#2

「アンジュ」

「はい」


名前を呼ばれたら返事をする。

これは今さっきノラ王子に教えてもらった。


「君はここに来るまで何をしていた?」

「ええと…」


あの部屋で過ごしていたことは言ってはいけないと、お父様に言われているから、何を言えばいいのかわからなかった。


「お部屋で本を読んだり、勉強をしていました」

「……そうか。ここが俺の屋敷だ。リマ」

「おかえりなさいませ、ノラ王子。そちらの方が…」

「ああ、妻になるアンジュだ。アンジュ、彼女はリマ。この屋敷を管理してもらっている」

「アンジュ様、リマと申します。よろしくお願いします」

「よろしくお願いいたします」

「その格好も疲れるだろう。着替えてきたらどうだ?」


着替え…。

お父様に四角い箱を渡されたのを思い出した。

あの中の服を着ればいいのかな。


「かしこまりました」

「アンジュ様、お部屋を案内いたしますね」

「はい」


リマさんに部屋に連れて行ってもらった。

あの部屋よりもすごくくて、ベッドも鏡もすごくおおきい。


「お着替えになったらお呼びください、外でお待ちしております」

「はい」


お父様に教えて貰った通り着替えを終え、リマさんと共に、ノラ王子の所へ向かう。


「ノラ王子、これからよろしくお願いいたします」

「ああ、よろしく」

「……」

「………」


何を話せばいいのかわからない。


「アンジュ」

「はい」

「君は何か趣味はあるのか」


ノラ王子は俺の方を見ないけど、お話をしてくれた。


「趣味……?」

「好きなことだ。例えば絵を描くとか、鍛錬をするとか…」

「ええと…お勉強は好きです。色んな事を学べるから」

「どんな勉強をしたんだ?」

「ええと…文字の読み書きと、あと、あ、お外を見るのが好きです!色んな色があって、とても綺麗で…!」

「そうか。なら絵を描いてみるか?」

「絵、ですか…?いいんですか?」

「リマ、そういったものはここにあるか?」

「御屋敷からお借りしてきますね」

「助かる」


絵を描くなんて、初めてだ。

お勉強の時に見たあれを絵だと教えてもらったことはあるけど、俺もあんな絵を描けるのかな。


「お待たせしました。アンジュ様、どうぞ」

「…あの、使い方を、教えていただけますか…?」

「リマ」

「かしこまりました。リマ様、こちらへ」

「はい」


俺はリマさんの後についていった。



***



「か、かわいい~~~っ………」


俺はアンジュに一目惚れした。

真っ黒な長い髪に、大きなブルーの瞳に女性らしい潤った唇。

見た目もだが、行動一つひとつが可愛いらしい。

俺の周りにいる女性は、強く逞しい女性が多く、守ってやりたい、と思った女性は初めてだった。

外を見ると、アンジュがリマに絵の具の使い方を教えて貰っていた。

可愛いと思いながらも、アンジュの今日の行動を思い返す。

名前を呼ばなければ返事をしない、絵の具の使い方も知らない、趣味が何かもわからないとは。


「世間知らずにも程があるだろう…」


いや、それだけじゃ無いかもしれない。

彼女は何者だ?

何故テレサ国は彼女をこちらへ寄越した?

何か狙いがあるのか?

少し様子を見なければ。


「それにしても、可愛い……っ」


俺は一人、アンジュの一挙手一投足に悶えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る