第4話 もう一人の幼馴染は学園のお姉様

静姉しずねえ!?」

「シンちゃん,おはよう♪」


 目の前の茶髪の髪を靡かせたお姉さんは俺達を見て微笑んだ。


静姉しずねえだ!おはよう~!」

「おはようございます,静歌しずか先輩」

「うふふ,保衣美ほいみちゃんも真白ましろちゃんもおはよう♪」


 義妹達も挨拶すると3人で軽く談笑を始め出した。


 彼女は千堂静歌せんどうしずか――俺の幼馴染の一人であり,1つ上の先輩だ。

 そして,親父や俺が所持している不動産の顧問税理士の娘さんでもある。


 ほわほわした天然な人だが,一度決めたら梃でも動かない頑固な人物でもあり,俺はよく振り回されたりもしていた。


静姉しずねえ,朝からどうしたんだ?それに,彼女達は一体……」

「う~ん,ちょっと困ったことになっちゃってね」


 ――困ったこと……静姉しずねえの顔を見ると何か言いたげな表情をしており、これは何かあるなと悟った。


「シンちゃん,少しだけいいかな?手伝ってほしいことがあるんだけど……」

「俺は大丈夫だぞ。だけど,彼女達はどうする?」


 おそらく,ここから逃げる口実だろとは思ったが,チラッと女子達の方を見ると何か言いたそうに静姉しずねえを見ていた。


「ごめんね,皆。シンちゃんを連れて行くけどいいかな?」

,一人だけずるいですよ!私達も風間かざま君とお話があるのに!」

「いくらお姉様でも今回は譲りませんよ!私達の未来に関わることになるかもしれませんから!」


 ――お姉様……静姉しずねえは学園の後輩達からそう呼ばれているのだ。


 何処の乙女ゲーだよと言われそうだが,この学園には静姉しずねえともう一人お姉様が存在しているのだ。


 そして,俺自身も彼女達とは別の意味で静姉しずねえを本当の姉のように慕っていた。


「(母親を亡くした時に義妹の前では泣かないようにしていた俺を静姉しずねえはずっと傍に居て俺を慰めてくれた。静姉しずねえの前だけは弱い自分をさらけ出していたんだ。俺が唯一甘えていた存在,それが他でもない静姉しずねえだからな)」


 俺の周りにいた女子生徒達から色々と言われて微笑んでいる静姉しずねえを見て苦笑した。


 ――それよりもだ……彼女達がさっき言ったことはどういうことだ?


 未来に関わる?


 その言葉に疑問を思っていると静姉しずねえは珍しく溜息を吐いた。


「困ったわねぇ。渚沙ちゃんに頼まれて呼びに来たんだけど……」

「「緋凰ひおう先輩が!?」」

「「渚沙なぎさお姉様が!?」」


 それを聞いた瞬間,女子達は冷や汗を掻いてお互いを見合わせた。


 やっぱり,渚沙なぎささんのことは未だに怖いんだな。


 まあ,俺も未だにのことは怖いけど……。


 横に居た静姉しずねえを見ると微笑んでおり,俺も逆らっては駄目だなと肩を竦めた。


「とりあえず,行こっか。でも,保衣美ほいみ達はどうすれば――」

「それなら大丈夫よ……瑞穂みずほちゃ~ん」


 彼女が校内に向かって名前を呼ぶと何処に隠れていたのか,身長2m近くある,とてもじゃないが高校生に見えない筋肉質の男子生徒が女子達の前に現れた。


だ!」

「えっ!?今度は何処に隠れてたの!?」


 女子生徒達は彼を見ても驚かず,何故かその男子生徒を見てパパと呼んでいた。


「パパ~,おはよう!」

「パパさん,おはようございます」


 義妹もその男子生徒を見ると手を振り,真白ましろちゃんも丁寧にお辞儀をした。


 ――だが,その男子生徒はその言葉を聞くと大きな溜息を吐いた。


「俺はまだ16歳なんだが?」

「え~,パパって呼び方じゃダメなの~?」

「私もパパさんって呼び方がしっくりくるような……」


 ムスッと文句を言う義妹や少し遠慮気味にしている後輩に色々と言われている男子生徒を見ると俺は笑いそうになった。


 女子達もそうだが,あの二人はあいつに本当に懐いているなぁ……そう思いながら俺はその男子生徒に近付いた。


「おはよう,フレディ。そんな目立つ姿なのに良く分からないように隠れていられるな?前世は忍者とかじゃないのか?」

「シンか。おはよう」


 不愛想にその大男は俺に挨拶した。


 彼の名前は千堂瑞穂せんどうみずほ――先程喋っていた静姉しずねえの実の弟である。


 寡黙で口数も少ないが,俺の小さい時からの友人の一人でもあり,俺や親友が義妹達と離れないといけない時に彼女達を任せられる頼れる存在だ。


 そして,義妹達だけでなく学園の女子生徒達ほぼ全員から何故かパパと言うあだ名で呼ばれていた。


 そして,彼にはもう1つあだ名があった。

 

 それが先程俺が言ったフレディだ。


「ねぇねぇ,パパ。今度またカラオケ行こうよ?パパの歌,聞きたい!」

「……時間が合えば付き合う」

「ほんと!?やったー!」

保衣美ほいみ,あんまりフレディを困らせるなよ……悪いな」

「気にするな」


 喜ぶ義妹を叱った俺を他所に彼は問題なさそうに言った。


 実はこんな見た目なのに彼は歌が物凄く上手でダンスも得意という。


 それ故に男子生徒は彼の見た目も合わせてフレディと呼んでいるのだ。


「姉ちゃん,二人を教室まで連れて行けばいいのか?」

「うん,お願いね~。保衣美ほいみちゃん,真白ましろちゃん,またお昼にね~」

「「は~い」」


 フレディに連れられて二人は先に学園に入って行った。


静姉しずねえ,別にフレディに護衛みたいなことをさせなくても……」

「駄目よ,シンちゃん。もしもってことがあり得るかもしれないでしょう?」


 ――もしも……残念なことに一度だけそのもしもが起こってしまったのだ。


 中学校の頃,代議士の息子を名乗る男子生徒が執着に義妹を狙っていたのだ。


 そして,そいつは無理やり義妹を自宅に連れ込もうとしたのだ。


 ――無論,そいつはただでは済まなかった。


 俺やフレディだけならよかったんだが,親父まで参戦してきてその男子生徒は代議士の親と共に今は海外で怯えて暮らしているそうだ。


 未だに分からないが,親父はあの家族に何をしたんだろうか?


「まあ,フレディが居れば誰も怖くて近付かないか。しかし,あれで可愛いものが好きって見た目とのギャップが有り過ぎるだろう」

「そうかな?そういえば,瑞穂みずほちゃんが可愛い人形とかも作ってくれたんだよ。シンちゃんに今度見せてあげるね♪」

「あいつ人形まで作れるようになったのか……」


 我が友の趣味といい,特技といい,絶対に生まれる性別が間違っているだろう?


 だが,あの姿で女子ってのも……何だか嫌だな。


「それじゃ、私達も行こっか?」

「そうだな。悪いな,皆。話は休み時間にでも聞くから」


 俺と静姉しずねえは周りにいた女子生徒達に謝ると一緒に校内に入っていった。


 ******************************


 次回:御上からの使者 お楽しみに!


 お読みいただき誠にありがとうございます!


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