第30話 因縁に降る流星雨

 転生までの記憶が完全に戻ったルークの意識は、その瞬間現実へと引き戻された。

 連続で攻撃を喰らう前に、ルークは何とかラウドの束縛から逃れ、態勢を立て直す。


「へぇ、ドラゴンだった頃よりちっとは動けるようになってるじゃねぇか。だがなぁ」


 ラウドはルークに向けて両手を突き出した。

 するとその周囲に魔力が溢れ、次第にそれは竜巻となってラウドの両腕を覆った。


「まだまだ俺に届く強さじゃねぇよなぁ!?」


 竜巻が収まると、ラウドの両腕には銀色のガントレットが装着されていた。


竜巻腕鎧スピニング・ガントレット……俺の固有スキルだ。今からこれを使って、お前を跡形もなく消してやる」


「……ッ!」


「チッ、そんな怖がるなよ。戦いの最中に怯える奴を俺が嫌いなのは、よく知ってるだろ? 少しは動けるようになったんだから、その力で俺を楽しませてみろッ!!」


 ガントレットを構えると、ラウドは一気に駆け出してルークの体に竜巻を捻じ込んだ。


「ぐあっ!?」


「まずは一発ッ!!」


 ルークの腹部で唸りを上げて旋風を起こす腕鎧に、たまらずルークは吹き飛ばされてしまう。

 殴られる直前、流星気で腹部をガードしていたため耐えられたものの、この攻撃を喰らい続ければいずれルークが負けることは明らかだった。


 少しでも回復する時間を稼ごうと、ルークは防御の態勢を保ったままラウドに聞く。


「ラウド……お前は何でロブレンなんかと組んでるんだよ?」


「話を聞く余裕がお前にあるとは思えないがな。いいぜ、答えてやるよ」


 ラウドはセレナと戦っているロブレンをちらっと振り返ると、またルークに視線を戻した。


「簡単なこった、俺はお前みたいな弱い奴は嫌いだが、強い奴は大好きなのよ。下界に降りて所かまわず強者に勝負を挑んでた時、アイツに会ってな。アイツに協力する代わりに、魔級以上の魔物と戦う機会を沢山貰えるっていうから手を組んだ」


「魔物と戦う……」


「上級までの魔物ならそこら辺うろつけばすぐに見つかるが、魔級以上となると特定の場所に出向かないと出会えない。奴からは魔物の居場所を聞き出したりしてたんだ。ま、最終的にこのダンジョンに住まうことで落ち着いたがな。魔級の魔物がそこそこいていい環境だぜ、ホント」


 指をポキポキと鳴らしながら、ラウドは言葉を続けた。


「俺の目的は強い奴ととにかく戦うことだ。ロブレンは街の襲撃に手を貸せば、もっと強い奴と戦わせてやると言った……強い奴らと戦えるんなら、街の一つや二つぶっ壊したってどうってことない。弱い奴が住んでる所なんざ、元から興味ないからな!」


