第19話 新しいお家と引っ越し作業

「風間様,こちらの荷物はどちらに?」

「それは向こうの洋室にお願いします。今ある物はリビングに置いといてください。あとで,別の物が引き取りに来ますので。」

「かしこまりました。」


 松本さんが帰った後,俺は再び業者の方に指示に出していた。


 流石は銀が派遣してくれた業者,物凄くテキパキと動いてくれていた。


「シンちゃ~ん,おじ様のコレクションはどうしよっか~?」

「それは俺の和室に放り込んでおいてくれ~。あとで選別するから~。」


 正直,親父の部屋にあった骨董品は扱いに困る。


 安い物もあれば,新車を1台買えるほどの物まで存在するのだ。


 あれを俺にどうしろ言うんだ?


 俺は骨董品を集める趣味を持ち合わせていないので非常に困った。


 今度,銀に引き取ってもらおう。


「ダディも思い切ったことをしたねぇ。ここをお兄ちゃんにあげるって。」

「まあ,親父と保奈美さんはほぼ家に帰ってこないからな。」

「ねぇ,おじさん達って今香港にいるんだっけ?この間はイタリアに行っていたとか聞いてた気がするけど……。」


 そう,親父と保奈美さんは日本に戻ってきても直ぐに旅行へ出かけてしまうのだ。


 理由は言うまでもなく生家に接触されたくないからだ。


 あの事件以降,親父のもう一人の弟さんが風華グループの跡を継いだのだが,親父を自分の相談顧問に置こうと必死になっており,親父はそれから逃げているのだ。


「あっちにはもう一切関わりたくないって言ってるからなぁ。俺が関わることは構わないんだが.自分を関わらせるなっていつも言ってるから。」

「叔父さん達っていい人達だと思うんだけどなぁ。血の繋がりのない私にも優しくしてくれるし,お小遣いもいっぱいくれるし……。」


 義妹よ,オジキは兎も角,兄貴が優しいのはお前だけだぞ?


 確かに過保護であるが,兄貴が俺に嫌味を言うのは変わってないからな!


「それにしてもおじさんって本当に凄いわよね。このマンション全部おじさんの所有物なんでしょう?シンでも凄いと思うのに一体どれだけ持っているのよ……。」

「ダディって月数千万ぐらいだっけ?それとも億?」

「俺も詳しく聞いてないな。ただ,親父の場合は本当に持っているだけで滅多に使わないからな。保奈美さんが倹約家だから更に使わなくなったし。」


 頭が痛くなってきたわと,頭を抱えて奈都姫は自分の部屋の様子を見に行った。


 だが,親父だけでなく俺自身もまったくと言って使わないことがほとんどなのだ。


 使うとしても義妹のガチャか,銀の投資金ぐらいなのだが,義妹の方は使うとしても数万か十数万程度であり,銀に関してはほぼリターンが確実なのだ。


 それを知っているからこそお金目当てで近付いてくる女子が一定数いるのだ。


「(だけど,俺は絶対にそういう女性と関わるのは二度とごめんだ。のような人物が俺達みたいな存在に関わるから碌でもないことに走ってしまうんだからな。)」


「お兄ちゃん、今更なんだけどいいの?」

「ん?どうしたんだ,我が愛しの義妹よ?」

「はい!その愛しの義妹から質問です!お兄ちゃんの部屋って和室の方に移動してよかったの?お母さんの部屋は静ねぇが使うけど,お兄ちゃんの部屋ってなっちゃんに譲ってよかったの?なっちゃんも気にしていたから。」


 実は俺のマンション(元親父のマンション)の部屋は4つあり,洋室が3部屋,和室が1部屋となっているのだ。


 そして,今までは和室は親父が使っていたのだが,奈都姫達が引っ越すことになったので俺が和室に移動することになったのだ。


 ん?何で俺が和室に移動するかって?そんなの趣味のために決まっている!


「保衣美ちゃん,シンちゃんは瞑想するのに和室の方が良いんだと思うわよ。」

「あ~,そういうことか。お兄ちゃんって趣味偏ってたね。」


 失敬な!偏っていることは認めるが,人がどんな趣味を持とうが自由だろう!


 お兄ちゃんの趣味を侮辱することは許しませんよ!


