第22話 皆でパーティーしようぜ!
「おい,シン。本当にどうしたんだ?まさか,テストの結果が悲惨だったのか?」
「お前じゃないんだし,そんなことは断じてない。」
3限目の休み時間,1限目の授業には間に合ったが,俺は非常に凹んでいた。
何で凹んでいるかって?
俺が非常に気にしていたことを恭哉さんに言われたからだ。
『君,鬼畜のシスコンだね……。』
自覚はしているが,世間的から見たそう思われても仕方がないのだろう。
だが,俺と保衣美の関係は偽装婚約なのだ。
ほとぼりが冷めたら婚約は解消するから今だけ人の目を耐えれば問題はない。
それよりも,保奈美さんの言っていたことも気になる。
『シン君,婚約者の一人に保衣美ちゃんを加えてね。この子ったら本当はお兄ちゃんのこと大好きなのに自分では絶対に言わなかったでしょう?』
本当にあれはどういった意味で言ったんだろう?
義妹が俺に好意を抱いていることは知っている。
だが,それは愛情ではなく親愛だ。
家でも過度なスキンシップは多いと思うが,俺はあの子のことを一人の女性として見ることはできない。
あの日,親父と保奈美さんが再婚してからあの子はもう俺に取っては妹でしかなくなったのだから……。
「……黄昏ているな。」
「フレディ?」
机から顔上げると身長2m前後の巨漢が俺を見下ろしていた。
他の人が見たら何て威圧感があるんだろうと思うだろう。
そういえば,生徒会室で素っ気ない態度を取っていたが,フレディは俺と静ねぇの婚約をどう思っているんだろう?
「なあ,フレディ。俺と静ねぇの婚約のことはどう思っているんだ?」
「む?」
珍しく顔を強張らせて俺を見た。
強張らせたといっても元々厳つい顔であるので昔馴染みである俺達にしか表情の変化は分からないだろう。
「姉ちゃんのことが気に入らないのか?」
「そんなことあるわけないだろう?お前だって昔の俺を知っているだろう?」
小学生の頃,奈都姫と付き合う前,俺は静ねぇのことが好きだった。
静ねぇとは保衣美や奈都姫と出会う前から両親を通じて知り合いであり,当時から静ねぇはとても可愛らしく皆の憧れの人であった。
だからこそ,俺は静ねぇに告白しようと思った。
だが,それは叶わなかった。
何故かって?静ねぇには好きな人がいたからだ。
「フレディ,静ねぇが好きな人って……。」
「何度も言うが,俺から言えることは1つだけだ。姉ちゃんはまだ諦めてない。」
小学校低学年の時,静ねぇが同級生の男の子に告白されている所を目撃して好きな人がいると聞いてしまい,俺の初恋はその時に終わってしまった。
だが,未だに静ねぇの好きな人が分からないのだ。
弟であるフレディに何度も話を聞こうとしても絶対に教えないと頑なに口を閉ざされている状況なのだ。
ただ1つだけ,静ねぇは未だにその好きな人のことを諦めていないそうなのだ。
「いい加減,教えてあげてもいいんじゃないか、フレ?それにしても,奈都姫と付き合っていたのに静歌さんに好意を抱いていたわ,義妹ちゃんには過剰に懐かれているわ,俺は羨ましく涙が出てきそうだぜ……。」
「そういえば,お前達,女子から狙われているんだったな?」
「……そんな過去の話,もう忘れてしまったさ。」
ご愁傷様だ,リュウ。お前を受け入れてくれる女子が現れることを祈ってるぞ。
となると,拓人と銀も諦められているから残りはこの巨漢だけのはず……。
「あれ?フレディは何処行った?」
「あいつならもう逃げたぞ。」
「え?どういう……。」
「風間君!!パパ,見掛けてない!?」
クラスの女子達が慌てた顔で数名集まって俺に尋ねて来た。
フレディに用事って,またか……。
「さっきまで一緒に居たけど,何処かへ行ったぞ?」
「また,逃げられたぁぁぁ!!パパって何処の隠密なの!?」
「……皆もあまりしつこくしない方が良いぞ。あの見た目で結構繊細だからな。」
俺がそう言うと女子達は渋々自分の席に戻って行った。
まさか,あの大男にモテ期がやってくるとは……。
まあ,成績も優秀だし,見た目の通り運動神経も異常,家事全般も得意で特に料理の腕前は俺や奈都姫以上。寡黙であるが,義理に熱く他人想いであり,刺繍が趣味の可愛い物好き。おまけに歌とダンスが上手い。
