第24話 事情聴取とコスプレ騒動
「被告人,風間新之助君。何か申し開きすることはありませんか?」
「……何もない,です。」
「よろしい。では,傍聴席の皆さん、発言をどうぞ。」
教壇に立ち,裁判官のような言葉を発しているリュウがそう言うと,周りにいた学生達が一斉に俺に質問をしてきた。
今回は男女問わずに……。
「風間先輩!!千堂先輩の裸を見たって本当何ですか!?」
「風間君!!お姉様と一線を越えたってどういうこと!?詳しく教えて!!」
「風間!!説明しろ!!一体,何があった!?いや,説明してください!!本当に何があったか,教えてください!!」
同級生,下級生,上級生問わず,教室にいる学生達は昨日のリビングで起きた騒動を俺に対して質問の雨を降らせていた。
何故,こんなことになった……。
俺はそう思うと目の前にいるリュウ……ではなく教室の隅っこでこちらを見て笑っている姉御を睨んだ。
その隣では申し訳なさそうにしている奈都姫達がおり,今朝のことを思い出すと,顔を引き攣らせた。
『風間君!!静歌の裸を見たって本当なの!?』
1限目の休み時間,血相を変えた渚沙さんが俺に詰め寄ってきて尋ねた。
『それは何処からの情報何ですか!?』
『何処からって,静歌本人に決まっているでしょう!!あと,奈都姫と瑞穂君からも言質は取っているんだから,言い逃れはできないわよ!!どうなの!?』
静ねぇぇぇぇ!!昨日のこと,一番話してはいけない人に話したでしょう!
しかも,奈都姫もフレディも何で一番教えてはいけない人に教えてしまうんだよ!
というか,フレディは何で知っているんだ!?
まさか,忍者みたいに俺の家の何処かに居たんじゃないだろうな!?
物凄くあり得そうで怖いんだが……。
『『か~ざ~ま~,その話,詳しく教えろ~~~。』』
クラスの男子だけでなく女子達も興味津々な顔で俺の言葉を待ったのだ。
そして,現在。事情聴取という名の質問会が風紀委員会の監視の下で行われることになり,全学年の生徒達が教室に集まり,俺の話を聞こうとしていたのだ。
「さあ,シン!正直に吐いたらどうだ!静歌さんと一線を越えたのか!?」
「何回も言っているだろう!!偶然,風呂上がりで遭遇してしまっただけだと!!お前達が期待しているようなことは一切していないぞ!!」
「「十分,期待する内容だ!!だが,許せん!!」」
一部の男子達が一斉にそう言うと,その場にいた男子達は皆頷いた。
何この結束力?泣きそうになって来るんだけど……。
流石の奈都姫もこの状況を見て俺に申し訳なく思ったのか,こちらを向いて手を合わせてごめんなさい!と謝罪をしていた。
――キーンコーンカーンコーン
「あ,昼休みが終わるわね。はい,事情聴取はここまで!皆は教室に戻るように!戻らない子達は風紀委員会が取り締まるわよ。」
渚沙さんのその言葉を合図に,集まっていた学生達は自分達の教室に戻ると,俺達のクラスメイト達は後ろに下げていた席を戻し始めていた。
「渚沙さん!!何であんなことをしたんですか!!」
「え~,だって興味あるし~。それに,休み時間ごとに色々と聞かれるより一気にした方がいいんじゃないかと思ってね。」
「俺のことを考えてくださいよ!!あと,流石に静ねぇも怒るでしょう!!」
「怒らないわよ?あの子からちゃんと許可はもらっているから。」
マジか……。俺はこの場にいない静ねぇに後で問い詰めてやろうと思った。
まあ,問い詰めたところでのらりくらりと交わされるのは目に見えているが……。
「ところで,その当事者の静ねぇは何処にいるんですか?」
「ほいみんの所よ?関君達も一緒に行っているから何かあったんじゃないかしら?」
静ねぇだけじゃなくて拓人達も一緒に?
穏やかな雰囲気がしない気もするが,放課後になれば様子を見に行ってみるか。
俺は事情聴取のことを頭の隅に忘れると,午後からの授業に集中することにした。
……だが,やはり解せぬ。
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「静ねぇ,何で渚沙さんに教えたんだ?」
「渚沙ちゃんに同棲してどうかなって聞かれたから口が滑って話しちゃった。こういう場合って,保衣美ちゃんがてへぺろって言えばいいって言ってたかな?」
「あいつの言葉を真に受けないでくれ……。それで,拓人。義妹達の所で何か事件でも起きたのか?お前が出向くってことは余程だろう?」
俺は隣で一緒に歩いている拓人を見た。
非常にご立腹な顔だが,保衣美ではなく真白ちゃんの方で何かあったのだろうか?
