第32話 協会専属の実力
「
固有スキルを発動させたセレナは、地面から出現する鎖を巧みに操り、ロブレンの体を固く拘束した。
その拘束は並大抵の攻撃では抜け出せない。
少なくとも、今までのセレナの戦闘ではそうだった。
だが、ロブレンは鎖に縛られたまま無数の魔物を手のひらから出現させる。
「グギャギキジニギガガァナガァ!!」
狼の魔物、蛇の魔物、熊の魔物、巨大な蜂の魔物、スライム……様々な魔物が混ざり合い、洪水となってセレナへと襲い掛かった。
「っ!」
セレナは自身を鎖で防御するため、仕方なしにロブレンの束縛を解き、自分の周囲へと鎖を回す。
鎖はセレナの周囲で球体のように回転すると、迫りくる魔物たちを全て弾き飛ばした。
鎖の高速回転により、魔物たちはそれなりのダメージを負っていた。
「流石は協会専属の冒険者ってところだ。一筋縄ではいかないみたいだね」
洪水のような魔物の流れを操り、手元まで戻すロブレン。
冒険者協会からはただ『魔物を操る固有スキルを持っている』とだけセレナは聞いていたが、どうやら『操る』と一言に言ってもかなり融通が利くらしい。
魔物をただ手なずける……テイムするだけではなく、魔物同士を合成したり分解したり、さらには巨大な物体の奔流のように変形させることまで可能のようだった。
ロブレン自体の身体能力は恐らく魔級程度だが、魔物を操る固有スキルがロブレンの力を天級にまで押し上げている。
「そちらこそ……ところで、あなたたちの目的は何?」
「ふふ、何だと思うかい」
「メイラスの襲撃でしょう。でも、あなたたち……特にあなたには、別の目的もあるんじゃない?」
今まで考えていたことを率直に述べたセレナに、ロブレンは驚いたように眉を上げる。
「おぉ、二つとも正解だ。そう、俺たちはメイラス壊滅を考えている……でも、俺の本当の目的はその先にあるんだ」
「それは?」
「俺を倒せたなら教えてあげよう」
ロブレンが体の周囲に纏っていた魔物の洪水を操ると、その魔物たちはまるで一匹の巨大な龍のような姿へと変貌した。
それも、翼が付属した二本足のドラゴンではなく、東部の諸国に生息する細長い蛇のような龍の姿である。
「さぁ、これを耐えられるかな!」
ロブレンは龍を指揮して、セレナを襲わせた。
セレナは体の周囲に鎖を纏ったまま、跳躍、龍の突撃を避けていく。
どのように倒すか……それを考えている内に、周囲の地面や壁が龍の攻撃によって急速な勢いで削れていった。
「あまり長く考えている時間はないようね」
体の周囲に纏っていた鎖を巻き取り、剣の形を作ると、それを使い龍の首元を目掛けて振り下ろした。
龍の首元に鎖の剣が当たった瞬間、それは色を黒へと変色させる。
途端に、龍は上から有り得ないほどの重力をかけられたように地面へ倒れ伏した。
ロブレンの余裕だった顔が、僅かに戸惑う。
「……どういうことだ」
セレナは龍を地面に叩きつけた後、そのまま剣を逆手に持ち替えて龍の首を突き刺した。
またもや、その鎖が有り得ないほどの重量を持つかのように首元に食い込んでいき、やがては龍の首を貫通した。
「ギュァアグバギアアグア!?」
龍は苦しみ悶えるが、それを気にせずセレナはそのまま尾へ向かって龍の体を割くように切り裂いていった。
やがて、体が二つに分かれた龍はその場でグズグズと溶けていく。
「クソ……戻れ」
舌打ちをすると、ロブレンは龍を掌に吸収していった。
「君のスキル、ただ鎖を出現させるという能力じゃないみたいだね」
「ご名答。私の宵闇の鎖は、強力な重力が付与されるようになっているわ。それによって、ただ叩きつけるだけでも強力な重力で無理矢理敵の体を切断できるという訳」
「ふー、恐ろしい力だよ。全く」
ロブレンは諦めたように、拳を構えた。
