第11話 風間兄妹と関兄妹
昨日の婚約騒動(まだ解決していないが!)から一夜明けて,俺は残り2人の婚約者を誰にしようか考えていた。
俺が成人したら婚約を解消し,尚且つ,俺の財産を食い潰さない存在。
所謂,偽装婚約だ。
その一人に静ねぇが立候補してくれたのは本当に助かったと思った。
この調子で残り二人も順調に決めていけば,俺はまた安らかな学園生活を送ることができるはずだ。
その,はずなんだが……。
「……。」
おかしい……。
昨日の夜からずっと義妹の様子がおかしい。
まさか,静ねぇが婚約者の一人になったことが気に入らないのだろうか?
……いや,その話をした直後は,
『静ねぇと婚約した!?そのまま結婚しちゃえYO!』
と,かなりハイテンションに嬉しそうにしていた。
義妹も静ねぇを本当の姉の様に慕っており,俺自身も静ねぇならまあそうなっても悪くないかとは思っている。
しかし,そうなるとおかしくなったのはあれからだ。
昨日の夕食後に掛かってきた,あの電話からだ。
******************************
――プルルルルルル
『保衣美,電話取ってくれないか?』
『は~い!もしもし……あ!?マミィ!?元気にしてる!?』
どうやら電話を掛けて来たのは保奈美さんらしい。
珍しいなぁ。家の方に電話を掛けて来るなんて。
いつもはスマホの方に掛けて来るのにどうしたんだろう?
『うん!こっちは元気にしているよ~!……えっ?お兄ちゃん?今キッチンで洗い物しているけど……はいぃぃぃ!?!?』
急に義妹がびっくりしたような声を上げて俺もビクッとしてしまった。
何事だ!?保奈美さんがまた現地のマフィアと衝突したのか!?
それとも,また変な事件に自分から首を突っ込んだとかじゃないだろうな……。
色々と気になり,洗い物を止めると,未だに電話をしていた義妹の様子を伺った。
『お,お母さん!?確かにそうだけど,いきなり言われても……。えっ!?お父さんには既に了承を得た!?ど,どういうこと!?』
お母さん,お父さん。
保衣美は普段,親父や保奈美さんのことはダディ,マミィと呼んでいるのだ。
だが,驚いた時や寂しい時があった時は二人のことを普通にお父さんやお母さんと呼ぶのだ。この間は二人のことが心配でそう言っていたが,今回は何かびっくりするようなことがあったのだろう。
『保衣美,保奈美さんは何て?』
『お,お兄ちゃん!?え~っと……あ,お母さん!?まだ話は終わって……切られちゃった……。』
どうやら,保衣美に何か連絡があったのだろう。
要件を言い終わると,さっさと電話を切られてしまったらしい。
『何の電話だったんだ?お前が保奈美さんをそう呼ぶってことは結構驚くことだったんだろう?』
『ふぇ!?え~っと,まあ,うん。……さあ~って,漫画の続き続き。』
電話のことは何も言わず,保衣美は俺の横を通り過ぎるといつもの態度でソファーに座り,再び漫画を読み始めた。
一体,何の電話だったのだろうか?
******************************
「(昨日はいつも通りだったが,今朝起きた時からずっとこんな調子だ。本当にどうしたんだろう?)」
隣ではいつもと違い,何やら考え込んでいる義妹が心配になった。
顔も少し赤いようだが,まさか熱でもあるのだろうか?
「保衣美,顔が赤いけど熱でもあるんじゃないだろうな?」
「えっ?そ,そんなことはないよ?私は風邪を今まで引いたことはないぐらい頑丈なのはお兄ちゃんも知っているでしょう?心配性だな~,お兄ちゃんのシスコン♪」
いつも通りおどけて言う義妹を見て普通の人は気のせいだろうと思うだろう。
だが,俺は違った。
こいつワザとおどけて言っているな……。
俺は右手で義妹の額に手を当てると左手で自分の額に当てて熱がないか確かめた。
「……熱はなさそうだな。ん?どうした?」
何故か目の前には先ほどよりも顔を真っ赤にして何かごにょごにょと言っている可愛らしい義妹が俯いていた。
……本当に何があったんだ?