だが,保衣美の近くで問題ごとが起こるのはあいつ等がいるから余程のことがない限りはあり得ないはずだが……。
「大問題だ!俺はあいつ等のやろうとしていることを許容できん!それに,お前の義妹も何されるか分からない状況なんだぞ!」
「保衣美が?天音,寝屋川,何か聞いていないか?」
「全然。同好会の部室に行っても何も言ってなかったわよ?昨日は同好会の人達と一緒にお菓子食べながらアニメ見ていたから。そだよね,由美?」
「本当に何もなかったわ。長期休み前に起きた部室騒動の件は,銀次郎様が提案した内容に皆納得してくれたから,文句を言う人達はいないはずよ。」
よく一緒にいるこの2人がそう言うなら部室関連の問題じゃないってことか……。
一瞬,あれと同じ問題ならどうしようかと思ったが,少し安堵した。
となると,拓人のこの慌てようは一体……。
そう考えていると,俺達は義妹達の教室である1年F組の教室まで辿り着き,拓人は勢いよく扉を開けた。
「失礼する。真白,いるか?」
「あ,兄さん。それに,先輩達も。」
「あ~,お兄ちゃんだ。それに,拓にぃも。どうしたの?」
俺達は教室に入ると一目散に義妹達がいる机まで来た。
あれ?特に何もなさそうだけど,何かあったのか?
少し気になり考えていると,教室に居た何名かの男子が俺の前に集まって来た。
「お久しぶりです,風間先輩!お元気そうで何よりです!」
「ああ。お前達もいつも悪いな。義妹のことをいつも任せていて。」
「とんでもございません!義妹さんは俺達に取って守るべき存在です!学園での彼女の身辺のことはお任せください!」
暑苦しい後輩の男子生徒達は軍隊の様に俺に敬礼をした。
流石は我が義妹,見事に調教できているな……。
人数が前より増えているような気がするが、1年生の男子達全員を調教するんじゃないだろうな……。
「ところで,義妹と真白ちゃんに何かあったと聞いたんだが……。」
「あ,あのう,風間副会長……。」
眼鏡を掛けた男子生徒が遠慮気味に手を上げた。
この子は確か,保衣美と同じアニメ同好会にいた男子生徒だったな。
一体,どうしたんだろう?
「その,風間さんと関さん何ですけど,コスプレ同好会に勧誘されていて。」
「勧誘?部員の引き抜きか?それは,あまり聞き捨てならないなぁ。」
「いえ,勧誘というか,二人にコスプレを着て写真を撮らせて欲しいと。」
彼の言葉を聞いて合点がいった。
なるほど,拓人が怒るわけだ。
義妹に何かあったなら,俺のスマホに彼等から連絡が行くようになっている。
つまり,連絡が来ないということは義妹は特に気にしていないということだ。
「ちょっといいか?」
「何だ,シン?今は真白と大事な話をしている最中……。」
「真白ちゃんは保衣美とコスプレ写真を撮ることはどう思っているんだい?」
俺がそう言うと拓人は睨んできた。
親友よ,そんなに睨まなくてもいいだろう?
それに,まずは本人達の意思を確認すべきだと俺は思うぞ。
困ったような顔をしている真白ちゃんを見ると,俺と保衣美を交互に見ていた。
「う~ん,それじゃこんなのはどうだ?コスプレ写真を撮るのは構わないが,写真を撮る時は必ず拓人が一緒であること。二人が嫌がること,拓人が許容できない写真は撮らないこと,あと,真白ちゃんの意思は尊重する,これで妥協するのはどうだ?」
「シン!お前の言うことだと……。」
「お前は過保護になり過ぎだ。大切にしたいの分かるが,彼女の意思も優先してあげたらどうだ?兄としても恋人しても。」
拓人の肩を叩くと俺が真白ちゃんを見た。
おそらく,義妹が一緒に取りたいと言って彼女は別に構わないと思ったのだろう。
だが,何処かでその話を聞き付けた親友が何かを勘違いしてコスプレ同好会に抗議をしようとした。
いつもは冷静なくせに
そして,真白ちゃん自身もあまり拓人のことを困らせたくないから自分の気持ちに正直になれないんだろう。
仲はいいが,本当に不器用な兄妹だと思う。
「……はぁ~。お前の好きな通りにして構わない。ただし,何かあったら必ず連絡してくれ。それで,構わないな?」
「兄さん!?」
「それから,真白がやりたことがあるならはっきりと言ってくれ。俺は不器用だからあまりそういうことを察するのは苦手みたいだからな。家族としてもそうだが,お前の……彼氏としても真白には笑っていて欲しい。」
「兄さん…………大好きです♪」
拓人に抱き着くと,真白ちゃんは今まで見たことない笑顔で幸せそうにしていた。
それは親友も同じであり,この二人って恋人の時ってこんな顔をするんだなと俺は珍しい物を見る目で微笑ましく思った。
だが,二人とも……ここ教室ってこと気付いている?
案の定,気付いた二人はそのまま真っ赤になり,教室にいた1年生達に根掘り葉掘り二人の関係を質問される事態になったのは言うまでもなかった。
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次回:秘密基地!ここがアニメ同好会だ! お楽しみに!
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