第21話 白腹先輩という名の腹黒先輩

「君が風間新之助君かな?初めまして,俺と同じ男子君。」

「…………えっ?」


 目の前の金髪イケメン男子にそう言われて俺は唖然としてしまった。


 今,何て言った?俺と同じ生贄になった?


 ちょっと待て!?生贄ってことはつまり……。


「……少し,目立ってしまったようだね。少しだけ時間を貰ってもいいかな?」


 彼は近くに合った黒塗りの車を見ると,もう一度こちらを見た。


「……授業があるので,それまでなら。」

「俺は構わないよ。……そこの3人は君の婚約者達かい?」

「まあ,そんな感じだ……。」


 3人を見ると彼は意味深な発言して交互に俺達の顔を見た。


 だが、直ぐに彼は何も言わずに,高級そうな車の中に入って行った。


「皆は先に教室に行っておいてくれ。それと,奈都姫。もしかしたら,HRは出れないかもしれないから師父に伝えておいてくれるか?」

「いいわよ。一人で大丈夫?」

「手荒真似はされないだろう。軽く話をしてくるよ。」


 そう言うと,俺は彼が乗った高級そうな車に乗り込んだ。


 中に入ると内装は豪華に作られており,対面で話ができるようになっていた。


「まずは,初めましてかな。俺は白腹恭哉しろはらきょうや。隣の県にある御薙みなぎ学園の3年生だよ。改めてよろしく。」

「先輩でしたか。先程はため口を聞いてしまい,誠に申し訳……。」

「別に気にしてないから構わないよ。それにしても,聞いていた話と違ったなぁ。」


 俺をジロジロと見ると,目の前の恭哉さんは何故か不思議そうにしていた。


 聞いていた話?どういうことだ?


 それに,俺のことを誰から……。


「俺の担当者から君の話を聞いた限りだと,他人に興味を示さない冷酷無比な性格で邪魔だと思ったものは家の権力を使って容赦なく退学させようとする。それなのに,大の女好きで義理の妹まで手を出すインテリ,身長は2m近くある巨漢だと聞いていたんだが,正門で君のことを聞くと全くの別人で驚いたよ。婚姻活動推進課の人達は情報収集すら真面にできないな連中だったとは呆れるよ。」


 ちょっと待てぇぇぇ!!!誰だよ,それ!?


 どう見ても銀とリュウと拓人とフレディが交わった男子になっているぞ!!


 …………いや,俺も義理の妹に手を出していたな。


 それにしても,婚姻活動推進課の人達をクズってどういうことだ?


「君も担当者から聞いているだろう?婚約者を3人までが限界だと言われているのに6人も取ったとんでもない子供が居たって。」

「そういえば,松本さんにそんなことを……まさか!?」

「それって,俺のことなんだよね。別のことで君も問題あったらしいけど。」


 彼は微笑んでいたが,目の奥はまったく笑っているようには見えなかった。


 むしろ,今でも怒りを露わにしている感じがした。


「父さんから行き成り婚約者を取らなくてはならないと言われて必死で探したら6人になっちゃってね。その6人が全員友達同士で仲がよかったんだけど、俺はその中の1人と友達でね。話していく内に彼女達全員とならいいかなと思ったんだ。だけど,婚姻活動推進課の担当者は俺になんて言ったと思う?」

「確か,恭哉さんの人数は3人までと決められているとか……。」


 俺も松本さんにその話を聞いた時,ある矛盾に気が付いたのだ。


 天野会長が言うには最低人数が決められているだけであってそれ以上は何人取っても大丈夫だと言っていたのだ。


 だが,目の前の恭哉さんは3人までと言われたらしい。


 俺自身はまったく関係ないのでその時は松本さんの話をスルーしていたが,この矛盾は一体何だろうと,後で色々と調べてみた。


 しかし,調べてもまったく駄目な理由が分からないのだ。


「簡単なことだよ。大人達は俺達が子供だからと思って詳しく調べないと思ったんだろう。そんな大人数と婚約する何てあり得ないと踏んだんだろうね。おそらく,あれは将来的な布石で載せていただけに過ぎなかったんだよ。だからこそ,そこに落とし穴があったのに気付いたのは俺達が動き出した後だったんだよ。」

