第31話 固有スキル・覚醒

加速斬アクセル・ブレイク!」


 バレットの氷塊攻撃で、魔物を二体と三体に上手く分断した後。

 一斉に襲い掛かってくる三体の魔物たちへ、メリッサは加速し高速の斬撃を放った。

 しかし、斬り刻んだつもりだった三体の魔物たちには、ほとんど傷がついていなかった。

 恐らく、加速斬では切断できないほど硬いのだろう。

 だが、メリッサの役目はあくまでも『細かい傷をつけること』だった。


「やっぱり強いねー……っと!」


 加速を終えたタイミングを狙われ、魔物の触手攻撃がメリッサに炸裂する。

 しかし間一髪で避けると、向かってくるシャノンへとバトンタッチした。


「後はよろしく!」


「うん」


 シャノンは三体の魔物目掛けて短剣を構えて接近するが、三体同時にシャノンをターゲットとしているので、攻撃の隙が見当たらない。

 しかし、シャノンを援護するためエマが閃光撃ライトニング・シュートを背後から多数発射させた。

 それにより、魔物たちは一時的に陣形が崩れる。

 その隙を狙って、シャノンはスキルを発動させた。


溝撃斬クラック・ブロー


 シャノンは魔力の流れを読み、その流れに沿って魔物たちを斬りつけていった。

 先にメリッサが加速斬で細かい傷をつけていたので、そこに当てていくイメージでさらに斬撃を放っていく。


「「「!?」」」


 結果、シャノンの攻撃は成功。

 三体の魔物についていた細かな傷は、シャノンの傷口を開くような攻撃によって、多大なダメージを受けることになった。

 魔物たちはそれにより、一斉によろめく。


「エマ!」


「今だ、エマちゃん!」


 二人の声に押されたエマは、閃光大槌ライトニング・ハンマーを発動させるため、杖の周囲に魔力を溜める。

 杖はその身を光り輝かせると、やがて巨大な光の塊へと姿を変えた。


 一番大きく体勢を崩していた魔物の一体に向かって、エマは光の塊を放った。


閃光大槌ライトニング・ハンマー!!」


 触手腕で反撃する暇もなく、魔物の一体は潰れて消えた。


「まずは一体!」


 再び動き出した他二体も仕留めるため、エマたちは攻撃の手を緩めない。

 だが、仲間を一体殺されたことで二体の攻撃は激しくなり、一時退却を余儀なくされてしまった。


「くっ、さっきのは全力じゃなかったわけですか」


「いや、というよりも見てみなよ。なんかアイツら大きくなってない?」


「……さっきよりも五割増しになってる」


 どうやら、エマが閃光大槌で潰した一体の肉片を他の二体が吸収、より巨大化したようだった。


「倒したらその分パワーアップするのか。厄介だね」


「だったら、二体同時に倒せばそれまでです! 三人で同時攻撃を仕掛けましょう!」


「わかった」


 エマたちは攻撃の陣形を崩さず、先ほどと同じように攻撃していく……が。

 さらに巨大化した魔物たち、その絶え間ない攻撃には反撃する隙が無く、じりじりと押されていく。

 巨大化した分攻撃力が上がっているようで、一撃一撃が地を裂くほどの威力になっていた。


 その内、シャノンが魔物の触手腕に絡めとられてしまう。

 そのまま体を締めあげられるシャノン。


「ぐうっ!」


「マズいっ!」


 メリッサがシャノンを助けるために接近するものの、もう一体の魔物が素早く間に割って入った。

 その魔物は肉体を変形させ、片腕を鋭利な剣へと変える。

 そしてそのまま、素早い斬撃をメリッサに向けて放った。


「クソッ」


 何合か打ち合うものの、結局メリッサは競り負けて肉の地面に転がってしまった。

 二人が窮地に陥ったところでようやく体勢を立て直したエマだったが……二人を一斉に助ける方法が、どうしても思い浮かばない。

 片やメリッサは剣を構えた魔物に迫られ、片やシャノンは全身を締めあげられ既に意識を失う寸前である。


 二人を同時に助けられる方法は、今のエマは持ち合わせていなかった。

 だが。


「ルークさんに、言ったから……背中は任せてください、って」


 エマは杖を構えて、全身から魔力を放出する。

 何か考えがあるわけではない。

