかりしていますね。というか,察したのかな?」
「そうでしょう?もっと子供らしくしてほしいんだけど全然そうしてくれなくて。あの歳ならお友達ともっと遊べばいいのに勉強を優先してばかりで……。」
「学校では孤立していませんか?」
「全然よ?むしろ,女の子達から告白ばかりされて疲れるって毎日萎えてるわね。」
「昔の俺かよ!」
俺がそう叫ぶと奈都姫とおばさん,
「……シン君も本当に久しぶりね。去年のクリスマス以来かしら?あと,学園ではいつも奈都姫がお世話になっていて。」
「別に俺は何もしていませんよ。奈都姫は努力していますから必然と皆が寄って来るんでしょう。まあ,俺が原因で色々と言われる時もありますけど……。」
「そこは諦めなさい。イケメンと一緒にいるならそうなって当たり前よ。」
「お義母さん!!それちょっと酷くないかな!!」
今度は俺とおばさんが奈都姫を見て笑ってしまった。
久しぶりに懐かしい気分だなと思ってしまった。
俺の家ではあまり親父や保奈美さんが帰ってこないからこういったやりとりはなくやはり新鮮な感じがして楽しいと思えてしまった。
「……シン君,奈都姫との婚約の件だけど,事情は聞いたわ。」
――ビクッ
俺と奈都姫はその言葉を聞くと,身体を強張らせた。
そう,俺と奈都姫は明日のホームパーティーのお誘いを二人に言うつもりで来たのだが,実はもう1件,梨沙おばさんに重要な話があって来たのだ。
それが,俺と奈都姫との偽装婚約の話だ。
「お義母さん,お父さんにそのことは?」
奈都姫が尋ねるとおばさんは首を横に振った。
やはり言いにくいのか,梨沙おばさんも伝えないようにしてくれたようだ。
だが,俺に取ってはその行動は有難かった。
何故なら,この件で一番ショックを受けるのはおじさんだからだ。
「シン君と奈都姫の事情は理解しているつもりよ?私もあの事件で夫を亡くしたけど
俺はそれを聞くと何も言えなくなってしまった。
あの忌まわしい事件,あの事件で家族を失った加害者達はおじさんに責任を全て追求しようとした。
あの人とは縁を切り,自分達は関係のないはずなのに加害者達はそのことに目を向けようともしなかった。
だが,おじさんは責任感の強い人間だ。
今でもあの事件の原因は自分の責任だと思っているだろう。
まったくといっておじさんは悪くないのに……。
「しんみりとしちゃったわね。少し,別の事でも話しましょうか?二人がどうして婚約することになったのか,とかね。」
「!?お義母さん,その話は追及しないでって言ったでしょう!!」
先程と違い明るい雰囲気になった場を見て俺は苦笑した。
やはり,梨沙おばさんが居てくれたから東条家は明るくなったんだなと思った。
そう思うと,俺も梨央君みたいにしっかりしないとな……。
小学生を見習うのもどうかと思うが……。
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次回:温かい家族に憧れて お楽しみに!
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