#19
「すみません父上、遅くなりました」
「ようやく来よったか」
「お、お待たせいたしました…」
アンジュがスカートを握り、父上に一礼する。
リマに頑張ってマナーを教えて貰っていたからかなり様になっているが、初めは正直言って酷いものだった。
アンジュの努力が実ってホッとする。
「瞳の色と同じ色のドレスか。よう似合っておる」
「ありがとう、ございます。このドレスはノラ王子に選んで頂いたんです」
「ほう。ノラ、お前にもものを選ぶセンスがあるのだな」
「父上、怒りますよ」
「すまんすまん。そろそろあやつらも来る頃じゃろう。2人はここに座れ。リマはこちらに」
父上に案内された椅子に座る。
普段は大規模なパーティーを催す場所を用意されて俺も少し
緊張しているのだが、アンジュはその数倍緊張しているようだった。
「アンジュ」
「は、はい…」
「今日は身内だけだ。そんなに気を張らなくてもいい」
「は、はい…」
少しでもアンジュの緊張を解かなくては、折角の食事会も楽しめないだろう。
「アンジュ」
「はい、………っ!!」
父上とリマが見てないのを確認して、頬に軽くキスをすると、アンジュは顔を真っ赤にした。
「少しは緊張が解れたか?」
「ノ、ノラ王子…っ!な、なにを…!」
「やっと笑った」
「え…?」
「ずっと暗い顔をしていたから」
「あ、すい、ません…」
アンジュには、すぐにすいません、と謝る癖がある。
そうしないと怒られていたんだろうが、ここではそんなことはないと、いつかわかってくれる日が来るだろうか。
「食事をするだけだから、いつも通りでいい。いや、勿論マナーは必要だが…」
「ノラ王子…」
「あぁ、えっと、そうだ。アンナ姉様やチダリ様もいらっしゃるし、沢山話をすればいい」
「ありがとう、ございます」
ちゅ
頬にアンジュの唇の感触を感じた。
「……っ!」
「お返し、です…!」
アンジュにしてやられた。
こんな事が出来るようになるとは思わなかった。
あんなにオドオドして、俺が話しかけないとろくに話も出来なかった子が、こんなに積極的になるとは。
「全く、ワシらがおるというのにイチャイチャしよって!!」
「ち、父上!見ていたのですか!」
「私も見ていましたよ。本当に素敵なご夫婦になられて…」
「まだ2ヶ月も経っていないのだが…」
「ふふっ」
アンジュの緊張が解けたのなら、見られても構わないか。
そのまま少し談笑していると、兄様や姉様達が次々とやってきた。
「まぁ!アンジュ!とっても可愛いわ!!!」
「本当ですわ!!お写真を撮りましょうね!!オッズ様、カメラをお持ちになって!」
「僕はカメラマンじゃないんだけど…。まあいいや」
アンジュを見て騒ぎ出したのは、勿論第一王女であるアンナ姉様と第四王子オッズ兄様の奥様であるチダリ様だ。
オッズ兄様は、チダリ様に押し切られてカメラマンとしてリマも含めた4人の写真を何枚か撮らされていた。
「ノラ」
「イマル兄様、それにカンナ様も。ご機嫌麗しゅう」
カンナ様は第二王子であるイマル兄様の奥様で、少し病弱なため、こういった場に来られることが少ない。
「彼女がアンジュ様?とても華奢で美しい御方ですわね」
「ありがとうございます。是非声をかけてやって下さい。アンジュも喜びます」
「ええ、では行ってきますね」
輪の中にカンナ様が混ざって、女子達は更に騒がしくなった。
「……彼女、随分とここに馴染んだみたいだね」
「そう見えますか」
「……何か、あったんだね」
「まぁ、色々と。兄様も何か話があるのでは?」
例えばこの間の呪いの話。
イマル兄様は何もないと言っていたが、あれが何も無い反応でないことなど、すぐにわかった。
「実は…」
「ちょ!僕は興味無いって…!!」
「そんなことを言うな!」
「そうよ!」
扉の向こうから騒がしい声が聞こえた。
声の主の元に向かう。
「ミシェル兄様!ご無沙汰です」
「ノ、ノラ…」
やはり、第五王子であるミシェル兄様だった。
その後ろには。
「遅くなってすまないな!」
「ジェノヴァ兄様!」
「私もいるわよ!」
「ランドリー様!」
第一王子であるジェノヴァ兄様と、その奥様であるランドリー様が顔を覗かせる。
「元気そうで何よりだ!」
「お二人こそ」
「ここに帰ってくるのはいつぶりかしら」
「確かノラの妻が来た日だな!ええっと…」
「アンジュ様でしょう!?もう、弟の妻の名前を忘れるなんて!」
ジェノヴァ兄様とランドリー様は旧友で、そのまま結婚された珍しい夫婦だ。
主に外交を担っており、友人のように、時には戦場や外交では戦友のように互いを信頼している素晴らしい夫婦である。
「アンジュは今あちらで女子会をしてますので、ランドリー様も如何ですか?」
「あら本当!私も混ざって来るわ!!」
「行ってこい!……ミシェル、どこに行くんだ?」
逃げようとしたミシェル兄様を、ジェノヴァ兄様が引き止める。
まぁミシェル兄様がこういう場に出ることなんて滅多にないからな。
リーヴェ王国のインフラほぼ全てを担っているが故に忙しいのだが、ミシェル兄様はこういう場自体が元々得意ではない。
アンジュがリーヴェに来た時も、ミシェル兄様は顔を出さなかった。
だからこそ、今この場に呼ばれている訳だが。
「あ、あのー、僕帰って…」
「「「ダメだ」」」
「うぇ~……」
女子会が落ち着いた頃にアンジュの元へ向かい、食事会が幕を開けた。
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