第25話 秘密基地!ここがアニメ同好会だ!

「天野会長,今日もそちらに顔を出さずに申し訳ありません。」

『気にしないでいいよ。それに,君だったら数日もあれば準備はできると思っているからね。ただ,明日はできれば参加してほしいかな?そろそろ,体育祭実行委員会とも種目の調整をしないと駄目だからね。よろしくお願いするよ。』

「わかりました。拓人にも伝えておきます。」


 俺は天野会長との電話が終わるとスマホをポケットに入れた。


「会長は何って言ってた?」

「今日は二人とも帰ってくれて構わないだと。悪いな,拓人。会長だけでなくお前や銀にばかり負担をさせることばかりして……。」

「気にするな。それに,元々お前は生徒会に入る気はなかったんだろう?天野会長がお前の実力を知ったからこそ無理やり入れているようなものだからな。だが,生徒会に入ってよかっただろう?」


 親友にそう言われて肩を竦めた。


 俺はもう目立つことは一切しないと決めていた。


 勉強も運動も神童と言われていた時に比べて限りなく力を抜くようにしていた。


 もう二度とあのような事件に巻き込まれないために……。


 だが,そんな俺の力を天野会長は気付いてしまったのだ。


 まさか,チェスの対戦でそれに気付かれるとは俺も思っても見なかった。


「あの人って本当に人を見る目がおかしいだろう?」

「だからこそ,理事長に気に入られて緋凰先輩との恋人関係を認められているんだろう。何せ,あの理事長にチェスの勝負を挑まれて勝った人だ。」


 チェス勝負に勝っただけで認められた。


 普通で考えれば,そんなことだけで孫娘との恋仲を認めるのはおかしいことだ。


 だが,相手は政界や財界に顔が効く百戦錬磨と言われている緋凰家の当主なのだ。


 そして,チェスや将棋と言ったゲームはいわば戦略ゲーム,相手のことを読んで次の一手を考えるゲームだ。


 自分に勝った,僅か二十歳に見たない子供の将来を期待するのは当然のことだ。


「そんな会長にお前は勝ってしまったからな。あれはお前が悪い。」

「自業自得なのはわかっているよ。だけど,会長と出会えたから渚沙さんと出会えて俺の1年生頃の生活は平和だったよ。本当に感謝しかない。」

「……そうか。」


 親友はそれ以上何も口にしなかった。


 これ以上,語らなくても俺の言いたいことは理解してくれている。


 本当に拓人だけじゃなくて俺は友人達に恵まれすぎているな。


「それじゃ,何もなくなったことだし,久しぶりにあそこに顔でも出すか。」

「同好会の方に顔を出すのか?」

「まあな。お前はどうする?あ,そっちは今から真白ちゃんとデートか?」

「ぐっ……。」


 拓人は何も言えなくなった。


 先程,真白ちゃんにやりたいことがあるならはっきりと言ってくれと拓人が言った通り,真白ちゃんは帰りにデートがしたいと拓人にお願いをしてきたのだ。


 流石に言った手前,断ることができず,それを教室の皆の前で確約させられたので1年生の後輩達から黄色い声援を浴びされることになったのだ。


「まあ,二人はデートを楽しんで来いよ。前も言ったが,一線は超えるなよ?」

「何を馬鹿な事を言っているんだ,お前は!!」


 拓人に怒られると俺達はその場で別れた。


 さてと,先に義妹達が行っていると思うから俺も向かいますか。


 俺は保衣美達がいる秘密基地アジトへと向かった。


 ******************************


 ――部室棟


 各部活に割り振られている部室であり,1階と2階が運動部,3階と4階が文化部の部室となっている。


 放送部や吹奏楽部は放送室や音楽室を使っているのでこちらは活動する場所というよりも部活のメンバー達が集まる談話室のようなものである。


 勿論,部室棟内で活動している部活も存在しているが,去年までここはある1つの問題を抱えていたのだ。


 そして,その問題に終止符を打ったのが俺?であり,ここは長期休み前に大改修工事が行われていたのだ。


「お,風間か。今日も同好会の方に用事か?」

「用事というか,義妹達の様子を見にな。部活棟に何か異常はないか?」


 声を掛けて来た野球部の同級生に俺は尋ねた。


「問題が無さ過ぎて逆に怖いぐらいだわ。シャワー室も新しくなっているし,部室の中も広くなって使いやすくなっていて本当に風華様様だよ。ありがとうな。」

「例なら俺じゃなくて銀に言ってくれ。ここの改築費を全額出してくれたのは銀だからな。まあ,言い方が悪いかもしれないが,お前達はおまけだけどな。」

「そのおまけだけでも十分快適だよ。風華にもお礼を言っておいてくれ。」


 そう言い残すと,彼は走り去っていった。


 まったく,銀は恐れられているのか,慕われているのか,よく分からんな。


