#6

「ただいま」

「お、おかえり、なさい…」


アンジュを心配して急いで帰ってきた所に、寝ているはずの彼女が、何故か出迎えをしてくれていた。


「アンジュ、体調は」

「はい、今は大丈夫です」

「よかった、凄く心配したんだ」


思わずアンジュを抱きしめる。


「あ、あ、ノラ王子…」

「訓練中も気が気でなかった」

「す、すいません…」

「いや、君が元気でよかった。リマ」

「はい何でしょう」


俺とアンジュを見ていたのだろう、リマの名を呼ぶと彼女は直ぐに部屋から顔を覗かせた。


「軽くシャワーを浴びたい」

「畏まりました、替えを用意しておきますね」

「アンジュ、今日は部屋でゆっくりしていろ」

「は、はい……」


アンジュの顔が少し赤くなった。

俺を意識してくれたと自惚れてもいいのだろうか。


「アンジュ様…」

「は、はい…!」

「頑張ってきて下さいね」


一方、アンジュは、リマと何か話し込んでいた。

アンジュの手にはタオルとノラの替えの服があった。

意を決して、浴室のドアを開ける。


「あ、あの…し、失礼いたします」

「ん?アンジュか」

「ぴゃあっ!」


思わずドアを閉めてしまった。

ノラ王子の、裸を、み、見てしまった。

しかも変な声を上げて。


「どうしたアンジュ」

「ひぅっ!」

「アンジュ?」


ノラ王子がドアを開けて、俺を見る。


「まさか…替えを持ってきてくれたのか?」

「は、は、はい…っ!あの、わ、私も、なにか、したくて、その……!」


ノラ王子が戻る30分前、俺はリマさんに、ノラ王子に何か出来ることはないか、と相談した。

そうしたらリマさんは、どうせシャワーでも浴びるでしょうから、と言うことで、タオルと替えを持ってきたんだけど、心臓がドキドキしっぱなしで、上手く話せない。


「ありがとう」

「あ……」


ノラ王子が笑った。

ありがとうなんて、初めて言われた。


「は、はい……そ、それでは…」

「アンジュ」

「はい……」


後ろからノラ王子に抱きしめられて、さっきよりも心臓がうるさくなる。


「いつか一緒に風呂に入ろう」

「ひぁ…っ、あ…」


ごめんなさい、それは出来ないんです。

だって俺は男だから。

もし男だって分かったら、俺はお父様に…。

でも貴方になら、男だと分かっても大丈夫だと、思ってしまいそうになる。


「ゆっくりでいい」

「あ、あんっ…」


耳元で話さないで。

体の力が抜けてしまいそうになる。


「今日はありがとう」

「は、はい……っ」

「じゃあまた」


ノラ王子はそう言って、風呂に行ってしまった。

ノラ王子から、すごくいい匂いがした。

もっと、抱きしめて欲しかった。

リマさんとは違う、やさしさを感じた。


「王子…」


どうしてか分からないけど、下半身が熱い。

トイレに行っても、下半身が熱いのは収まらなくて、俺は結局夜まで部屋で眠った。



***



「はぁ、はぁっ…」


ドア一枚隔てた所にアンジュがいるかも知れないのに、俺は何をしているんだ。

こんなに昂った事なんて、今まで一度もなかった。

アンジュ、好きだ。

いつか君を抱きたい。

そう思う事を、どうか許して欲しい。


「……っ」


射精と共に、アンジュへの罪悪感が湧いて出てくる。


「好きだ、アンジュ…」


いつか、この気持ちを、君に伝えられたら。

そうしたら君は、どんな顔をするだろうか。

先程みたいに、顔を赤くしてくれるだろうか。

そうあって欲しい。

シャワーから戻ると、アンジュは部屋で眠っているとリマに聞かされた。

晩ご飯の時間になって、ようやくアンジュの顔を見ることが出来た。

明日は絵を描きたいと、楽しそうに笑う。

その為には体力を付けないとな、と言うとアンジュはわかりました、とまた笑う。

愛しいアンジュ。

俺は君を守るためにもっと強くなろう。

君が何者であっても、それが変わることはない。

そう、例えば君が男であっても。

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