#30

「じ、じゃあ僕はここで!!」

「ミシェル兄様…!」

「……相変わらずあいつの逃げ足は早いな」


ミシェル兄様はそそくさと謁見の間から出ていってしまった。


「まあよい。アンジュ、どちらにせよ二週間後にはこの事を国民に公表するぞ。その前日には、大臣たちと兵士たち、そしてお前たちの子供らにも伝える。アンジュ、大変だろうが気張るんだぞ」

「はい…!」

「父上、ありがとうございます…」


俺たちは再び頭を下げ、少し談笑した後、屋敷に戻った。



***



「うう、怖かった…」


まさかあの綺麗な人が、男の人だったなんて思わなかった。

だって全然男の人に見えなかったもの。


「僕の奥さんにならなくて良かったぁ…」


なんて思わず本音が漏れてしまった。

そういえば…。


「あの大臣は何してたんだろう」


遡ること15分ほど前。


『なんで僕が呼ばれるんだ…』


話があるって、もしかして昨日のアンジュさんの事かな。

あんなことが起きるなら、食事会になんて行かなきゃよかった…。

あれ、あそこにいるのって…。

ええと…、どこの大臣だったかな、僕の所の大臣じゃない事は確かだけど。

なんで謁見の間の前にいるんだろう。


『あの…』

『ひっ…!ミ、ミシェル王子!』

『ここで何してるんですか…?』

『い、いえいえ!こちらにジェノヴァ王子達が入られたのを見たので、何かあるのかと…』

『はぁ…。あの、僕も入るので、ごめんなさい、どいていただいても…』

『す、すみません!私はこれで…』


そうやっていなくなったけど、何だったのかな。

まぁ、いいか。

早く僕の可愛い機械ちゃん達の元に戻らないと。

なんて呑気な事を考えていた事に後悔した。

まさかあの大臣が、とんでもない事を起こすなんて、この時の僕は気づかなかったのだから。

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