 そのことに苦笑すると,俺は上の階ではなく地下に続く階段を降りて行った。


 実はこの部室棟,新たに地下1階が増設されており,地下には今まで部室を持てなかった同好会用の部室が存在するのだ。


 上の階の部室棟より部室の中は狭く数も限られているが,今までのことを思うと十分過ぎるぐらいであった。


「え~っと,確かアニメ同好会の部室は……おっと,ここだな。」


 俺は一番奥にあったひと際大きな部屋の扉を開けた。


 扉を開けると部屋の中は薄暗く壁際に置かれている巨大なテレビモニターには現在魔法少女もののアニメが映し出されていた。


 その映像を見ながら中にいたメンバーは高級そうなソファーに座り、お菓子を食べながら感想を言ったり,必死にアニメに食い付いていた。


「あ,風間先輩!?」


 一人の女子生徒がこちらに気付くと,俺は人差し指を口に当てて気にしないでいいというジェスチャーをした。


 彼女は申し訳なさそうに頭を下げ,俺は中にはいるはずの同好会の部長を探した。


 ……どうやら,皆一緒にいるようだな。


,お邪魔するぞ。」


 俺はこの同好会の部長を務めている保衣美に小声でそう言うと,隣に腰掛けた。


「あ,お兄ちゃん!生徒会の方は今日はいいの?」

「休んでも構わないだと。しかし,ここの部室は設備が整い過ぎだろう?」

「銀にぃが色々と手配してくれたからね♪」


 本当に銀は義妹に甘過ぎると思う。


 実はここ部室棟の改造計画の原因を作ったのは目の前にいる保衣美が原因なのだ。


 義妹は根っからのアニメオタクであり,我が学園では自由に同好会を作ることが許可されていると知り,早速アニメ同好会をクラスメイト達と作ったのだ。


 だが,ここで1つの大きな問題が起こった。


 それは,同好会には部室が与えられないということだ。


 そして,去年まで部室棟は今よりも数が少なく,部活同士で部室の取り合いをする状況であり,天野会長の悩みの種でもあったのだ。


「それに終止符を打ったのがお兄ちゃん何だよねぇ。」

「俺は計画を提案しただけできっかけと改造案を出したのはお前と銀だろう。」


 実は義妹が部室が欲しいと何処からか情報を仕入れた銀が新しく保衣美のために部室棟を作ろうとしたのだ。


 そこで俺は,同好会用に地下に部室を新たに設けて部室棟も改装する提案を銀に出したのだ。


 結果,今の部室棟が作られて部活と同好会の連中は大喜び,義妹も大きな部室を手に入れて,尚且つ,生徒会も悩みの種が無くなったことで万々歳となったのだ。


 1つだけ問題があるとすれば,俺の評価が上がったことだ。


「まあ,色々と問題がなくなって本当によかったよ。」

「そうだね。……でも,新しい所へ立てずに今ある所を改装させた理由って本当は私のことを思ってしてくれたんでしょう?」

「まあ,な。」


 実際,あのまま銀が保衣美のために部室を作っていたら部活だけでなく同好会の連中からも批判の声が出ていただろう。


 そして,銀は俺達に歯向かう者は容赦はしない。


 部活のいる全員を退学させたかもしれない。


 そうなれば,一番ショックを受けるのは誰か?答えは明白であった。


 だから,あの時は敢えて俺が自ら動いたんだ。


「……ありがとうね,お兄ちゃん。」

「お礼なら前にも言ったはずだろう?お前が今を楽しめているならそれでいいさ。」

「うん。私はお兄ちゃんのお陰で楽しく生きているよ。」


 そう言うと,保衣美は俺の肩に自分の頭を乗せて来た。


 相変わらず,甘えん坊だなと思いつつ,頭を撫でるとくすぐったそうにしていたが,嫌ではなさそうだった。


「……そろそろクライマックスみたいだぞ。」


 画面には白い服を着た魔法少女が全力で何か魔法を放とうとしている所であり,部室に居た者達は喋るのを止めて画面に釘付けであった。


「……お兄ちゃん,大好きだよ。」

「ん?何か言ったか?」

「ううん,何でも。あ,ジュース取ってもらってもいい?」


 義妹が何か言ったような感じはしたんだが,気の性だったのだろうか?


 とりあえず,言われた通りに飲み物を取ると笑顔でお礼を言われたので俺はまた義妹の頭を撫でた。


 やはり,義妹は可愛い。


 うん,それだけは全力で断言ができた。


「……ほいみん,もっと積極的になればいいのになぁ。」

「天音,私達はあくまで外野よ。二人のことは見守っておきましょう。」


 だが,先程の言葉は近くにいた天音と由美には聞こえており,二人は顔を見合わせると俺と保衣美との関係を奈都姫同様に応援しようと固く誓ったのだった。



 ******************************



 次回:奈都姫の家族 お楽しみに!

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