第18話 選ばれた子供達は反抗期!?

 俺達は松本さんから聞いた言葉に唖然とした。


 確かに普通で考えると嬉しいことだと思うぞ?


 3人の美少女と一つ屋根の下で暮らせるって何その薔薇色ライフ,いや桃色ライフと言うべきか?


 だが,そんなことは今は置いておこう。


 俺は松本さんが言った言葉に耳を疑うしかなかった。


「それ,本気で言ってます?」

「認めたくないのは分かりますが,事実です。電話でも聞こえていたと思いますが,上から通達が合ったそうです。課長もかなり困惑しておりました。」

「松本さん,先程の話を要約すると私と奈都姫ちゃんがシンちゃんの家で一緒に住まないと駄目でいいんでしょうか?」

「……おっしゃる通りです。」


 保衣美は喜んでおり,静ねぇはニコニコしていたが,俺と奈都姫は頭を抱えた。


 大人達よ……本気でそれを言っているのか?一体,何があった……。


「ちなみに,この話は風間君だけではありません。他の選ばれた全員です。」

「子供達,ねぇ……。」


――婚姻制度


 何度も説明がしつこい気がするが,一定の財産を持つ者は複数の女性を妻に娶らなくてはいけないというとんでもない政策。実は今回のその対象者に選ばれたのは大人達ではなく未成年,要するにお金持ちの子息達なのだ。


 何故,大人が対象者じゃないかって?


 では,君達は既に奥さんや子供がいる人に新しく妻を作って子供を作れと言われたら今の奥さんが容認すると思っているのだろうか?


 間違いなく,家庭崩壊の一歩を踏むことは確実だろう。


「政策自体は既に動いていますが,今はまだ試験段階何でしょう。私の部署もまだ県内に1カ所程度ですし,ここでちゃんと成果を出したいんだと思います。」

「松本さん,その生贄になった子共達って何名ぐらい……。」

「今は試験段階なので200名前後でしょうか?大半が2~3名を婚約者を選ぶように言われていますが,風間君のように自分から数を減らしてくれっていう人はにいませんので。ただ…………。」


 松本さんは眉間にしわを寄せた。折角の美人な顔が台無しだなと思ってしまった。


「風間君でも問題がありましたが,他の所でも色々と問題は起きてます……。」

「お兄ちゃんみたいに、婚約者を取りたくないってこと?」

「いえ,むしろ私はその話を聞くと風間君みたいな人でよかったと思いました。」


 大方予想はされていたが,選ばれた者の中にはとんでもない子達がいたそうだ。


 家の経済面を考えると3名が限界なのにそれ以上の婚約者を娶ろうとする者,政府の圧力を使って他人の恋人を奪おうとする者,酷い場合にはまだ学生の身でありながら一線を越えてしまった者など色々とあるらしい。


 その話を聞くと奈都姫と保衣美だけでなく静ねぇすら引き攣った顔をしていた。


 まあ,思春期の野郎にそんな政策を打ち出したらそうなるよなと俺は思った。


「よく政策を打ち切ろうと思いませんよね?正直,問題の方が多くないですか?」

「はっきり言って多いです。女性の方々から大反論を受けておりますし,お金持ちの男性の一部と言いつつ,今は試験段階で子供達にしか適用していない状況ですから。ただ,もう色々と動いてしまっているので打ち切りは難しいです。例え,子供達が問題を起こしてもなかったことにするほどに……。」


 要するにもうどんな手段を使ってでもこの政策は成功した!と言うことにしなくてはならないということだ。


 あと,今教えてもらったことは機密事項らしく俺達もこれ以上は目を付けられたくないので今回は松本さんに従うことにした。


「つまり,今回の同棲を強制させた理由はある一定の場所に集めて俺達を監視することが目的であって更に監視するために人員を増やして無駄な人件費を使っている状況だと……。脅して命じておきながら問題が起こらないように?」

「そうです。表立っての理由は選出された皆様からの要望が非常に多いためにお答えすることになったということですが……。その変わり,同棲する場所の提供はこちら側が負担して用意するということに。…………本当に上のおっさん達は何考えているのよ!!どうみてもお金の無駄遣いでしょうが!!!」


 荒れてるなぁ……。


 あと,松本さん。それを言ってしまうと,今回の為に作られたその部署にいるあなたもその無駄遣いの一部に入っていること,分かって言ってます?


