#24

翌日


「国王様」

「なんだ」

「ノラ様と奥様のアンジュ様がお見えです」

「……」

「国王様?」

「客間に通しておけ」

「かしこまりました」


昨日、アンジュが男だと言う事が判明した。

アンジュの体調が良くなさそうだったので、ノラには待機するように言ったはずだが。

しかしここに来ていると言うことは、体調の方は少し良くなったのだろう。

さて、アンジュが何と言うか。



***



「アンジュ、大丈夫か」

「はい」


俺が男だと分かってしまったことを謝りたい、とノラ王子にわがままを言って、父上に会わせてもらえることになった。

何を言えばいいかなんて、なにも決めてないけど、だけど、謝らなくちゃ。


「どうぞ」

「父上、失礼いたします」

「ノラ、アンジュ…」


父上の目が、顔が、怖い。

嫌いだって、嘘つきだって言われるのかな。


「アンジュ」

「ノラ王子…」


大丈夫。

ノラ王子が、俺の手を握ってくれるから、だから大丈夫。


「父上…昨日は、申し訳、ございませんでした」

「……」

「あ、の…」

「ノラ」

「はい」

「私はお前に待機を命じたはずだが?」


俺のことなんて見たくないんだ。

だって、俺は、男だから。

うそをついて、この国にいるから、だから。


「アンジュが父上にお会いしたいと言ったんです」

「まことか?」

「は、い…」

「なら単刀直入に聞こう。君が男性である事は間違いないな?」

「……はい…」

「そうか…」

「申し訳、ございません」


あんなに俺を可愛がってくれていたのに。


「なぜ君の父は君をリーヴェに寄越した?」

「わかり、ません…」


お父様は、なにも言わなかったから。

何で女の人として、ここにいるのかなんて、なにもしらない。


「そうか。それは直接国王に聞かねばわからぬな」

「…っ、それ、は」


お父様に、俺が男だって気づかれたことを、言われてしまうってこと?

でも、そうしたら俺は。


「アンジュ、大丈夫だ。俺がいる」

「ノラ王子…」

「その前にだな。実は来月、と言っても2週間後なのだが、アンジュのお披露目会をする予定があってな…」

「えっ」

「なんですかそれは!そんな話…」

「まさか君が男性であるとは知らず…、すまない。食事会の時に伝えようと思っていたのだ」


お披露目会…?

それって。


「国のみんな、にも…」

「そうなるな」

「父上!待ってください!そんなのあまりにも…」

「ノラ、お前はこの国の王子だぞ。それを忘れるな。もうアンジュが来て2ヶ月ほど経つのに、未だに王子の妻が顔を出さないなど有り得んだろう」

「それは、そうですが…」

「アンジュの体調を考慮し先延ばしにしていたが、もう大丈夫だろうと判断したのだが…」


目の前が真っ暗になる。

このお城にいるみんなだけじゃなくて、国のみんなにも、俺が男だって。


「王子…俺…」

「アンジュ…」


こわい。

だけど、がんばるってきめたから。


「王子、俺、頑張ります」

「アンジュ、本気で言ってるのか」

「……俺には、王子が、います。それに、リマさんも…」

「アンジュ、君がなんと言われるかは分からんぞ。それでも良いのか?」


父上は、お優しい。

こんな俺を気にしてくれて。

俺を見てくれていないなんて、考えすぎだったのかな。


「怖いです、でも…」

「アンジュ…」


ノラ王子がいてくれる。

暖かくて大きな手。


「王子、俺、こわいけど、頑張ります」


俺は、もう泣かない。

なにも出来ないけど、それでも、ノラ王子の横にいたいから。


「では明日、城内の人間全員に君が男性である、という事実は公表する。スケジュールをずらすことも許さない。アンジュ、君は体調管理を徹底しなさい。自分で決めたことだ、大変だとは思うが私は父として、国王として君を好奇の目から守る。そして君をノラの妻として歓迎する、その事実は変わりない。わかったな?」

「ありがとう、ございます…!」

「ノラ、しっかりアンジュを支えてやりなさい」

「は。かしこまりました。アンジュ、行こう」

「はい。父上、ありがとうございます」



***



「しかし困ったものだな。ラウル、君ならどうしたかな」


もういなくなってしまった君に問うても、答えは返ってこない。

写真と絵画でしか君に触れられないのが悔やまれる。

君はきっとアンジュが何者でも気に入るだろう。

私もそして我が子達も、きっとアンジュを受け入れる。

だが、大臣たちや国民はどう思うか。

それに、アンジュを女だと偽って嫁に持ってきたテレサ王国に、どう落とし前をつけさせようか。


「問題は山積みだな」


アンジュ、これで心が折れるようではやっていけないぞ。

ノラ、リマ。

アンジュをしっかり支えてやれ。

神よ、どうかアンジュを救ってやってくれ。

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