第13話 残りの席は争奪戦!?

「なあ,リュウ。言いたいことがあるんだが,聞いていいか?」

「何だ,親友。俺は嬉しい誤算だと思っているが,正直に言えば帰りたい。」


 目の前の状況を見てリュウは嬉しい反面,戸惑っていたのだ。


 いや,の目的を知っているからこそ,早急にお帰りになりたいと本心で思ったのだ。


「この人数は何だよ!?4人って聞いてたのに10倍はいるじゃないか!?」


 目の前の噴水広場を見ると女子,女子,女子と昨日誘いに来た4人だけでなく他のクラスの女子達も噴水広場に集まってお弁当を食べながらこちらを見ていた。


「なあ,これってどういうこと?」

「風間君,ごめん!!他のクラスの子達に後を付けられていたみたいで……。」


 顔を引き攣っていた俺に変わって昨日約束した女子にリュウが尋ねて聞くと,他のクラスの女子達に尾行されて徐々に皆が集まって来たようなのだ。


「風間君!!昨日の話の続きだけど婚約者って誰になったの!?」

「3人でしょう!!どうして,3人だけなのよ!!あの制度って最低人数だけ決められていてそれ以上は何人でもいいはずでしょう!?」


 この子達,良く調べているなぁ。


 その労力を他のことに使った方が有意義なのでは?と思ってしまった。


 だが,実際は決まっているのはまだ一人なのだ。


 仕方がないので,昨日会長と決めた手筈通りに彼女達に伝えることにした。


「悪いがそれは教えることはできない。俺に婚約者ができたとなると色々と周りで問題が起こるからな。名前はもう少し先まで言えないんだよ。」

「え~,教えてくれてもいいじゃない!本当はまだ決まってないんじゃ……。」

「銀の家が関わっていると言えば,分かってくれるかな?」

「う……。」


 それを聞くと彼女達は黙り込んでしまった。


 銀の家が関わる,要するにそれは跡継ぎの問題が関わってくるということだ。


 彼女達も銀の実家のことは知っており,危険を犯してまで銀の実家に歯向かおうとは考えないのだ。


 ……いや,違うな。


 間違いなく消されることは分かっているから恐ろしくて手が出せないのだ。


「じゃあ,この学園にいるかどうかだけ教えてくれてもいいかな?」

「あ~,それなら別に構わないぞ。この学園にいる。」


 それを聞くと女子達は誰なの!?と顔を近付けて必死に訪ねてきた。


 君達,俺が先程言ったこと覚えている?教えられてないって言ったよね?


 彼女達の必死さに俺は苦笑を隠せずにいた。


 あと,リュウ。そんな羨ましそうな目で俺を見ないでくれるか?


 正直,お前に変わってもらえるなら変わってほしいんだぞ,こっちは!!


「……あれ?あれって,風間君の妹さんじゃない?」

「えっ?保衣美?」


 女子に言われた方が見るとキョロキョロと誰かを探している義妹と護衛に付いていたフレディ,そして,珍しく奈都姫が一緒に居たのだ。


 誰かを探しているのかな?と思っていると,こちらに気付いたのか,義妹達は俺の方に走って近付いてきた。


「シン,ここに居たのね。探したんだから。」


 その言葉を聞くと,集まっていた女子達は奈都姫をマジマジと見た。


 一部の女子達は彼女を睨んでいたが,その視線を無視して俺は彼女に尋ねた。


「俺を探していた?」

「私じゃなくてほいみんよ。シンに話したいことがあるって。」

「……保衣美,どうした?」


 朝から様子のおかしかった義妹に尋ねるとモジモジしながら困ったような顔をしていたのだ。


 正直……可愛かった。


 そして,それを思っていたのは俺だけではなかった。


「風間君の妹さんってやっぱり可愛いよね。もしかして,妹さんなら風間君の婚約者のことを知っているんじゃないかな……。」

「風間君が無理でも妹さんと仲良くなればまだチャンスはあるかも……。」


 君達,義妹を篭絡しようとするのは止めなさい。


 それをするなら俺も許さないが、親父と保奈美さんが絶対に許さないぞ?


 あの二人って義妹のことになると本当に手に負えないぐらい怒るからな。


 特に保奈美さんの方が……。


「え~っと,今って時間あるかな?ちょっと電話を掛けて欲しいんだけど……。」

「電話?誰に?」

「マミィに……。さっきからずっとお兄ちゃんは何処だって聞いてるから。」


 保奈美さんが保衣美じゃなくて俺に用事?何だろう?