「ここからは、俺が直々に君の相手をすることにしよう」
「……望むところ。だけど、あなたはどちらかというとスキルに重きを置いた戦法なのでは?」
「戦ってみればわかるよ」
二人が構えたまま、数秒の時が過ぎる。
しかし、その静寂を破るようにロブレンの周囲に多数の氷柱が出現した。
「俺も交ぜてくださいよ、セレナさん」
セレナが傍らを見ると、バレットが
「バレット君。あの魔物たちは?」
「二体は俺が倒しました。残りはルークの仲間たちが抑えてくれてます」
「そう」
二人は再びロブレンに向き合う。
ロブレンは氷柱を砕きつつ、その中からぬるりと這い出してきた。
「くく、そうか二対一か。まぁ、何とかやってみるとするかな!」
ロブレンは跳ねるように走ると、まずはセレナへと殴り掛かる。
しかし、それを防ぐようにバレットが銃を構えてガードした。
その防御を受けつつ、魔物を次々と手から繰り出し同時に打撃を重ねていくロブレン。
それに対し、バレットは銃を逆手に持ってトンファーのようにすると、それを振るって魔物たちを次々と砕いていった。
魔物たちは様々な種類を混ぜたキメラだったが、無理矢理混合したことによってどうやら耐久力が落ちているらしい。
ほぼ一撃でバレットが魔物たちを打ち砕いていく間に、セレナはロブレンへ鎖の剣で斬りかかった。
ロブレンはそれをキメラのを変形させた盾でガードするが、鎖に宿った重力によって盾ごと膝をついてしまう。
しかし、次の瞬間セレナは重力付与を解いた。
鎖は黒一色からシルバーへと戻る。
隙が出来た、とロブレンは立ち上がってキメラの奔流をセレナへ撃ちだす……が、セレナはそれを再び鎖の剣でバターを斬るように引き裂いていった。
ロブレンがそれを見て一旦後退しようとした瞬間、バレットがロブレンの足元に氷弾を撃ちつける。
それによってロブレンの足元は凍り付き、身動きを封じられた。
「私たち二人を一人で倒せると思っているのは……流石に冒険者協会を舐め過ぎよ」
次の瞬間、セレナは鎖を剣から槍ほどの長さに伸ばすと、そのまま鎖でロブレンのわき腹を撃った。
撃ったと同時に鎖を黒く変色させ、重力を付与させる。
すると、ロブレンの体はあり得ない速度で折れ曲がり、氷の束縛からも解放されて壁に吹き飛んだ。
ドガン、という音と共にロブレンは壁に激突し、ズルズルと倒れ込む。
「思ったより手間かかりませんでしたね」
「うん、魔物を操るスキルが輝くのは集団戦のようだしね。メイラスを襲う前に叩けて本当に良かった」
そのまま鎖で捕縛しようと、セレナがロブレンの下へ歩いていこうとするが、その時。
「ロブレン!! ありったけの魔物の力を、俺に寄越せ!!」
離れたところから叫ぶラウドの声に、思わずセレナはそちらを振り向く。
そこには、地を這うラウドとその横で片膝をついているルークがいた。
どうやらルークは、ラウドに勝ったらしい。
そのことでセレナはつかの間安堵するものの、同時にラウドの言葉に不安を煽られる。
魔物の力を譲渡する……本当にそんなことが出来るのならば。
「……マズい」
セレナは走り、ロブレンを鎖で固く拘束しようとするものの、一瞬遅かった。
「クソ、計画失敗か。いけると思ったんだけどなぁ。こうなれば後は君に賭けよう、ラウド」
あと少しでセレナがロブレンを縛れるというところで、ロブレンは手からありったけの量の魔物たちを放出した。
それは巨大な力の洪水となり、ラウドに注ぎ込まれる。
「お、おお、おおおお……!!」
魔物の勢いに押され後退するルーク。
その眼は異常事態を前にして見開かれていた。
そして、そのルークの眼前でラウドは大量の魔物たちを取り込み……凶悪な変貌を遂げる。
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