 しかし、全力を出すためにはこの方法が最良だとエマは直感的に理解していた。


「だから、こんなところで倒れるわけにはいかない!!」


 全身から立ち上った魔力が、急速に巨大なシルエットを形作る。

 そのシルエットは形が完全に定まると、大柄な騎士の姿となった。

 騎士は全身から淡く発光し、辺りを明るく照らしていた。

 それを見たエマは、咄嗟の出来事に一瞬唖然とする。


「あなたは……!?」


 しかし、騎士がエマへ向けて一度……たった一度頷いたことで、エマは全てを察した。

 エマ自身の魔力から形成された、今までのどの汎用スキルとも違う巨大な騎士。


「そう、あなたが……私の固有スキル」


 騎士はその巨躯からは目にも止まらぬ速さで剣の魔物へ近づくと、その手に大剣を生成し、あっという間に魔物に強力な一撃を加え、後退させた。

 次にシャノンを縛っている触手の魔物に一太刀を加え、シャノンを解放させる。

 二人は息も絶え絶えエマの下まで後退してくる。


「ありがとう、助かった」


「エマ……ありがとう」


 二人にエマは軽く頷くと、光の騎士に一旦こちらへ戻ってくるよう念じる。

 すると、騎士は傍らまで一瞬で戻り、跪いた。

 エマは軽く騎士を撫でると、口を開く。


「あなたの名前は……守護神ガーディアン光明の守護神ラジアンス・ガーディアンね」


 エマの脳内にふわりと浮かんできたイメージを、具体的に言葉にする。

 名前が決まったことにより、騎士……光明の守護神の輝きは、より一層強まった。


「お願い、光明の守護神……力を貸して」


 光明の守護神は重々しく頷くと、立ち上がって大剣を構えた。

 大きなダメージを受けたものの、依然として立ち向かってくる二体の魔物たちに向けて、守護神は駆ける。

 大剣を素早く振りかぶると、魔物の一体に斬撃を与えた。

 触手の魔物はそれによって体が真っ二つに斬り裂かれ、肉の破片となって地に落ちる。

 剣の魔物がその隙に守護神へ斬撃を放つものの、それを守護神は大剣いとも容易く受け止め、そのまま斬撃を放った。


「すごい……」


 メリッサやシャノンが感嘆している間に、守護神は二体の魔物を倒してしまった。

 魔物の肉片が合体せずに完全に消えていくのを見ると、守護神はゆっくりとその姿を消していった。

 完全に守護神の姿が消えると、エマはよろめく。


「エマちゃん、大丈夫?」


「は、はい。少し魔力を使い過ぎたみたいです……」


「あの騎士って、エマちゃんの固有スキルだよね? 初めて発現したのをあれだけ使いこなせたんだ、大したもんだよ」


「はは……」


 メリッサはエマをその場へと座らせると、シャノンと共にルークの方を見る。


「私たちはルーク君を援護しに行く。エマちゃんはそこで少し休んでなよ」


「ありがとうございます……」


 しかし、その時だった。


「ロブレン!! ありったけの魔物の力を、俺に寄越せ!!」


 ルークと戦っていたラウドが叫んだことにより、三人は事態の急変を悟る。


 ― ― ― ― ―


「さて」


 バレットは二体の魔物を静かに見つめていた。

 その手には、濃紺のリボルバーを携えている。

 氷結晶飛銃グレイシア・リボルバー、それがバレットの固有スキルだった。

 能力は氷の弾丸を撃ちだすというシンプルなモノだったが、その威力は絶大である。


「もう一体ぐらい手伝うべきだったか……」


 バレットは目の前で身動きが取れなくなっている二体の魔物を見る。

 魔物たちはいずれも氷によって体を固定され、じわじわと氷像にされつつあった。


 だが、魔物たちは肉体を自在に変形させ、何とか氷塊から体を逃す。

 そのまま再び向かってくる魔物たちだったが、バレットは銃を撃ち、また魔物たちの動きを止めた。


「悪いな。セレナさんの加勢に行かなきゃならない、お前たちと戦うのはこれで終わりだ」


 バレットは素早く走り出すと、氷塊に完全に覆われた魔物たちを氷塊ごと砕いていった。

 それを軽く一瞥すると、バレットはロブレンと戦うセレナへ加勢するために駆けだした。

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