#20

「ほら、アンジュ笑って!」

「えっ、あ、の…」

「はいピース!」

「うぇ、えっ、えっ」

「アンジュ!緊張しないの!」

「は、はいぃ…!」


アンナ様とチダリ様から写真?というものを撮ろうと言われて、パニックになってしまう。

お二人ともとても美しくて綺麗で、俺とは全然違う。

俺が男だってわかったら、どうしよう。

嫌われてしまうかもしれない、この国から出ていけって言われるかもしれない。

出ていけって言われなくても、前みたいに暗い暗いあの部屋のようなところに入れられるかもしれない。


「アンジュ?」

「あ、はい!」

「さ、笑って」

「オッズ様!シャッターを切ってくださいまし!」

「はいはい」


カシャッ

オッズ様の持つあれはカメラ、というものみたいで、何か音が鳴ったと思ったら、急に目の前が眩しくなって、目を瞑ってしまった。


「あら、アンジュ目を瞑ってはダメよ」

「ご、ごめんなさい…!」

「何枚か撮りましょう!オッズ様、フラッシュは消して貰えますか?」

「はいはい」


沢山写真を撮っていただいて、何枚かを頂いた。

こんなものがあるなんて、外の世界は本当に凄い。


「アンジュ様、初めまして」

「え…?」


知らない女の人に声をかけられた。


「カンナ様!今日はお身体の調子は良いのですか?」

「ええ」


チダリ様がカンナ様と呼んだ人が、俺を呼んでくれたみたいだった。


「アンジュ、彼女はカンナ様。イマル兄様の奥様よ」

「イ、イマル様の…!」


この前、魔法と魔導のお話をして下さったイマル様の……。

すごく背が高くて、細くて、綺麗。


「よろしくねアンジュ」

「は、はい!」

「ふふ、可愛い子。ごめんなさいね、私あまり身体が強くなくて、あまりこういう場に来れないの。でもどうしても貴方に会いたくて」

「わ、私に、ですか…?」


カンナ様が俺の髪の毛と顔に触れる。

この人も、俺に触って気持ち悪いとか、怖いって言わない。

この国の人は、みんなそうなのかな。


「大変な事も多いだろうけど、貴方には必ず幸せが訪れるわ。負けないで」

「?」

「アンジュ様、カンナ様にはね、未来が見えるの」

「未来…?」

「もう、大袈裟よ。少しだけ先の事がわかるくらいよ」


未来が…。

じゃあ俺が、男だっていうのも、わかるの、かな…。

もしそうだったら、どうしよう。


「大丈夫、誰しも人に言いたくない事なんて、幾つもあるわ」

「カンナ、様…」


きっとこの方は分かっている。

俺が、男だって。


「それにこの国の人は貴方が何だって受け入れるわ。勿論、私も」


カンナ様が、俺の耳元で小さな声で話す。


「だから大丈夫。不安がる事なんてないわ」

「カンナ様…」

「やあ!私は除け者かな!」

「ひゃうっ!」

「あらランドリー様」

「やあカンナ!今日は元気そうじゃないか!」


だ、誰…?

また、知らない人が…。


「アンジュ!久しぶりだな!と言っても俺の事を覚えているかい?」

「え、と…」

「俺はランドリー、第一王子ジェノヴァの妻だ!あぁ、俺って言うのは昔からの癖なんだ、こう見えても女だぞ!」


短い髪に、ノラ王子みたいなタキシードを着ていて、俺って言うんだもの、ランドリー様が言わないと、女性だと気づかなかったかもしれない。


「あらランドリー様、お戻りで!」

「やあアンナにチダリ!元気だったか?」

「はい、お陰様で」

「それは良かった!しかしオッズ、君は何をしているんだい?カメラマンにでも転身したのか?」

「チダリに写真を撮れと言われたんですよ。せっかくですからみんなで写って下さい」

「そうか!ならお言葉に甘えようかな!アンジュ、おいで」

「は、はい!」


オッズ様が何枚か写真を撮ってくれる。

ようやくカメラというのに慣れて、やっと目を開けたままの写真が撮れた。


「後でノラに見せてやろう!きっと喜ぶぞ!」

「はい!」


ノラ王子、喜んでくれるのかな。

そうだったらいいな。


「アンジュ、そろそろ食事会の時間だ。行こうか」

「はい…」


ノラ王子の手を取って、階段を登って、ホールの一番上に立つ。


「本日はお忙しい中、お集まり頂きありがとうございます。改めて紹介させてください、妻のアンジュです。アンジュ」

「は、はい!ご、ご紹介に、預かりました、ノラ・リーヴェの妻、アンジュ・リーヴェと申します。不束者ですが、何卒、よろしくお願いします」

「という訳だ。本日はアンジュの歓迎とこれからの2人の幸せを願って、乾杯!」

「カンパーイ!!」


みんながグラスを手に持ち、王様が乾杯と言うと、乾杯!と叫ぶ。

それからはみんなが俺の元に来て色んなお話をした。


「アンジュ、俺が第一王子ジェノヴァだ」

「その妻、ランドリーだ。2人とも外交が多くてあまり城にはいないがよろしく頼む」

「いつか我々の子供にも会ってくれ」


「第二王子、イマルでございます」

「妻のカンナでございます。私たちには子はいませんが、良くして貰っていますのよ」

「カンナ…」

「子がいなくたって、心配ございませんよ」


「第四王子のオッズと妻チダリです」

「アンジュ様、これからもよろしくお願いいたします」

「うちの子達にも会いに来てくださいね」


「第一王女、アンナです。アンジュ、これからもよろしくね」


「だ、第五王子のミシェルです…」

「アンジュ、実はなぁ、初めはミシェルがアンジュの夫になる予定だったんだぞ」

「「えっ!?」」


俺もミシェル様もそんなこと知らなくて驚いた。

でも、ノラ王子はそんなことなかったみたい。


「俺は知ってたから」

「そ、そうだったんですか…?」

「父上!そんな話…」

「したがお前は無視しただろう。忙しいと言って……ぐすん」

「じゃあ僕だけが未婚ってことですか…」

「なんだ妻が欲しいのか?」

「そ!そういう訳じゃ…」


ミシェル様がそう言うと、ノラ王子も父上も笑った。

ずっとこんな時間が続けばいいのに。

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