第12話 我等が師父,その名は美髯公!?
「憂鬱だ……。」
朝,真白ちゃんから聞いた話を思い出して俺は非常に憂鬱な気分になっていた。
周りから理由を聞かれたら占いぐらいでそこまで凹むことなの?と言われても不思議ではないだろう。
だが,それは一般論であって拓人と真白ちゃんのお義父さん,俺に取っての師父,あの人だけは別格であった。
「シン、朝ぱっからネガティブオーラ全開だな。保衣美ちゃんに嫌われたのか?」
「悪いがそれはない。まあ,何かあったのは間違いないんだけどな。」
師父のこともそうだが,義妹のことも気になる。
昨日,保奈美さんから電話があってからよそよそしくなっているのだ。
おそらく,保奈美さんに何か言われたことが原因で間違いないだろう。昼休みにでも電話を掛けて聞いてみようと思った。
「それじゃ,何でそんなに悩んでいるんだ?また,占いで最下位でも引いたか?」
「……真白ちゃんから師父の予言を聞かされた。」
「お,おう……。ご愁傷様。」
いつも馬鹿にするリュウも師父の予言と聞くと顔を引き攣らせた。
何せ,あの人の予言は学園内でも有名過ぎるのだ。
朝の登校を正門からではなく裏門から入らせた方がいいと言った日には正門前でバスと車数台の大事故が起き,新築した校舎の一部が近い内に倒壊すると言って調べてみたら施工不良が見つかって危うく大惨事になりかけていたなどこの人は何で先の未来が見えているんだろう?と思うことが多くあったのだ。
恋愛関係でも一度あり,新入生で入学してきた天野会長に君は何れこの学園で最愛の女生徒出会うと言って見事渚沙さんとの関係を当ててしまったのだ。
「本当に何者なんだろうな。いい先生だとは思うんだけど,見た目があれだろう?占い師というよりもプロレスラー?いや,武人?」
「俺も未だにあのギャップは慣れん。それと,その本人が来たみたいだぞ。」
俺が教室の扉の前を見て言うとちょうど担任の先生が教室に入って来たみたいだ。
「諸君,おはよう!それでは,朝礼を始めるぞ!」
担任の先生がそう言うと,教室に居た生徒達は皆急いで自分の席に着き始めて先生に挨拶をした。
そして,教室を見渡して状況を確認すると,小さいリボンで結んでいた長い髭を撫でながら先生はにこやかに笑った。
「今日も欠席者はなしだな。関心関心。それでは連絡事項を始める前に1つ注意事項だ。今日は北西側に気を付けるように。行っても構わないが,私は責任は負わん。」
先生がそう言うと教室の皆は笑い出し,男子生徒の一人が勢いよく手を挙げた。
「将軍!質問です!俺,告白するんですが,今日って大丈夫なんでしょうか!」
「ほう,青春しているな。あとで個人的に教えるから私の所まで来なさい。」
「ありがとうございます!!」
お前一体誰に告白するんだ!?と手を挙げた男子生徒は他の男子生徒達に尋問されており,その光景を見ると俺は苦笑してしまった。
本当にあの人は男子生徒達から人望もあるよなぁ。
あの見た目で女子達からも人気があるのは凄いと思うが……。
「では,諸君!今日も連絡事項が多いから早く終わらせるぞ!」
「「は~い。」」
俺もクラスメイト達と一緒にきちんと先生の連絡事項を聞こうと思った。
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「新之助,少しいいか?」
先程の男子生徒と話を終えたのか,先生が授業の準備をしていた俺を呼んだ。
「師父,どうしました?」
俺を苗字ではなく,愛称でもなく呼ぶのは親父とこの人ぐらいだろう。
一体何だろうと思いつつ,まさか登校中に真白ちゃんが言っていたことじゃないだろうな!?と悪い予感をしながら廊下に出た先生について行った。
「聞いたぞ。千堂を婚約者にしたそうだな。」
「もう広まっているんですか,その話!?」
「はっはっはっ,心配するな!まだ,教職員の一部しか知らされていない。あと二人が決まっていないことは天野君から教えてもらったがな。」