 今月はガチャの使う額を少し減らしておこうかしら。


 ……まあ,俺がこんな趣味を持った理由は一応あるんだよな。


「あの事件で俺は結構色々と荒れていたからな。拓人を通じて師父と出会い,心を落ち着ける方法として最初は学んでいただけなのにいつの間にか趣味になっているぐらい没頭しているよ。まあ,最近は忙し過ぎてする暇がないけどな。」

「ふふ,でも今日からは少し落ち着けるんじゃない?」

「まあ,そうだといいがな。さてと,話はこれくらいにして俺達も自室の片づけを終らせようか。夕方までに終わらせないと眠れなくなるぞ。」

「「は~い。」」


 俺の合図と共に保衣美も静ねぇと共に静ねぇの部屋の片づけに向かった。


 さてと,では俺は新しい部屋になった部屋の間取りでも決めようかな。


 前々から自室に和室は欲しかったので少し気分が高揚しているような気がした。


 ******************************


「それでは,我々はこれで引き上げさせてもらいますので!」

「夕方遅くまでありがとうございます。銀には凄く助かったと俺から良く言っておきますので。あと,これ皆さんで食べてください。」


 そう言って静ねぇが作ったお菓子を渡すと業者の皆さんは大そう喜びながら俺達のマンションを後にした。


 それを見送ると,俺は今自分が住んでいる高層マンションを見上げた。


 この地域でも結構有名な高級マンションでもあり,親父も良くこんなところを所持できたよなと思ってしまった。


「何見上げているの,シン?」

「いや,自分で言うのも変だけど,本当にとんでもない所に住んでいるよなと。」

「私は驚くばかりよ。改めてシンと私って本当に釣り合わないんじゃないかって心配になってしまったもの。これから先やっていけるかしら……。」

「……婚約解消したくなったか?」

「まさか。それとこれとは別よ。それに私の方がシンは有難いんでしょう?」


 意地悪ぽく言ったつもりが,逆に俺の思っていることを言われてしまった。


 将来,婚約を解消せずに奈都姫と結婚したら尻に敷かれるなと思ってしまった。


「静ねぇ達はどうしてる?」

「ほいみんと一緒にお隣さんに挨拶してるって。ところで,このマンションに置かれているトレーニングジムって自由に使っていいの?」

「ここに住んでいる住人だったら自由に使っていいぞ。あとで使えるように申請しにいこうか?他にも色々な施設があるんだが,未成年だと入れない所もあるからな。」

「なぁに,厭らしいところじゃないでしょうねぇ?」

「そんなところあってたまるか!バーとかだよ,バー!」


 エレベータに乗り,自宅のある階まで他愛もない話を喋りながら着くと保衣美や静ねぇもちょうど挨拶が終わったのか,家に入る所であった。


 そして,部屋に戻ると俺達はリビングのソファーに座り,最後の重要な取り決めを行う必要があった。


「……家事はどうする?」

「それが一番問題なのよね……。」


 何が問題かって?そんなのは決まっている。男1:女3の同棲だ。


 諸君もそんな状況ならどうなるかよくわかるだろう?


 同棲しているんだから,今更だろう?俺はあくまで健全だ。


 ラッキースケベな展開など決して望んではいない!


 ……最近,そのラッキースケベな出来事があったのはこの際置いておこう。


「とりあえず,料理は俺と奈都姫が1日交代でいいかな?保衣美と静ねぇは家にいるならお手伝いを頼む。」

「イエッサー!」

「任せておいて~。」


 二人は文句も言わず,了承してくれた。


 保衣美は料理ができないとして静ねぇは作らせては駄目だからな。


 間違いなく,3人とも数日後には糖尿病まっしぐらだ。


「じゃあ,洗濯物は私がやろうかな。保衣美ちゃんはゴミ出しとか任せていい?」

「静ねぇ,洗濯物って私じゃなくて大丈夫?お兄ちゃんのもあるけど?」

「シンちゃんのは見慣れているから大丈夫だよ~。」

「何か,男として見られてないのが非常にもやもやする……。」


 俺がそう言うと3人に笑われてしまい,釣られて笑ってしまった。


 まあ,3人とは偽装婚約なのだ。


 今の状況で3人と本気でそういった関係になろうとは思ってもいない。


 今はまだ,このままでいい…………。


「それじゃ,夕食を作ろうかな。何,食べたい?」

「動いたからお肉が食べたいです!」

「この間,ハンバーグ食べたばかりだろう!……静ねぇ,何かある?」

「う~ん,お肉でいいんだけど,さっぱりしたものは食べたいかな……。」

「あ,だったらこんなのはどうかな……。」


 俺は奈都姫の案に乗り,鶏肉を使った南蛮漬けを作ることにした。


 久しぶりに奈都姫の家庭料理を食べれると俺は楽しみにしており,できた料理はどれも非常に美味しく俺だけでなく保衣美や静ねぇもとても満足したのだった。



 ******************************



 次回:婚約者たちとの朝 お楽しみに!




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