 俺は自分のスマホを見ると保奈美さんの電話番号を探し出し,電話を掛けた。


 俺に直接電話を掛けてくればいいのに何故保衣美を通して電話を掛けて来るんだろうと思った。


「……もしもし,保奈美さん?ご無沙汰してます。」

『あ~、やっと見付かったのね。シン君,お久しぶり。元気にしていた?』

「元気にしてますよ?それで,どうしたんです?この間,親父と何やら衝突したとも聞きましたけど,それのことでしょうか?」

『半分正解よ。ちょっと,保衣美ちゃんにも聞こえるようにしてもらえるかしら?』


 俺は保奈美さんに言われた通りにスピーカーモードにすると,その場に居る全員に声が聞こえるようにした。


 だが,このやり方が間違っていたと,後で後悔した。


『保衣美ちゃん,昨日も言ったことだけどシン君の婚約者の一人に保衣美ちゃんを入れてもらうからそのつもりでいてね。良いわね,シン君?』

「……はい?」


 保奈美さん,今,何て言った?俺の婚約者の一人に義妹を加える?


 俺は色々と思考を巡らせて保奈美さんの意図を考えた。


 だが,そんなことよりも直ぐに思い浮かんだ答えは1つだけであった。


「保奈美さぁぁぁん!?!?何でそれを言っちゃうんですかぁぁぁ!?!?」

『何でって,もう既には決まっているんでしょう?これは早急に連絡を入れないと保衣美ちゃんの枠が埋まっちゃうと思って連絡したわけ。この子ったら本当はお兄ちゃんのことが大好きなのに自分では絶対に言わなかったでしょう?』

「お母さん!!その話はしないでって言ったのに!!!」


 保衣美が俺のことを好き?それは兄としてか?


 いや,そんなことよりも今は現在の状況を何とかしないと駄目だ。


 チラッと女子達を見ると皆ヒソヒソと話しながらこちらの状況を伺っていたのだ。


 正直言うと,これは非常にまずい状況だ!!


『あと,新太郎さんにはきっちりとお話して許可を頂いているから何も心配はしないでね。松本さん?だったかしら。彼女の方にも連絡を入れているからあとの1人は頑張って探すのよ。あと,保衣美ちゃんを泣かす子だったら……生まれて来たことを後悔させるからそのつもりでいなさい。それじゃ,二人ともまたね~。』

「保奈美さん,ちょっと……!?」


 最後に物騒なことを言って電話を切らないでくれよ!!


 というか,松本さんには既に保衣美を婚約者に加えることを連絡したのかな?


 あとで直接聞いてみよう……。


「相変わらずな性格ね,保奈美さんって。」

「ま,まあな。保衣美はよかったのか?義理とはいえ俺の妹だろう?」

「ふぇっ!?ま,まあ,マミィがああ言ったんだから,私は別に構わない,よ?お兄ちゃんがよければ,だけど!それに……。」


 チョイチョイと手招きすると,俺は保衣美に顔を近付けた。


「お兄ちゃんの婚約って一応偽装何でしょう?お母さんもそのことを知っているはずだから私を推薦したんじゃないかな?」

「……確かに,松本さんと繋がりがあるならそこら辺も聞いているはずだよな。」


 となると,保衣美が二人目になるのは特に問題がないかなと思った。


 しかし,師父の予言通りになったのは何か……解せぬ。


 そして,もう1つ解せぬことが目の前の状況だ。


『あと,今日は北西が駄目らしいです。』


 真白ちゃんが言った師父のお言葉,まさに目の前は最悪な状況が広がっていた。


「風間君どういうこと!?3人は既に決まっていたんじゃないの!?」

「妹さんが入っちゃったのは仕方がないとして残り1人は空いてるんだよね?だったら,私でもいいのかな?私って結構尽くすタイプだよ?」

「何一人だけ抜け駆けしているのよ!最後の席は私が入るんだからね!」


 最早,友達同士であろうと関係なく最後の席は自分が頂くんだと言って苛烈な争いに発展しようとなっており,流石の俺もこれはまずいと思った。


 だが,俺が動く前に奈都姫が彼女達を静止しようと動いた。


「その辺にしなさい!あまり騒ぎ出すと風紀委員として取り締まるわよ!」


 流石の彼女達も奈都姫に苦言を言う子達じゃないので大丈夫だと俺は思っていたが,その考えがどうやら甘かったみたいだ。


「そう言って,東条さん!最後の席ってあなたが取るつもりなんでしょう!?」

「はいぃぃ!?」

「絶対そうよ!風間君といつも仲いいもの!東条さんも抜け駆けは許さないから!」

「そ,そんなことは……。」


 彼女達に色々と言われて奈都姫は取り締まれる状況じゃなくなり,先程よりもここは慌ただしくなってしまった。


 まずいな,これは本当に止めないと先生達まで出て来るかもしれないな。


 そう思うと俺とリュウは奈都姫達と一緒に来ていたフレディと共に彼女達を押さえようと動こうとした。


「……これは何の騒ぎ?」

「「……えっ?」」


 俺だけでなく女子達もここには絶対来ないはずの男子生徒の声を聞いてそちらを振り向いてしまった。


 そこには,小学生ぐらいの小柄な男子生徒が背後にメイドを2人連れてこちらを興味無さそうに見ていたのだった。



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 次回:風華家の御曹司 お楽しみに!

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