……うん,見た目だけ除けば女子は確実に狙うハイスペック男子だろう。
「ところでさ,引っ越しの方はどうなったんだ?」
「奈都姫と静ねぇの引っ越しは無事に終わったよ。昨日から4人で住んでいる。」
「美少女3人と同棲って羨まし過ぎるだろう!!何,ラッキースケベなイベントでも早速あったのか!?教えろよ,親友!!」
「あるわけないだろう?それに,そんなことがあるなら既に義妹であるだろう?」
一緒に暮らしている保衣美とすらそんなイベントは一度も起きたことがないのだ。
むしろ,その辺は俺が徹底してるので余程のことがなければまずないだろう。
まあ,義妹みたいに過剰なスキンシップをしてくるなら話は別だが,絶対に奈都姫はあり得ないだろう。
静ねぇは……うん,気を付けておこう。よくよく考えたら,静ねぇはまずい。
「シン。ちょっといい?」
「ん?」
俺達の話声が聞こえて来たのか,奈都姫だけでなく天音や寝屋川も集まってきた。
「どうしたんだ?」
「テストも終わったから皆で打ち上げに行かない?って話をしていたのよね。そしたら,奈都姫とお姉様がシンの家に引っ越したって聞いたじゃない?これはお家調査に行かないと!と思ってね。で,打ち上げも兼ねてパーティーしない?」
「ホームパーティーか……。」
確かに外で遊ぶよりもホームパーティーは悪くないと思った。
言い方が悪いかもしれないが,外で打ち上げをしていて奈都姫に嫌味を言う女子達に絡まれるとほぼ確実で問題ごとが起きるだろう。
彼女達は現在,大人しくしているのでこちらから油を注ぐのはどうかと思った。
それなら,俺の家で気軽にパーティーをした方がまだ楽しめそうだな。
「誘うのはいつものメンバーか?」
「そのつもり。他に誘いたい人っているの?」
「う~ん,結構広いから梨央君や梨久ちゃんも呼ぼうかなと。あと,松本さんと同僚の人達も。これからお世話になるかもしれないから交流を深めておいた方がいいかもしれないだろう?」
「相変わらずマメね。私は誰が来てもいいけど奈都姫達はいいの?」
隣にいる奈都姫と寝屋川に尋ねると二人は問題なさそうにした。
となると,あとで松本さん達に連絡入れて銀達にも連絡だな。
「それじゃ,今度の日曜日によろしくね~!」
「風間君,銀次郎様達は私の方から伝えておくから。他の方を任せていいかしら?」
「悪いな,寝屋川。頼む。」
天音と寝屋川は他に言うことがないのか,先に席に戻って行った。
「……ありがとうね,シン。」
「ん?」
「私のことを考えてホームパーティーにしてくれたんでしょう?」
「楽しむなら何事も起こらない方がいいだろう?だけど、ホームパーティーにするなら食事の準備は一緒に頼むぞ?来るのが大所帯になるかもしれないからな。」
「そこは任せておいて!料理は得意だし!」
そう言って,お互いを見ると二人は笑い合った。
だが,俺はまったく気付いていなかったのだ。
その光景を他所に男子達が徐々に近付いて来ていることに……。
「か~ざ~ま~。」
「!?!?」
周囲を見ると珍しく俺を狙う女子達ではなく血に飢えた亡者のように男子達が俺に群がって来た。
無茶苦茶,怖いんだが!?男子達,一体どうしたんだ!?
「さっきの話,本当か!?東条さんだけじゃなくて,我等が千堂さんとまで一緒に暮らし始めたって!?どういう事情か詳しく教えろ!!」
「お,お前等,今日はどうしたんだ?いつも何も言わないの……。」
「シン,男子達は女子に振られまくって意気消沈しているんだ。あんまり自分の惚気話はしない方が良いと思うぞ。」
リュウに言われて俺はやっと理解した。
女子ばかりに気を取られ過ぎていて,男子達のことをすっかり忘れていたのだ。
案の定,昼休みになると弁当を食べる暇がないぐらい男子達から事情聴取という名の質問攻めが行われたのは言うまでもなかった。
だが,俺の事実を知ると午後から男子達は真っ白に燃え尽きていたのだった……。
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次回:同棲生活はドキドキがいっぱい!? お楽しみに!
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