俺は目の前にいる眼鏡を掛けた筋肉質の先生を訝しい目で見た。
相変わらず、長い髭を撫でながら先生は楽しそうに俺を見ていた。
この人の名前は
それ以外にも色々と有名な人で……。
「師父,何で真白ちゃんにあんなこと教えたんですか!?俺は朝から憂鬱な気分何ですよ!!間違っていたって言ってくださいよ!」
実はこの先生,風水とか占星術とかそっち方面の色々なことに手を付けており,良く当たることで有名なのだ。
特に,教職員含む学園の女子達は必至で運命の人を探したいのか,今でも師父に懇願してもいるらしいと静ねぇからも聞いたことがあった。
「はっはっはっ,昨日のお前のことを聞いて色々と試したが,どれをやっても状況は変わらなかったぞ。今日は大人しくしておくんだな。それとも,娘に教えた忠告を無視して何かしてしまったのか?」
「ギクッ……。」
実は2つほど懸念があった。
まず,朝言っていた真白ちゃんの口は禍の元,俺は朝に拓人と真白ちゃんとの関係を拓人に冗談で煽っていたのだ。
そして,俺には義妹の保衣美という存在がおり,現在彼女は保奈美さんから何かを言われて様子がおかしいのだ。
そして,2点目。昨日,クラスメイトの女子と昼飯を約束したのだが,その場所が西門近くに噴水が置かれている少し広い場所,北西側にある場所なのだ。
「……見事に私の言ったことがピンポイントで当て嵌まっているな。」
「言わないでくださいよ!!俺だって無茶苦茶萎えているんですから!!」
呆れた顔で言われてもそれを聞いたのって2つともやってしまった後なんですよ!もっと早く教えてくださいよ!俺は心の中で師父に抗議した。
「ところで,あとの二人はどうするんだ?一人は東条にするつもりなんだろう?まさか,彼女は加えないつもりなのか?」
真面目な顔で尋ねられると俺は困ってしまった。
実は師父も俺と同様に事件で奥さんを亡くしているのだ。
だが,その奥さんが自分の命を懸けて守ったのが,両親を目の前で殺された拓人と真白ちゃんなのだ。
事件後、師父は何かの運命だと思い,見ず知らずの二人を養子に迎えたのだ。
要するにこの人はあの事件の真相を知っており,奈都姫の状況を考えて俺に忠告をしてくれているのだ。
「あの事件で東条は何も悪くない。だが,被害者の家族には未だに東条の家族を許さない者達はいるだろう。はっきりと言わせてもらうが,学園内にあの話が広まれば,お前が守らない限り,彼女の状況は危うくなるぞ?今は別の意味で危ないがな。」
「……先生達は何て言ってますか?」
「心配するな。私達は東条の味方だ。ただ,私達が結局動けるのは何か起きた後だ。それだと遅いとは分かっているが,大人の事情だ。すまんな。」
そう言って俺の肩を叩くと自分の本当にやりたいことをしなさいと言われて師父は立ち去って行った。
その後ろ姿を見ると俺は片手で頭を抱えた。
「師父の言いたいことは分かってるさ。俺だって本当はあいつのことを……。」
皆には終わったことだと言っているが,俺はかなり悩んでいたのだ。
小学生のあの時に俺は奈都姫と確かに別れた。
だが,未練がなかったのかと言われると嘘だ。
正直に言えば,今でも奈都姫との関係が元に戻るなら戻っていいとも思っている。
小学生からの恋を引き摺っているのはどうなんだ?と言われそうだが,それでも俺はまだあいつのことを…………。
「そういえば,偽装婚約のことを奈都姫はどう思っているんだろうな。期限は残り2日しかないんだし,後で少し聞いてみるとするか。」
色々と考えることは多いが,まずは目の前のことに何とかしようと考えた。
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次回:残りの席は争奪戦!? お楽しみに!
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