#21
食事会が終わりを迎えた頃。
「アンジュ、少しいいか?」
「はい」
ノラ王子に連れてこられたのは、城を出た少し先にあるお墓。
「ここには母様と、第三王子だったヤエン兄様が眠っているんだ」
「そうなのですか…」
「あぁ。母様は俺が三つの時に病気で亡くなって、ヤエン兄様は俺が産まれる前に、戦争で亡くなられている。母様も兄様も、写真でしかお会いすることはできないけど、アンジュにも紹介したくてな」
俺もお会いしてみたかった。
きっとノラ王子みたいにお優しい方なんだろうな、とお墓の絵を見て思った。
「母様、兄様、俺の妻、アンジュです」
「初めまして、妻のアンジュでございます」
「アンジュはとても良い子なんですよ。笑顔が素敵で、絵がとても上手なんです」
「ノ、ノラ王子…っ!」
「俺は命を懸けて、"彼女"を守り抜くと誓います。どうか空の上から、見守っていて下さい」
ノラ王子が星が沢山の空を見上げて、俺の手を握ってくれる。
「ありがとう、ございます。私、ノラ王子の妻として、できる限りのことをしたいと思います」
「ありがとう、アンジュ」
ノラ王子が俺を抱きしめて、目が合う。
「アンジュ…」
「ノラ王子……」
キスが来る。
俺は目を瞑って、ノラ王子の唇を待つ。
「痛いっ!」
ふと、後ろから声が聞こえた。
そちらを振り向くと、何故か父上や皆様がいた。
「父上、兄上に姉上…皆さん、何を……」
「い、いやこれはだな…!」
ノラ王子、ちょっと怒ってる?
「父上が行こうと言ったんでしょう!」
第一王子のジェノヴァ様が父上に文句を言っていた。
その横で、第四王子のオッズ様が呆れたように呟いた。
「リマに止められたのにね」
「で、なぜそのリマがここにいる」
「皆さんが何をしようとしているかなんて想像出来ましたからね。私なりに心配していたんですよ?」
「もう、雰囲気が台無しですわ。ほらお二人共、続きを…」
「出来るか!!アンジュ、冷えるだろう。城内に戻ろうか」
「あ、はい…。ふふっ」
思わず笑ってしまった。
「どうした?」
「いえ…私、こういうことを知らなくて。これが楽しい、ということなんですね」
「アンジュ…」
「王子…?」
ノラ王子が、俺を抱きしめる。
「ここでは、君は自由なんだ。好きなことをすればいいし、したい時は言ってくれればいい。嫌なことがあったり辛いことは俺に言えばいい。言い難いならリマにでもいい。だから君がそんな顔をしなくてもいいんだ」
「ノラ、王子…」
ノラ王子はとっても優しい。
何も無い俺を、男だと分かっても捨てないで、殺さないでいてくれる。
こうやって抱きしめてくれるし、キスだってしてくれる。
だけど俺は、何もお返しできないし、子供だって出来ない。
だけど、この人とずっと一緒がいいって、思っていいのかな。
「俺は君が笑っていてくれれば何だっていい。君が泣いている所なんて見たくない。だから…」
「ありがとうございます」
いつか、ノラ王子にお返しできる日が来るのかな。
「私…」
いつか、貴方に。
ズキン
「……っ!あ、あっ!」
「アンジュ!?」
頭が、痛い。
なに、これ。
「痛い…っ、あ…」
「アンジュ大丈夫か!」
ドンッ
「アン、ジュ…?」
「あ…」
何で俺、ノラ王子を突き放したんだろう。
身体が、勝手に、ノラ王子を拒否した。
「ごめん、なさい…っ」
一瞬だけ、ノラ王子に触れられたくない、って思った。
何で?
今までこんなこと、なかったのに。
「はぁ、はぁっ、大丈夫、です…」
痛い、痛い。
『ダメよ。貴方はずっと…』
誰。
『貴方も私も、一人でないと』
うるさい。
『大事な人を傷つける前に』
うるさい、うるさい。
『でないと、また…』
知らない、そんなの知らない。
『もうあんな思いはしたくないの』
俺の目の前に映るのは、真っ赤な地面、倒れているひとたち。
そこにいるのは、誰?
「アンジュ!」
「おう、じ…」
『大切な人を失うなら、初めから』
『大切なんて、いらない』
『みんなみんな、いなくなる前に』
ダメ。
そんなの、ダメ。
そんなこと、させない。
ノラ王子は、父上は、みんなは、俺を。
『貴方を一人にしてあげる』
「ダメ!!!!!」
「アンジュ!」
「ノラ王子…?」
「ごめんね、ノラじゃなくて」
なんで、イマル様が、ここに?
「俺、何、してた…?」
どうしてみんな、ここにいるの?
頭がぐわんぐわんして、何も考えられない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます