#6
「ただいま」
「お、おかえり、なさい…」
アンジュを心配して急いで帰ってきた所に、寝ているはずの彼女が、何故か出迎えをしてくれていた。
「アンジュ、体調は」
「はい、今は大丈夫です」
「よかった、凄く心配したんだ」
俺は思わずアンジュを抱きしめた。
「あ、あ、ノラ王子…」
「訓練中も気が気でなかった」
「す、すいません…」
「いや、君が元気でよかった。リマ」
「はい何でしょう」
俺とアンジュを見ていたのだろう、リマの名を呼ぶと彼女は直ぐに部屋から顔を覗かせた。
「軽くシャワーを浴びたい」
「畏まりました、替えを用意しておきますね」
「アンジュ、今日は部屋でゆっくりしていろ」
「は、はい……」
アンジュの顔が少し赤くなった気がした。
俺を意識してくれたと自惚れてもいいのだろうか。
***
「アンジュ様…」
「は、はい…!」
「頑張ってきて下さいね」
アンジュは、リマと何か話し込んでいた。
アンジュの手にはタオルとノラの替えの服があった。
***
「あ、あの…し、失礼いたします」
「ん?アンジュか」
「ぴゃあっ!」
思わず浴室のドアを閉めてしまった。
ノラ王子の、裸を、み、見てしまった。
しかも変な声を上げてしまった。
「どうしたアンジュ」
「ひぅっ!」
「アンジュ?」
ノラ王子がドアを開けて、俺を見る。
「まさか…替えを持ってきてくれたのか?」
「は、は、はい…っ!あの、わ、私も、なにか、したくて、その……!」
ノラ王子が戻る30分前、俺はリマさんに、ノラ王子に何か出来ることはないか、と相談した。
そうしたらリマさんは、どうせシャワーでも浴びるでしょうから、ということでタオルと替えを持ってきたんだけど、心臓がドキドキしっぱなしで、上手く話せない。
「ありがとう」
「あ……」
ノラ王子が笑った。
ありがとうなんて、初めて言われた。
「は、はい……そ、それでは…」
「アンジュ」
「はい……」
後ろからノラ王子に抱きしめられて、さっきよりも心臓がうるさくなる。
「いつか一緒に風呂に入ろう」
「ひぁ…っ、あ…」
ごめんなさい、それは出来ないんです。
だって俺は男だから。
もし男だって分かったら、俺はお父様に…。
でも貴方になら、男だと分かっても大丈夫だと、思ってしまいそうになる。
「ゆっくりでいい」
「あ、あんっ…」
耳元で話さないで。
体の力が抜けてしまいそうになる。
「今日はありがとう」
「は、はい……っ」
「じゃあまた」
ノラ王子はそう言って、風呂に行ってしまった。
ノラ王子から、すごくいい匂いがした。
もっと、抱きしめて欲しかった。
リマさんとは違う、やさしさを感じた。
「王子…」
どうしてか分からないけど、下半身が熱い。
トイレに行っても、下半身が熱いのは収まらなくて、俺は結局夜まで部屋で眠った。
***
「はぁ、はぁっ…」
ドア一枚隔てた所にアンジュがいるかも知れないのに、俺は何をしているんだ。
こんなに昂った事なんて、今まで一度もなかった。
アンジュ、好きだ。
いつか君を抱きたい。
そう思う事を、どうか許して欲しい。
「……っ」
射精と共に、アンジュへの罪悪感が湧いて出てくる。
「好きだ、アンジュ…」
いつか、この気持ちを、君に伝えられたら。
そうしたら君は、どんな顔をするだろうか。
先程みたいに、顔を赤くしてくれるだろうか。
そうあって欲しい。
シャワーから戻ると、アンジュは部屋で眠っているとリマに聞かされた。
晩ご飯の時間になって、ようやくアンジュの顔を見ることが出来た。
明日は絵を描きたいと、楽しそうに笑う。
その為には体力を付けないとな、と言うとアンジュはわかりました、とまた笑う。
愛しいアンジュ。
俺は君を守るためにもっと強くなろう。
君が何者であっても、それが変わることはない。
そう、例えば君が男であっても。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます