#7
「アンジュ様、おはようございます」
「リマさん、おはようございます」
「良いお天気ですね」
「はい」
リマさんが部屋に来てくれて、俺を起こしてくれた。
着替えを済ませて、食卓に向かう。
今日は絵を描くと決めていたから、晴れててよかった。
「アンジュ、おはよう」
「お、おはようございます…!」
昨日ノラ王子に抱きしめられてから、ノラ王子の顔を見ると心臓がずっとうるさくて、顔が熱くなってしまって、ノラ王子の顔も見れなくなってしまった。
「どうした?まだ体調が悪いのか?」
「だ、大丈夫です!」
ノラ王子が俺の顔を見るために、近づいてきた。
そうしたら心臓はもっとうるさくなって、顔はもっと熱くなって。
「ほ、ほんとうに、大丈夫です、から…」
「そうか、なら良かった」
「お2人とも、朝食ですよ」
俺の心臓はまだうるさいままだった。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様」
「アンジュ様、一昨日お片付けしたパレットと絵の具とスケッチをお持ちください。私の片付けが終わったら絵を描きにいきましょうね」
「はい!」
俺は走ってそれらを取りに部屋に戻った。
「……いつの間にそんなに話すようになったんだ」
「内緒です」
「俺も行く」
「ダメです」
「はあ!?」
「今日はご公務でしょう?」
「あんなの公務じゃない」
「リマさん!……ええと」
ノラ王子とリマさんがなにか話していた。
ご公務?ってなんだろう。
「ご公務、ってなんですか?」
「お仕事ですよ」
「お仕事…」
そう言えば時々お父様とお母様がそういうのに行くと言って、俺に勉強しろって言っていた気がする。
「ノラ王子はご公務に行かれるんですか?」
「まあ…食事会だけだがな。それに相手はアイツだ」
「ノラ王子?隣国の王子にアイツ、とは失礼ですよ」
「アイツはそれでいいんだよ」
「そうなのですか?あの、私もいたほうが、よろしいでしょうか…?」
「いや、いい」
「でも…」
お母様はお父様について行ってたような気がする。
お母様はそれが妻の務めだって、いっていたし。
もしかして俺は、妻じゃない?
俺はいらない?
「今日は絵を描くんだろう?」
「でも、あの…わ、私、ノラ王子の、妻、で…」
「……っ!」
また泣きそうになってしまう。
昨日みたいになっちゃダメなのに。
「……分かった」
「………え?」
「いや、確かにアンジュの言う通りだ。君は俺の妻なのだから、いてもらった方が良いかも知れないな」
「本当ですか?」
「ありがとう、アンジュ。絵を描くのはまた今度にしようか」
ノラ王子が俺の頭を撫でて下さる。
あたたかくておおきな、やさしい手。
俺は、この手が、すきだ。
「はい!」
「ではアンジュ様、ご準備いたしましょうか」
「準備…?」
***
時計が12時を指した頃。
アイツはやってきた。
「やあノラ、久しぶりだね。元気にしてたかい?」
「あぁ」
「相変わらず素っ気ないなぁ。おや、君は…」
遂に見つかってしまった。
こいつにアンジュを紹介なんてしたくはなかったのに。
今にも泣きそうだったから、連れてきたのはいいものの。
『頑張ってシャワーだけでも浴びてみましょうか』
『う…』
『脅すようで申し訳ございませんが、シャワーを浴びなければご公務にはお連れできません。ですよね、ノラ王子?』
『まぁ、そうだな』
ここに来てまだ一度も風呂どころか、シャワーすら拒否していたのだ。
流石に2日も体を洗っていない(と言ってもタオルで体は拭かせているが)のは衛生的にも良くないし。
『が、頑張ります』
アンジュは一時間かけて浴室に入り、30分かけてシャワーを浴びて出てきた。
「は、はじめ、まして…。妻の……アンジュ・リーヴェと申します」
俺の後ろから少しだけ顔を出して、隣国、ヤヌカ王国第三王子である俺の幼なじみ、マルクス・ヤヌカに挨拶をした。
リマに丁寧に化粧をしてもらい、髪も綺麗に整えて貰って、いつもよりとても美しい。
こんな姿をマルクスに見せるなど、したくはなかった。
「貴方が噂の…!僕はマルクス・ヤヌカ、ノラの幼なじみです。お見知り置きを」
マルクスがアンジュの前にひざまついて、手を差し出す。
「アンジュに触れるな」
「え~いいじゃないか。ね?アンジュ夫人?」
「あ、ええと…あの…」
「アンジュ、この馬鹿の言葉に耳を貸すな」
「は、はい……」
「マルクス、とっとと席に着け」
「はぁ~い」
「アンジュも、ほら」
椅子を引くと、アンジュは素直に席に座った。
文句を言いながら席に座るマルクスとは大違いだ。
食事を取りながら、アンジュが嫁に来た経緯をマルクスに説明した。
「ふぅん、大変だねぇ。いいなぁ、俺もこんな綺麗な妻が欲しいよ」
「き、綺麗、だなんて…」
「マルクス」
「あぁ怖い怖い。最凶と言われるお前に睨まれたら俺もカエルになっちゃうよ」
「今すぐカエルにしてやろうか」
「お2人とも、アンジュ様が怖がっておりますから」
アンジュを見ると、顔が青ざめていた。
「アンジュ、大丈夫だ。本当にする訳ではないからな」
「は、はひ…」
アンジュの手を握ると、少し震えていた。
誤解を解くには、少し時間がかかりそうだ。
「じゃあまたね、ノラ」
「暫く来なくてもいいぞ」
「アンジュ夫人、また機会があればお会いしましょう」
「は、はい……」
この日、アンジュは神経を使い果たしたのか、夜になっても起きてくることはなく、翌日まで眠りについた。
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