#14

「アンジュ、おやすみ」

「ノラ王子、おやすみなさい」


軽いキスを交わし、眠りにつく。


「ん…あ、や、ごめん、なさい…」


アンジュはまだ、うなされている。

これは呪いなどではなく、アンジュの心の問題なんだと改めて思わされる。

眉をひそめ、涙を流すアンジュの頭を撫でて、抱きしめる。


「アンジュ、大丈夫だ」

「おとう、さま…ごめん、なさい…」

「アンジュ、どうすれば君を救ってあげられる」


表向きで取り繕っても、心の奥底までは分からない。

きっと君はまだ、俺にテレサ王国にいた時の話をすることはしないだろう。

いつかそんな時が来たら、俺は今みたいに君の頭を撫でて、抱きしめよう。


「ごめん、なさ…」


いつか君がゆっくりと眠れる日を願って。



***



「おはよう、ございます…」

「おはようアンジュ」


夢って、苦しい。

寝たら、テレサ王国にいた、あの一ヶ月の夢を見るから。

でも眠たくて、寝ちゃうんだけど。

早く、あの夢を見ないようにならないかな。


「アンジュ様、久しぶりに絵を描きに行きませんか?」

「はい!ノラ王子、よろしいですか?」

「あぁ、行っておいで」


部屋から絵の具やキャンパスを持って、久しぶりに外に出た。

そういえば外に出るのはどれくらいぶりかな。

俺が倒れて、記憶がなかったのが一ヶ月くらいだってノラ王子が言っていたから、一ヶ月と少しくらいかな。


「良いお天気ですね」

「はい!」


久しぶりに絵を描くのは楽しかった。

今日はノラ王子と俺とリマさんと住むお屋敷の絵を描いたら、ノラ王子は上手だと頭を撫でて褒めてくれた。

その手が凄くあたたかくて、大好き。


「ノラ王子、私、ノラ王子が好きです」

「……っ!」

「ノラ王子?」


さっき絵を描いてる時に、リマさんが教えてくれたんだ。


『アンジュ様はノラ王子がお好きですか?』

『好き…?』

『好きというのはですね…』


好きっていうのは、そのひとの横にいたいって、そう思えるひとの事なんだって。


「ノラ王子…?」

「あ、あぁ、いや、ええと…」

「ノラ王子、顔が赤い…」


どうしたんだろう。

体調でも悪いのかな。

ノラ王子のおでこに手をあてると、ノラ王子の顔がもっと赤くなった。


「だ、大丈夫ですか!あの、体調が悪いのなら…」

「違う……、その……大丈夫だから…」

「本当ですか?」

「あぁ。……全く、君は俺をどうする気なんだ」

「?」

「もうすぐ晩ご飯の時間だろう。手を洗っておいで」

「はい!」



***



「リマ、今度は何を教えたんだ」

「ノラ王子にお気持ちをお伝えしてはいかがでしょうか、と言ったまでですよ。この間の事で、何かお返しできることはないかと悩んでらっしゃったので」

「好きなんて言葉、君が教えないと誰が教えるんだ、全く…」

「よろしいじゃありませんか。ノラ王子も言って差し上げないと!」

「あのなぁ…」

「頑張ってくださいませ。アンジュ様はとてもお喜びになられますよ」


彼のこれまで生きていた世界では聞かない言葉だっただろうし、リマの言い方を考えると、言葉の意味も教えたんだろう。


「あんなに顔を赤くしては先が思いやられますわね」

「うるさい」

「ふふ。さてご飯にいたしましょうか」


リマは鼻歌を歌いながら夕食の準備を始めた。

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無能力と最凶王子 ティー @daidai000tt

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