第33話 総力戦
ルークの眼前では、跪いたラウドの周囲で魔物たちの肉がうごめき、一斉にラウドと融合しようとしていた。
「な……!?」
ラウドの体にねっとりと魔物の肉が貼りついていき、それらは少しずつ巨大なドラゴンの形を作っていく。
暗褐色の羽、角、そして尾を、ラウドは肉の塊によってまとめ上げていった。
身体の形成が終わると、そこにはラウドをさらにもう二回りほど大きくした黒い竜が立ちはだかっていた。
黒い竜は首をもたげると、ルークをじろりと睨む。
「さぁ、これでお前をブチのめすことが出来るな」
恐怖を感じたルークが身構えた瞬間。
ラウドは尾を振るい、ルークを叩き飛ばした。
「ぐあっ!?」
ルークはエマたちの方まで吹き飛ばされると、肉の壁に激突した。
「る、ルークさん!?」
駆け寄ってくるエマたちに助け起こしてもらいながら、何とかルークは立ち上がる。
「な、なんなんだアイツは……」
ルークは若干頭をフラつかせながらも、ラウドを見る。
黒竜となったラウド……その体を構成する部分のほとんどは、ロブレンが保有していた魔物たちの肉である。
ラウドは自らキメラとなることによって、桁違いの攻撃力を手に入れたのだった。
ルークたちの下へ、セレナとバレットが走ってくる。
「マズいことになったわね。ロブレンの奥の手……と言った方が正しいのかしら、あのキメラ改造術は」
「どうします、セレナさん。今の六人でアイツと戦うことが出来るか微妙なとこですよ」
「とりあえず、私・ルーク君・バレット君の三人で攻める。後方支援をエマさんたちにお願いするわ」
セレナの手早い指示に、頷くルークたち。
「そこでコソコソ何を話してんだ。あ?」
ラウドはルークたちに向かってがぱっと巨大な口を開いた。
次の瞬間。
「
ラウドの流星炎が、ルークたちに向けて発射される。
咄嗟にバレットが氷壁を出現させ、さらにセレナがそれを鎖で覆って即席の防壁を作る。
だが防壁は流星炎を受け止めると、その威力に耐えきれず、ジリジリと形を崩していった。
氷壁を継ぎ足し三重の氷壁構造にしたことによって、何とか完全にラウドの流星炎を防ぐことが出来た。
「この威力の攻撃をバカスカ撃たれたらたまらないな……!」
「私が先頭突っ切って奴にダメージを与えるわ。ルーク君とバレット君はついてきて!」
「「了解!」」
氷壁を飛び越え、セレナ・ルーク・バレットの三人はラウドを目掛けて一直線に走っていく。
ラウドは細かい流星炎の火球を撃ちだしていくが、それはセレナが鎖で全て弾いていった。
そのままセレナはラウドの体を鎖で拘束しようとする……が。
「残念だったな! 今の俺には羽があるもんでな!!」
ラウドはその場から飛び立ち、鎖から逃れた。
グルグルとダンジョンの天井スレスレを旋回しながら火球を連続して放つラウド。
それをセレナが可能な限り防ぐが、それでも零れてきた火球でルークたちはダメージを負っていった。
「ぐあああああ!」
ルークは火球の一つに当たり、燃え盛るような黒い炎に身を焦がされてしまう。
それに気づいたバレットがルークに向けて氷弾を撃ちだし、何とか消火させた。
「ありがとう、バレット!」
「ああ……ぐあっ!?」
しかし、唯一消火能力を持ったバレットが重点的に襲われることになる。
バレットは自分の周囲に氷弾を撃ちだすので精一杯なようだった。
「クソ、こうなったら!」
ルークはありったけの魔力を流星気に変換、それを脚部に集中させてラウド目掛けて跳びあがる。
「ラウドッ!!」
ラウドの背中に飛び乗ったルークは、背中に流星炎を連打する。
魔物の肉で分厚くガードされているとはいえ、流石に無防備な部分を攻撃し続ければラウドの体にも流星炎は届く。
「ちまちました攻撃しやがって……!」
怒り狂ったラウドはルークを振り落とそうと体を震わせるが、それでもルークは離れない。
そうしてラウドの高度が少し下がったところで、セレナの鎖がラウドの体に引っ掛かる。
セレナがそれを強く引いたことで、ラウドは地へと落ちた。
「があっ!!」
ますます怒りを募らせたラウドは、流星気を纏って鎖を引きちぎらんばかりに暴れ出した。
しかし、セレナはそれに重力を付与し、必死にラウドを御していく。
「ルーク君! 今のうちにありったけの攻撃をラウドにかまして!!」
無言で頷いたルークは、再び流星炎を流星気で包み込み始める。
「グオオオオ、ルーク……!!」
ラウドは怒り狂いながら鎖を引きちぎろうとするものの、セレナはありったけの重力を付与、さらにバレットが周囲に氷壁を作ることでラウドの動きを強固に固定した。
「ラウド……これで終わりだッ!!」
ルークは流星気を使い、ラウドの頭上へ飛び上がる。
そして両手に込めた複数の流星炎……いや、流星炎雨弾をさらに巨大なに合体させていった。
「
超巨大な流星炎は一塊の隕石となり、ラウドに向かって激突した。
― ― ― ― ―
「が……あ、あ……」
溶けていく氷壁と鎖にがんじがらめにされたままラウドは燃え、朽ちていく。
しかしやがてその炎は段々と収まっていき、ついには黒ずんだラウドの死体だけが残った。
「終わった、んですか……」
後ろからよろよろとエマたちが近づいてくる。
それに対し、ルークはラウドを見、一瞬目を伏せてから頷いた。
ついにやった、と喜ぶエマ・メリッサ・シャノン、一息つくバレット、そしてラウドの死体を見つめるルークを置いて、セレナは壁際で倒れているロブレンへと近づいた。
「あれだけやったのに、結局倒されたか。ラウドも使えないね……」
ロブレンがヨロヨロと起き上がったところを、セレナは鎖でガッチリと拘束する。
「さぁ、教えてもらいましょう。結局あなたたちが何を企んでいたのか」
「……じゃあ、一つだけ。ラウドはただ暴れたかっただけ。これは間違いない。そして俺の目的は……ある方に自分の実力を見せることだった」
「ある方?」
「ああ。俺はそのお方に一個の街を壊滅させるほどの実力があることを示し、組織に入れてもらうことが目的だった」
「あるお方といい組織といい、結局具体的な言葉が出ないようだけれど……まあいいわ。続きは協会でやりましょう」
セレナが鎖ごとロブレンを引きずって行こうとするが、ロブレンが抵抗したことで歩みを止める。
「何、まだ戦う気?」
「いや、ただ最後だし……この場で忠告しておこうと思ってね」
「……何かしら」
「これから二ヶ月程のちに、王都で『魂測戦抜』が開かれるだろう? 組織はきっとそこに現れるよ」
「どういう意味?」
「ふふ、どういう意味だろうね。それじゃあ、さようなら」
瞬間、ロブレンの口元から奇妙な音が聞こえ、反射的にセレナは身構える。
しかしそれは何らかの攻撃などではなく、ただロブレン自身が舌を噛みきっただけだった。
それを見たセレナは少し驚くものの、やがてため息を吐いた。
「自害までするなんて……してやられたわね」
ロブレンの死体からゆっくりと鎖を解くと、セレナはルークたちの方へ向けて歩き出した。
今回の顛末、そして今後について話し合うために。
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