第2章 婚約生活スタート!!

第17話 婚約した?なら,同棲だ!

「その荷物はこっちへ運んでください!あ,それは向こうへ!」


 日曜日,俺が住んでいるマンションは慌ただしく,引っ越し業者の人達が俺の指示した通りにせっせと動いていたのだ。


「ねぇ,シン。本当にいいの?おじ様達に連絡はしているけど……。」

「まあ,大丈夫だろう。それに,どちらかと言えば奈都姫と静ねぇは大丈夫なのか?知り合いとはいえ,思春期の男子の家に一緒に住むってのは?」

「私は別に大丈夫だよ~。お父さんもお母さんも特に問題にしてないから~。」

「私も複雑な気分なのよねぇ……。お父さんは驚いて倒れちゃったし,お義母さんは喜んで娘のことをよろしくお願いしますって言うから。あの子達も居たから偽装婚約って言えなかったからどうしよう……。」


 問題なさそうにしている静ねぇを他所に奈都姫はしゃがみ込むと愚痴を零した。


 言いたいことは分かるよ?でも,文句を言うなら松本さんに言ってくれ。


 松本さんも悪くないかもしれないけど……。


 先日,再び学園に来た松本さんとのやり取りを思い出すと溜息を吐いてしまった。


 ******************************


「風間君,本当にありがとぉぉぉ!!」


 久しぶりに会った松本さんは泣きじゃくって俺の足に抱き着ついて来た。


「課長も物凄く喜んでいたから!!これで首の皮が繋がったって!!」

「わ,わかりましたから落ち着いてください!」


 俺は必死になって足にしがみ付いていた松本さんを落ち着かせると,生徒会室のソファーに座ってもらった。


 どうやら,松本さんの部署でもかなり大変なことがあったようだ。


 彼女の先輩,転勤させられた今回の首謀者のことが上の耳に入ったらしい。


「私達の目の前で課長が物凄く怒られていてね。もし,今回のことが表沙汰になったらどうするんだって。風間君に迷惑を掛けたこともそうだけど,政策自体が潰れることになったらただでは済まされないって言われちゃった……。」

「松本さんの先輩,よく転勤だけで済みましたよね……?」


 話を聞くと松本さんの先輩は結構お偉いさんの一族の者らしく,所謂コネで今の部署に入ったそうだ。


 なので仕事はまったくできないが,注意することもできず,いないものとして扱うしかなかったのだ。


 そんな彼が今回,欲に塗れて事件を起こしたのだ。


「流石に今回はお咎めなしって言うわけには行かず,そういう処分になりました。風間君の生家も言ってきているから,ね。まあ,この話は置いておきましょう!」


 解放されたことが嬉しいのか,話を切り替えて松本さんは机の上に資料を置いた。


「え~っと,風間君の婚約者の3人だけど東条奈都姫さん,風間保衣美さん,千堂静歌さんの3人で間違いないかな?」

「はい,間違いありません。」


 俺は自分の隣に座る奈都姫と保衣美,そして松本さんの隣に座っている静ねぇの3人を見て頷いた。


 奈都姫が3人目の婚約者になると言ってくれて数日後,やっと学園内は俺の婚約騒動から落ち着きを取り戻しつつあった。


 そして,現在,俺達は放課後の生徒会室を借りて松本さんとこれからのことについて打ち合わせをしている最中だった。


「なっちゃんに決まった翌日は凄かったよねぇ。なっちゃんとお兄ちゃんに質問攻めする人達でいっぱいだったから。」

「ほいみんや静ねぇは大丈夫だったの?」

「私は大丈夫だったよ?渚沙ちゃんが一緒に居てくれたから。」

「私も白ちゃんとが居たから何も言われなかったよ?あ~,でも私とお近付になりたいって子達はちょっと増えたかなぁ。」


 なるほど,1年生の子達は路線を変え始めたのか……。


 まあ,男子がほぼ義妹の味方なら仲良くした方が得だと判断したんだろう。


 でも,保衣美って友達結構いなかったか?多分,その子達ってごく少数だろう?


