#15

「ふぅ…」

「ノラ王子…?」

「ああ、いやなんでもない」


浴槽に浸かりながら、ため息をつく。

なぜため息をつくのかって?

アンジュと浴槽につかっているという、この状況を受け入れられていないからだ。

というのも、夕食を終え風呂に入っていた時、突然アンジュが浴室にやってきて、なんと一緒に入りたいと言い出したからだ。

風呂を苦手としているアンジュがそんな事を言い出すとは思いもしなかった。


「ご迷惑だったでしょうか?」

「いや、そんな事はない」

「よかった…」


アンジュは浴槽に浮かぶ自分の髪の毛を触りながら、ほっと息を吐いた。

俺の足の間にちょこんと座っている姿は、なんと愛らしいことか。

そのままアンジュを眺めていても良かったが、流石に熱くなってきた。


「俺は熱いから出るが、アンジュはもう少し浸かるか?」

「あ、あの!」

「?」

「お、お身体を、洗わせて、いただけますか…っ!」


リマ、今度は何を吹き込んだ。


一方その頃、リマは。


「はくちっ!ずび。誰か私の噂でもしているのかしら」

「どう考えてもノラ王子でしょう」

「かしらね。ふふ~ん」


ご機嫌に鼻歌を歌いながら、式と夕食後の片付けをしていたのだった。



***



「い、痛かったら仰って、ください…」

「分かった」


痛いどころか力を入れていないのかこそばゆい。

しかし、真剣に体を洗ってくれているアンジュの気持ちを無下にするわけにもいかず、俺は黙っていた。


「背中…、これ、痛くないですか?」

「あぁ…」


背中の傷を見たアンジュの手が止まる。


「これ、いつ…」

「5年ほど前かな。15になって成人の儀を終えてすぐ戦に出た時に、油断して背中を思い切り切られたんだ」

「そんな…」


アンジュの華奢な指が、俺の傷に触れる。


「さぞ痛かったでしょう…」

「死ぬかと思ったよ。かなりの出血で、1週間程目を覚まさなかったらしい。生きているのが奇跡だと言われたよ」

「生きていて下さって良かった…」

「そうだな。生きていなければ、君に出会えなかった」

「あ…」


後ろにいるアンジュの方を向く。

立ち上がって、アンジュの唇にキスをする。

アンジュはそれを拒むことはせず、そのまま舌を入れる。


「んぁ、ふっ…、ちゅ、くちゅ、んふっ…」

「はぁっ、アンジュ、ちゅ、ちゅっ」

「ノラ、王子ぃ…ちゅう、ちゅううっ」


アンジュの腰に手をやると、アンジュの体はびくっと反応した。


「ふぁ、あ、王子ぃ…んっ、は…」

「大丈夫か?」

「あ、ごめんなさい、王子、わたし…」

「俺こそいきなりキスして悪かった」

「い、いえ、嬉しい、です…。でも私、ノラ王子のお背中を洗ってたのに…」

「十分だ、ありがとう。今度はお返しに君の髪の毛を洗わせて貰えないか?」

「そ、そんな…!」

「嫌か?」

「あ、いえ、そんなこと…」


そういえばリマか、聞いた気がする。

『自分の髪が怖くないのか?』と言っていたと。


「いや、触れられるのが苦手ならいいんだ」

「だ、大丈夫です。ノラ王子は、怖くない、ですか…?私の黒髪…」

「髪の色なんてこの国では誰も気にしないさ」

「本当ですか…?」

「ああ、姉様もチダリ様も、それにリマも綺麗だと言っていただろう?俺もそう思う」


さらりと伸びた黒髪に手を通す。

膝まで伸びた髪は、伸ばすまでにどれほど時間がかかったのだろうか。

それを怖いだなんて言うものが、実際にあの国にいるのだから、恐ろしいものだ。


「本当ですか…。嬉しい…、私、この国に来て、よかった、です…ひっく、う、ううっ」

「君を叱責する人間はこの国にはいない。だから安心していい。好きなように、好きなことをして、自由に生きていけばいいんだ」


泣きじゃくるアンジュを抱きしめる。

こんなにも怯えて、泣いて、可哀想に。

君のことは、俺が必ず守る。

だからどうか君は俺の横で、笑っていて欲しい。


「下を向いて。髪の毛を流そう」

「っひ、は、い」


アンジュの髪を丁寧にお湯で流して、シャンプーとトリートメントを付ける。


「体も洗おうか」

「あ、そんな、大丈夫です…!」

「今日は俺に甘えろ」

「あ、違う、んです…!あの…!」

「……そういう事か」

「うう……」


アンジュの下半身は、勃起していた。


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