「野郎、そんな理由で!」


「さて、これだけ三下みたいにベラベラ喋って時間を稼いでやったんだ、少しは回復したか?」


「ッ、言われなくても!」


 ルークは流星気を再び全身に纏い、ラウドへと攻撃を仕掛けた。

 二人の打撃の応酬は熾烈を極める……が、ルークが必死で拳を繰り出すのに対して、ラウドはいとも簡単そうにそれらを捌いていく。


「……ま、こんなもんか。二発目!」


 今度は顔面に旋風の拳を喰らったルークは再び地を這うことになってしまう。


「ハァ、ハァ……クソッ!」


 素早く立ち上がるものの、既にその体は前後へ揺れており、動くのがやっとな状態だった。


「少しは強くなったと言ったが、ホントに『少し』強くなっただけだったな。そろそろお前に付き合ってやるのも飽きた……終わりにしようか」


流星炎メテオ・ブレイズッ!!」


 拳を繰り出そうとしたラウドに向けて、ルークはありったけの流星炎を放出する。

 しかし次の瞬間には、ラウドの両腕から放出された竜巻により、炎は跡形もなく消し去られていた。

 流星気での身体強化も流星炎も碌に通じない。

 ルークには最早打つ手などなかった……今までの戦いならば。


「……なら、これでどうだ」


 ルークは両手を前面に突き出す。

 そこから小さな流星炎を一つ、二つと少しずつ量産していく。


「何をやる気か知らねぇが、俺が終わりって言ったら終わりなんだよ!!」


 ラウドはルークに向かって距離を縮め、今度こそ完膚なきまでに叩きのめそうと拳を繰り出す……が、その直前。

 複数の流星炎がルークの周囲に形成、さらにそれを莫大な流星気で覆ったことで、ルークの新たな技が完成した。


 ラウドの拳がルークに致命的なダメージを与える前に、流星気で覆われた流星炎は……ラウドに向かって牙を剥いた。


流星炎雨弾メテオブレイズ・ヘヴィレイン!!」


 流星気で覆った流星炎は、流星雨のようにラウドの体へと直撃していく。

 当たった瞬間、流星気によって超強化された流星炎は爆発的な火力と共にラウドの体を貫いた。


「ぐああああっ!?」


 何が起こったのかわからないラウドはひたすらに悶えるが、戦闘経験の多さゆえか、それが超強化された流星炎だと理解したらしい。

 竜巻を生成して流星炎雨弾を吹き飛ばそうとした。

 しかし、超高火力の流星炎は一切消えることなく、そのままラウドの体を焼き続けた。


「が、あ、あ……!!」


「……なんとか効いてくれたみたいでよかったぜ。それが俺の奥の手だ」


 ラウドが炎に苦しむ間に、ルークはありったけの魔力を流星気に変換、拳に込める。

 通常の流星気では、ラウドにダメージを与えることはできない。

 限界の限界まで練り込んだ流星気、そしてそれを一点集中させることによって、はじめてルークの攻撃は通るだろう。


 次第に流星炎雨弾の炎はラウドの体から引いていく。

 表皮をありったけ焼かれたラウドは、息も絶え絶え怒り狂った顔でルークに拳を向けた。


「テメェ、つけ上がりやがって……!!」


「つけ上がってるのはお前だよ、ラウド!!」


 ルークの拳とラウドの拳が、それぞれの体へと向けて交差する。

 ラウドの拳を紙一重で避けたルークは、ラウドの顔へと最大火力の拳を振るった。

 ラウドに一度殺された過去を振り切るように。

 ルークはラウドの因縁を、今まさに断ち切ろうとしていた。


「これで……どうだああああッ!!」


「がああああッ!?」


 全力の拳に振りぬかれたラウドは、そのまま吹き飛び、やがて地を這ったまま静止する。

 二人は流星竜の村で組手を行っていた時とは、真反対の立場となった。

 見下ろすルークと、見上げるラウド。


「て、テメェ……そんな目で、俺を……見るな……!!」


 ルークはラウドをただ静かに、見つめていた。

 己のトラウマの元凶が、今自分に倒されて目の前に転がっている。

 そこに爽快感はなかった。

 ただ虚無の感情が、周囲を支配している。


「ラウド。お前は弱い奴が嫌いだと言ったな」


「だったら、なんだよ……!!」


「強い奴を追い求めるのはお前の勝手さ。ただ、弱い奴を踏みにじるような真似をしてるから、自分の予期しないところで仕返しを喰らうんだよ。こんな風に」


「強い奴を追い求めるのが俺の勝手なら、弱い奴を忌み嫌うのも俺の勝手だ! そして俺はまだ、お前に完全に負けたわけじゃない……!」


「何?」


 ラウドはフラフラとした動きながらも立ち上がると、後方へ向けて叫んだ。


「ロブレン!! ありったけの魔物の力を、俺に寄越せ!!」


 ― ― ― ― ―


 ルークとラウドの戦闘が始まる直前、エマたちは迫りくる肉塊魔物たちを対処するために、それぞれスキルを発動させた。


閃光撃ライトニング・シュート!」


 十数個の細かい光弾が、魔物たちを襲う。

 が、しかし魔物たちは腕を鞭のようにしならせてそれらを全て弾いた。

 そしてそのまま鞭攻撃をエマたちに放つ。


 それらを咄嗟に躱していくエマたちだったが、魔物たちの攻撃はそのまま止むことがない。

 相手はあくまで魔級魔物である。

 三人がかりでやっと一体倒せるぐらいの力量差なことを考えると、魔級魔物三体を一度に相手することは、明らかに無茶と言える。


 しかし、それでもエマたちは引けなかった……なぜなら、ルークの背中を預かっているのだから。

 エマたちは攻撃をさばきながら、再び魔物たちに向けて攻撃を開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る