「そういえば,上級生に俺を狙う先輩達って少ないよな?」

「天野君と渚沙ちゃんのことで一度痛い目を見ているからね。多分,今回の件も皆は収まる所に収まったかなって思っているよ。」


 先輩達のほとんどは最初から俺が3人を選ぶことが分かっていたらしい。


 先輩達は話が分かる人達で本当に助かったと思った。


 となると,問題は奈都姫だけか……。


「奈都姫,何か言われてたりしていないか?」

「全然。むしろ傷物になったなら仕方ないって思われて恥ずかしいわよ。まあ,私が知らないところで何か言われているかもしれないけど……。」


 奈都姫が最後の婚約者になったら何か言われることは目に見えていた。


 そこで,天音達は俺に内緒で保健室で奈都姫の下着姿を見てしまった噂を流したのだが,最初は奈都姫が誘惑したのだろうと言われてしまったのだ。


 しかし,渚沙さんが証拠を持っているだけでなく義妹や保健室の先生すら事実だと認めてしまったことで逆に奈都姫を庇護する考えが増えたのだ。


 逆に俺は全男子生徒達から等々あの魅惑のボディに我慢ができなくなったのかと小一時間事情聴取を受けることになってしまった。


「(本当に色々と成長していたよな……。それに,あの下着の色,師父の言っていたことはこういうことだったのか……。)」


 俺は師父が言っていたもう1つの予言を思い出すと笑うしかなかった。


『本日のラッキーカラーは黄色だそうです。』


 確かにラッキーカラーは黄色であった。お陰で俺は婚約者を無事選ぶことができ,奈都姫も一時的だが,俺を狙っていた女子達から何も言われなくなったのだ。万々歳である。…………本当に万々歳であるかは分からないが。


「それで,とりあえず婚約したから俺のやらないといけないことは終わりですか?」

「そうですね。風間君はまだ成人をしていませんので婚約さえして頂ければ問題はないと思います。本当に今回はご迷惑をお掛けしました。」


 最初に来た時と違い,松本さんは丁寧に謝罪をした。


 今回の一件で彼女はかなり色々と学ぶことが出来たらしい。


 今では新入職員でありながら俺の担当もしていることもあって部署内で次席の立ち位置にいるらしいのだ。出世街道まっしぐらであった。


 ――プルルルルルル


 そんな話をしていると,急に彼女のスマホが鳴り出した。


「……あれ?課長からだ。ちょっと出てきますね。」


 そう言うと松本さんは立ち上が部屋の隅で電話を取った。


「お兄ちゃん,婚約したのは良いけど,これからどうするの?」

「わからん。表立っては言ってないが,俺達はだからな。」

「それじゃあ,今まで通りでいいのかしら。奈都姫ちゃんはどう思う?」

「う~ん,困っているのが友達からの質問かな。デートは行ったのか?とか,手を繋いだのか?とか,は,恥ずかしい質問ならキ,キスはしたのかっていう質問も。」


 最後の方は余程恥ずかしかったのか真っ赤な顔で俯くと小声で呟いた。


 奈都姫を応援していることは有難いのだが,あの子達はこちらのことも考えてもう少し配慮というものを考えてほしい。


 こっちだって都合というものがあるんだよ……。


「う~ん,でもいいのかなぁ……。」

「義妹よ,何か気になることがあるならお兄ちゃんに正直に言いなさい。」

「んじゃ,遠慮なく。私とお兄ちゃんって家族だから一緒に住んでいるけどなっちゃんと静ねぇは一緒に暮らさなくていいのかな?一人だけ一緒に住んでいるのも何かおかしいって思われるような気がして。」


 確かに,それは一理ありえる。


 だが,俺達はまだ学生なのだ。


 いくらなんでも思春期の学生同士で同棲させるほど強制するとは到底……。


「ちょっと待ってください,課長!!それ本気で言っているんですか!?」


 話し込んでいると急に松本さんが電話越しで叫んでいた。


 課長さんと話しているって言ってたけどまたトラブルでも起きたのだろうか?


「風間君達はまだ学生ですよ!?そんなの認めちゃっていいんですか!?えっ?上からの指示だって……?何考えているんですか,あのおっさん達は!!」


 物凄く怒った口調で松本さんは課長を怒鳴っていた。


 メンタル強くなったぁと思っていると呆れた顔で松本さんは電話を切り,先程と同じように静ねぇと隣に座った。


「……あのう,松本さん。また何かトラブルが起きましたか?」

「大したことではないですが,トラブルと言えばトラブルです。正直,私は上のやりたいことがもう理解することができません。本当に何でそういう発想ばかり辿り着くのかなぁ……ブツブツ…………。」


 置いてあった紅茶を一気に飲み干すと更に溜息を吐いた。


 かなりご立腹の様子だが,俺達に関係のあることなのにどうして松本さんがそんなに怒っているんだろう?理由が気になって仕方がなかった。


「松本さん,課長さんは何か言ってました?」

「……今朝方,上から連絡が来たそうです。その内容が少し……いえ、かなり問題がありますね。特に学生の身分だと。」

「と、いうと?」

「風間君,婚約者全員と同棲するようにと上から通達がありました。」

「…………はぁっ!?」


 俺は松本さんから聞いたその言葉を聞いて耳を疑うしかなかった。



 ******************************



 次回:選ばれた子供達は反抗期!? お楽しみに!

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