#18

一週間後


「お、王子…」

「どうした」

「き、緊張します…!」


昨日も一昨日も眠れないと言っていたし、今日も起きるのに少し時間がかかっていたな、と昨日の事を思い出す。

こういったパーティーのようなもの自体が初めてらしく、緊張しないのも無理はないだろう。


「アンジュ、いつも通りでいい。ゆっくり深呼吸して」

「は、はい…!」

「さぁアンジュ様、ご準備なさいましょう」

「はい…!ノラ王子、行って参ります」

「あぁ」


しばらくしてアンジュがリマと共に部屋から出てきた。

髪の毛はリマに巻いてもらって、ハーフアップにしてもらっていて、水色のドレスとよく合っている。


「ノ、ノラ王子」

「うん、やはりよく似合っている」


サラリと綺麗な黒髪を撫でると、アンジュは顔を赤くした。


「あ、ありがとう、ございます…」

「さ、次はノラ王子ですわ」

「あぁ。アンジュ、待っていてくれ」



***



ノラ王子のお着替えが終わったみたいで、部屋から出て来られた。

いつも下ろしている赤髪の前髪を上げているのが、白のタキシード(というらしい)に似合っていて、目を逸らしてしまった。


「…変か?」

「ひゃぁっ!」

「アンジュ?」


ノラ王子が俺の顔を覗き込み、大きな瞳が俺を見つめる。

ノラ王子はとってもかっこいい。

俺のかっこいい旦那様。


「あ、あ、あ、あ、あのっ!」

「どうした?」

「す、す、凄く、お似合い、です……」


ノラ王子、お顔を見れない俺を許して下さい。


「ありがとう」

「……っ!」


ノラ王子が、俺の頭を撫でてくれる。

この手が、すごく好きだ。


「おふたりとも!イチャイチャするのはそこまでですわ!さぁ城に参りましょう!」

「あ、はい!」

「…リマ、君は空気を読めないのか?」

「お時間ですもの、仕方ありませんわ。イチャイチャするのは帰ってからになさって下さいませ?」

「少しくらい遅れてもいいだろう」

「王子としてそれは如何なものかと…」


ノラ王子とリマさんが揉めている。

リマさんの言う通り、時間はあまりないけど、2人のやりとりが、凄く自然で良いなと思う。

俺にはこんなこと、出来ない。

………俺って、本当にノラ王子の奥様でいいのかな。

何も知らなくて、言葉を話すのも精一杯で、しかも男で、子供も出来ないのに。


「アンジュ?」「アンジュ様?」

「あ…」

「どうした?そんな暗い顔をして」

「な、なんでもありません。あの、それよりもお時間が…」

「っと、本当だな。アンジュ、行こうか」


ノラ王子が俺に手を差し出す。

俺はこの手を握ってもいいのかな。

もし、男だからいらないと言われたら。

こんな、何も知らない人間なんて、と言われたら。


「アンジュ?体調が優れないなら今日は…」


ノラ王子に心配をかけてはダメだ。

ただでさえ俺は何も出来ないのに。


「大丈夫です、緊張しているだけですから」


今日だけは、ノラ王子の手を握らせて下さい。

何も出来ない俺を、生かしてくれるこの人たちに少しでも、迷惑を掛けないようにしないと。

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