 奈都姫達も理解したのか,松本さんを見ると乾いた声で笑っていた。


「まあ,下らない理由で申し訳ないんですが……。風間君,今度の日曜日辺りでも引っ越しの準備をお願いしてもいいでしょうか?場所に関してはできるだけそちらの要望を聞くようにしますので……。あと,お高い場所は本当に……。」

「いや,別に場所の方は良いですよ?宛があるので。」

「……えっ?」


 俺にそう言われて松本さんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしまった。


 ******************************


「そういえば,風間君ってお金持ちでしたね。」


 俺の隣で引っ越し業者達の作業を見ていた松本さんはそのことをすっかり忘れていたような顔をしていた。


 まあ,あれだけ荒れていたら忘れるのも仕方ないが……。


 だが、少しすると安堵した表情に変わり俺に頭を下げた。


「風間君,ありがとうございます。正直,住居を提供しろと言われたどうしようかと思っていましたから。他の地区の部署では予算を切り詰めて買わされたところもあるらしいので本当に助かりました。」

「……前々から思っていたんですけど,松本さんの所って俺だけなんですか?」

「いえ,あと6名ほどおりますね。ただ,他の6名の方はお金持ちといっても風間君ほどでもないですし,婚約者を選ぶのも最低人数で大丈夫なんですよ。それに,皆いい子達なのでそこまで問題ごとを起こさないから助かっています。」

「要するに松本さんの所では俺が一番問題児であったと?」

「う……それを言わないで下さいよ!!。」


 申し訳なさそうに叫ぶ彼女を見ると俺は悪戯っぽく笑った。


「ところで,松本さん。選ばれた子供達って全員がとんでもない要求をするわけではないんですよね?実際,その変どうなんですか?」

「全員じゃないですね。先日お話しをした件はまだ3,4件程度です。大半が良い子達ですから。ですが,これ以上問題が増えないとも言い切れません。なので,今回の同棲の件で費用を出すようにしたのは不満の一部を失くすためでもあるんです。」

「不満ですか?」

「ええ。こちらも機密事項で風間君に言ってなかったんですが,風間君のように多くの婚約者を取りたくないという方は一定数いました。自分には好きな人が居るからその子だけで十分だと。ただ,取らない場合は言うまでもなく……。」

「財産のほとんどを没収と……。」

「…………はい。本当に上は何を考えているのか全く理解が出来ません。」


 まあ,最近の御上が色々と迷走しているのは分かる。


 おそらく,あちらは必死なんだろう。


 だが,必死なのはわかるが,俺達のような子供を巻き込むような政策は本当にやめてくれ!そんな事すれば,仕返しの1つぐらい…………あれ?


「松本さん,新居を用意しろって言う要望は結構多いんですか?」

「そこまで多くありませんが,酷い所だととんでもない場所を購入させられたって地域もありますね。そういえば,その方は婚約者を3名までと言っておきながら6名も婚約した方でしたね。担当者の方も減らさせようとしましたが,そちらが婚約しろと言ったんだから援助してくれてもいいでしょうって逆切れされてしまいました。」

「それで仕方なく新居を購入しただけじゃなく援助の方もしていると?」

「……その通りです。」


 考えたくないことを考えてしまった。


 もし,それが本当に出来るなら昔の俺なら間違いなく実行に移すだろう。


 今の俺の状況と担当が松本さんだからやらなかっただけだが……。


「松本さん,はっきりと言わせてもらっていいでしょうか?多分,問題を起こしたことや新居を購入させたことって彼等なりの仕返しだと思いますよ……。」

「えっ?」

「だって,そうでしょう?指定された人数を婚約しないと財産のほとんどを没収される。場合によっては,好きでもない人と一生を過ごさないといけなくなる。そんなことを突き付けられたなら仕返しの1つぐらいしたいと思いません?」

「それって,つまり…………。」

「多分,一番辛い状況にあるのは松本さん達じゃないでしょうか……。」


 俺は能面のような顔で松本さんを見ると彼女は頭を抱えてもうやめたいと泣きそうになっていた。


 まあ、こんなとんでもない政策なんだ。


 彼等も彼等なりに必死に考えて1つでも抵抗をしようとしたんだろう。


 両方から板挟みされている松本さん達はご愁傷様だが・・・。


 まあ,それはあくまで他人事だ。俺のスタイルは変わらない。


 成人するまで3人との婚約を続けてほとぼりが冷めたら婚約を解消する,これに変わりはなかった。


 ただ,松本さん達が少し可哀そうな気がした。


 落ち着いたら課長さん達も連れて何か美味しいご飯でもご馳走しよう……。



 ******************************



 次回:新しいお家と引っ越し作業 お楽しみに!

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