#27

(ここが、リーヴェ王国、だっけ。おおきなおしろ…)


馬車から降ろされ、リーヴェ王国の兵士が、アンジュと国王を迎えに寄越した。

国王である父は、リーヴェの王子ではなくただの兵士を連れてきたことに不満を漏らしていたが、アンジュはただただ城の大きさに口をあんぐり空けているだけだった。


「アンジュ!」

「は、はい」


父に呼ばれ、ついに夫であるノラ王子と顔を合わせる事になる。


(なんだかすごくこわいひとだって、お父様が言っていたけど、どんなひとなんだろう。また叩かれたり、怒られたりするのかな。それなら、すごく、いやだ)


テレサ王国は、過去何度もこのリーヴェ王国と戦争を繰り広げた。

理由は、魔法という魔力のみに頼ってきたテレサ王国の衰退を恐れたことによるものだった。

魔導は魔法と違い、その物と条件さえ整えば、いつでも発動出来る。

それに比べ、魔法は魔力のある人間のみにしか扱えない。

年々、テレサ王国では魔力が減少してきており、魔導に力を頼るべきかという議題が上がっていた。

しかしそれを先代の国王たちは拒み、魔導で力を付けていたリーヴェ王国を滅ぼし、魔法の力を見せつけるのが狙いだった。

しかし直近はテレサ王国が押されていた。

やっかいなのが、魔法も魔導も使えないのに、恐れを知らず次々と兵士を倒していく第六王子、ノラ王子の存在だった。

その姿を見た皆が、彼を【最凶】と呼ぶようになった。

特にその最凶と戦った兄、姉、そして国王であるアンジュの父は彼を恐れた。

故に国王は停戦の申し出をし、条件としてアンジュを嫁に出す、という提案をしたのだ。


「アンジュ、お前は少しでもいいから、ここで女として生きろ。わかったな?」

「……」

(まどが、ぴかぴかしてて、きれい)


アンジュは父の問いかけに気づかず、ステンドグラスをボーッと眺めていた。

勿論父はそれにイラつきを覚えたが、敵国にいるのだ、そんな事でただでさえ悪いイメージをこれ以上落とすわけにもいかず、イライラをぐっと堪えた。


「アンジュ、返事は?」

「はい、お父様」

「テレサ国王、どうぞ」


謁見の間への扉が開かれ、アンジュはノラと出会うことになる。


「アンジュ・テレサです」

「ノラ・リーヴェだ」


(おおきなひと。このひとが、おれの…)


アンジュが、ノラの妻となる時が、来た。

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