#25

「アンジュ、本当に大丈夫か?」

「う…」

「アンジュやはり無理をしない方が…」


客間を出てから顔が真っ青だ。

まああれだけ言われて、今更嫌ですとは言えないが。


「大丈夫、です…」

「いや、それにしても…」

「俺、それくらいしか出来ないので…。魔法とか、そういうのは使えませんから…、だから」

「あ、アンジュ…」

「あ……」


アンナ姉様。

どうしてここに。


「ごめんなさい、さっきたまたま貴方達の姿を見たから…」

「あ…」


アンジュが俺の後ろに隠れる。

やはり明日と言うのは急ではないだろうか。

この状況で兄様達に会うのはまずい。


「アンジュ…」

「アンナ姉様、申し訳ございません。今日は…」

「アンジュ、私、アンジュに謝らないといけないことがあるの」

「……?」

「姉様?」


アンナ姉様が俺とアンジュの前で膝まづく。


「ごめんなさい、私、貴方の事情なんてなにも知らないで、可愛い可愛いって言って貴方にお化粧したり、お洋服を着せたりして…」

「あ…」

「貴方が男性だと知らなくて…。酷いことをしたと思ったわ。嫌な思いをしていたんじゃないかって。夫の姉だもの、嫌だなんて言えなかったんじゃないかって…。本当にごめんなさい…」


姉様は、とても強くてお優しい。

いつも自分ではなく、相手のことを一番に考えるお方だから、アンジュの事を知ってかなり悩んだのだと思う。


「アンジュ、もし良ければお顔を見せて?また私と話をして欲しいの」

「アンナ、様…」

「私は別に貴方が男性でも女性でも、そんなの関係ないわ。アンジュはアンジュなのだから。きっとみんなそう言うに決まってる。だって私達、家族だもの」

「家族……」

「姉様…」

「アンジュ、もし許されるなら、私にチャンスを頂戴」

「アンナ様…あの、お、俺…」


アンジュがゆっくりと姉様の元に向かう。


「俺、みんなに、うそを、ついてたんです。なのに…」

「誰だって嘘をつく時はあるのよ」

「でも…」

「そうね、それじゃあ今からお話でもしましょうか!もちろん嘘はナシで、ね?」


姉様がニコッと微笑む。

姉様の笑顔は、人を癒す力があるんじゃないかと思うくらいに、この国の誰もが強くて優しい姉様の笑顔に虜だ。


「ありがとう、ございます…っ!」

「じゃあ貴方達の御屋敷にお邪魔しようかしら。そこでお話しましょう?いいわね、ノラ?」

「はい、もちろん。アンジュ、行こうか」

「はい…っ!」


この時俺たちは、背後に誰か人がいるなんて、気づいていなかった。


「第六王子の妻が男…?」


その男が、この国に波乱を起こす事になろうとは。



***



「リマ、昨日ぶりね」

「アンナ様!?」


姉様が俺たちの屋敷にやってきた事に、リマは大層驚いていた。

昨日の事があったから、まさか誰かがうちに来るなんて思わなかったんだろう。

まあ俺も予想外だったが。


「今すぐお茶をご用意いたします」

「ありがとう、リマ。さてアンジュ、お話でもしましょうか」

「…はい」

「ふふ、そんなに気を張らないで。出来るだけいつも通り話してくれたらいいわ」


屋敷に向かう途中、アンジュが姉様に自分の話をする、と言い出した時は驚いた。

俺もアンジュがあの国でどう生活していたかは知らないからだ。


「お待たせいたしました、こちらローズティーでございます」


リマが部屋を去ろうとした時。


「あの、リマさんにも聞いて、欲しいです…」

「え?私も、ですか?」


アンジュがリマを止めた。


「かしこまりました。お話と言うのは…」

「俺の、テレサ王国にいた時の、話、です」

「アンジュ様、の…」

「はい。でも、きっと、楽しくないと思います…」


きゅっ、とアンジュが拳をにぎる。


「アンジュ、しんどくなったらすぐに言ってくれ」

「ありがとう、ございます」

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