「朝の登校中に何をやっているんだ,シン。」
「ん?」
急に声を掛けられて誰だろうと振り向くとそこには真白ちゃんと鋭い目付きで眼鏡を掛けたイケメン男子が呆れた顔でこちらを見ていた。
だが,彼はその真白ちゃんと手を繋いでいたのだ。
その光景に俺は苦笑すると,そのイケメンの名前を呼んだ。
「朝から仲睦まじいだな,拓人。真白ちゃんもおはよう。」
「おはようございます,先輩。あれ?ほいみん,顔赤いけど,大丈夫?」
イケメン男子から手を離すと彼女は心配そうに義妹に声を掛けて話を聞いていた。
「……拓人,昨日生徒会室に来なかったけど何していたんだ?」
「事情を良く考えろ。昨日の一件,お前だけが話を追及されると思っていたのか?」
親友のその言葉を聞いて俺は片手で頭を抱えた。
あいつ,昨日何も言ってなかったけど向こうにも女子達が行ってたんだなぁ……。
まあ,クラスの男子達が義妹のことを守っていたから大丈夫だったんだろう。
あと,こいつも……。
「悪いな,拓人。手間を掛けさせた。」
「気にするな。お前は自分のことで手一杯だっただろう?」
何食わぬ顔でそう言うと彼は少し微笑んだ。
お前って知り合い意外にその笑みを絶対に見せないよな?
まあ,見せたら女子達が卒倒すると思うけど……。
俺は肩を竦めると,拓人と同じように未だに話し込んでいるシスターズを見た。
彼の名前は
「しかし,お前も堂々とするようになったな。もう,隠す気もしないのか?」
「学園には義父も居るからな。俺達が義理の兄妹だと言うことは既に皆も知っていることだ。別に隠す必要もないだろうと言われてしまった。」
「師父も相変わらずだな。よかったじゃないか,シスコン。堂々とできて。」
「お前には言われたくないな,シスコン。お前も俺と大差ないだろう?」
「いや,俺はお前みたいに義妹に手を出す度胸は……。」
「っ……いい加減にしろ!何度も言うが,俺は……。」
「兄さん,どうしたんですか?」
行き成り怒鳴った義兄を,心配した顔で真白ちゃんが顔を覗き込んだ。
その可愛らしい顔を見ると直ぐに怒るのやめて頭を撫でると大丈夫だと言った。
「お前って本当に真白ちゃんには激甘だなぁ。一応,学園では不純異性交遊は気を付けろよ?それともしちゃう?不純異性交遊?」
「シン,いい加減に……。」
「あのう,先輩。」
拓人が何か言う前に真白ちゃんが遠慮気味に口を開いた。
……流石にやり過ぎたかな?
拓人は兎も角,真白ちゃんには悪いことをしたと思い謝罪しようとした。
だが,彼女から言われた次の言葉に,俺は間抜けに答えてしまった。
「今日は悪口は言わない方が良いと思いますよ?お義父さんも言ってましたから。」
「……はい?」
お義父さん……。
それってつまり久しぶりにあれをしたということだ。
それを聞くと,急に冷や汗を多く掻き,隣にいた拓人を見た。
彼も何故か真白ちゃんの言葉を聞くと押し黙っていたのだ。
えっ?師父が久しぶりに占ったの?怖いんだけど!?
「……真白ちゃん,師父は何て?」
「口は禍の元,その禍は己に還るだろうって言ってました。あと,今日は北西が駄目で開運カラーは黄色って言ってましたよ?」
「マジでやめて!!あの人の占いってほぼ100%当たるんだから!!!」
俺はその場で絶叫してしまった。
今日,何もなければいいんだが……。
だが,その思いは不運にも昨日と同じようにお昼休みに潰えたのだった。
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次回:我等が師父,その名は美髯公!? お楽しみに!
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