「落とし穴,ですか……。」


 今回選ばれた200名前後の子供達。


 その200名全員が俺みたいな超大金持ちだとは限らないのだ。


 やはり,御上としても色々なサンプルが欲しかったのだろう。


 その選ばれた子供達の中でランク付けは行われており,俺の様に大人数を取ることに問題ない子供もいれば,人数制限が掛けなくてはいけない子供もいたのだ。


「政策を打ち出したのはいいが,色々と不備も見付かり,言い方は悪いかもしれませんが,先輩の家の状況で大人数を婚約するとは思っても見なかったと。」

「そうだね。必死になって見付けたのにそれを話したら担当者に怒られたよ。」


 当時のことを思い出したのか,姉御みたいにこめかみをヒクヒクとさせながら笑っていたが,物凄く怒っているのは俺でも分かった。


「家系を圧迫させるような人数と婚約しても破産させるだけだとね。それに,そんなことになれば,政策に問題があったと大事になってしまう。だから,担当者の方は僕に3人までに減らすように必死に説得をした。けど,こっちも1歩も譲らなかった。そっちが財産を没収すると脅して来たから必死になって探したのに人数が多いから減らしてくれって何様のつもりだよ?調べたら最低人数だけでそれ以上は問題ないじゃないですか?とね。今回のことを政策に批判している女性団体に証拠と一緒にに自分の状況を告発するぞって言ったら血相を変えてね。多額の援助を約束させたんだよ。しかし,吹っ掛けただけなのに新居まで用意してくれるとは思わなかったなぁ。」

「…………。」


 俺は目の前の先輩を見て理解した。


 この人だけは絶対に敵に回しちゃ駄目だ!!


 白腹先輩じゃなくて,どうみても腹黒先輩じゃないか!!


 女性団体に証拠を渡す?俺でもそんな面倒くさいことしないぞ!?


 多分,この人の担当者になった人は松本さんより苦労しているんだろうなと心からご愁傷様と手を合わせた。


「まあ,俺みたいな事例はもうないと思うよ。色々と不備が見つかったのか,早急に俺達の婚約者達を決めさせたり,俺みたいに新居を購入させてごまを擦ったりと反論が出ないようにしているみたいだし。君も担当者に書かされただろう?誓約書類。」

「あれってそういう目的で書かされたんですか……。」

「誓約書にサインをしたのだからこれ以上の反論は一切受け付けませんよってことにしたんだと思うよ。本当にこの政策って何で作ったんだろうね。」


 その点には目の前にいる恭哉さんと同感であった。


 本当にこれ以上,何の問題も起きないよな?


 俺はいい加減,この政策のことを考えることに疲れて来たぞ。


「ところで,恭哉さんはどうして他県にいる俺の所に?3年生ってことはまだ授業があると思うんですが……。」

「ズル休み。」

「ぶっ!?」

「君に会いたいと思っていてね。担当者から俺以外に不祥事があった人達のことを聞いて興味が沸いてね。どんな子達か,気になったんだよ。」


 まあ,俺自身も気になっていたから一度会ってみたいとは思ってた。


 しかし,話を聞くと腹黒いかもしれないが,悪い人には見えない人だとは思った。


 松本さんは問題と言っていたが,彼の状況を考えるとあのような行動に出たのは致し方ないと思ってしまった。


 流石にやり過ぎだと思ったのは置いといて……。


「でも,そこまでするってことは恭哉さんって婚約者達と仲良いんですね。」

「む…………ま,まあ,そうだね。こちらの都合で婚約者になってもらったけど,彼女達との仲は良好だよ。6人とも友人同士だから喧嘩もしないからね。」


 お,腹黒いと思っていたが,意外とこっちは純情か。


 仲も良好で何より。


 やはり,婚約者を複数人選ぶなら仲の良い者同士が一番だと思う。


 それを考えると,奈都姫に最後の婚約者になってもらったのは良かったと思った。


「しかし,君の情報は一体どうなっているんだろうね。先程,俺が言っていた人物とまるで当て嵌まらないとは……。」

「あ~,恭哉さん。1つだけ間違っていない情報が……。」

「ん?」

「インテリではないですが,義妹が婚約者なのは事実でして……。」

「…………。」


 恭哉さんは俺の事をじっと見詰めて何やら考え込んでいたが,俺が一番気にしていた言葉を言われてしまった。


「君,鬼畜のシスコンだね……。」

「ぐあっ!!」


 胸にグサリと突き刺さるとショックで俺は座ったまま項垂れてしまった。


 恭哉さんに言われなくてもそれは理解していますよ?


 でも,もう少し優しく言ってくれてもいいじゃないですか……。


 俺はもう今日1日,部屋でずっと引き篭もっていたいと思ったのだった。



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 次回:皆でパーティーしようぜ!! お楽しみに!

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