第29話 神との邂逅、そして転生
「神、様……?」
ルークはあまりにも現実味のない返答に対し、ほんの二文字の言葉を絞り出すことしかできなかった。
「あぁ。私はお前たちの世界で言う神。もっとも、生命体と言うよりかシステムと言った方が正しいが」
「は、はぁ」
気の抜けた返事しか出せない。
勿論、ルークもあの世界で生きていた以上、『神』という名前とその意味についてはよく知っている。
神とは、世界の創造者……世界の基盤を全て作ったもの。
故に流星竜たちも、幸福な出来事があるたびに神に祈りをささげていた。
ルークも毎回の食事時、神に祈っていた者の一匹である。
その神が、目の前にいる。
神の伝説を記した書物には『神は決して人前に姿を見せない』と書いてあったが、違うのだろうか。
ルークの頭に疑問符が浮かぶ。
その胸中を知ってか知らずか、神は続けて言った。
「本来、お前たちの世界に私が赴くことはない。だが、今回は一つ提案があって姿を現したのだ」
「提案、ですか?」
段々と緊張してきたので自然と正座になるルークに対し、神はこともなげに話す。
「お前、『転生』をする気はないか?」
「てんせい……とは、な、何でしょうか?」
「違う姿で、同じ世界にもう一度生まれることだ」
色々な思考が目まぐるしく回る頭で、ルークは転生の意味を咀嚼する。
「ちょうど、お前たちの世界で言う『あの世』が定員に達していてな。現在、世界規模の拡張を行っているところだが、拡張が終わるまでお前をこの空間には置いておけないのだ。だから、お前の魂がリサイクルされ、別者として生まれ変わることを私は望んでいる」
「な、なるほど……ですが、それだと疑問が一つあるのですが」
「なんだ? 言ってみろ」
「神様ともあろうお方ならば、自分の承諾なしに転生させればいいのではないですか?」
ルークが恐る恐る出した疑問に、神は驚いたように眉を上げる。
「お前に選択権がない方が、お前にとっても都合がいいと言うのか?」
「い、いえそういうわけでは。ただ純粋に気になったので」
「そうか。端的に言えば、転生を行うには転生する者の『意志』が重要となっているのだ。本人が強く転生を望まなければ、その世界へと繋がることは出来ない。噛み砕いて言えば、気持ちの問題というわけだな」
「なるほど……」
回答を得て、ルークは再度思考する。
「……もう一つ、質問をお許し願えますか」
「いいだろう」
「転生を自分が拒否した場合は、どうなるのですか?」
「転生しない場合は、完全にお前の存在を消す『抹消』を行うことになる。」
つまり、神の言葉をまとめると。
今の世界へ魂を変形させて『転生』するか、何もかも消してもらい『抹消』されるか、という二つの選択肢がルークに与えられていることになる。
しかし、抹消はルークにとっては完全にナシな選択肢だ。
ただでさえ不運な死に方をしたのに、その後に完全に存在を消されるなどたまったものではない。
ルークは出来るならば第二の生を送りたかった。
と、なるとやはり転生だろう。
ラウドによって道半ばで強制終了されてしまったルークの竜生。
それを例え別の姿でもやり直すことが出来るのは、願ってもないことだった。
さらには、別の姿でやり直す方がより幸福な生活を送れるかもしれない。
ルークの答えは、転生で決まった。
「……どうだ、考えがまとまったか」
「はい。自分は転生が良いです。よろしければ転生させてください」
「そうか、わかった。それではお前を転生させることにしよう。一つだけ言っておくが、転生後は転生前の記憶はなくなる。何かの弾みで記憶が蘇ることはあるかもしれないが……期待はしないでおくことだ」
「……ッ、わかりました」
「よろしい」
神が指を鳴らすと、ルークが座っている床に青い魔法陣が現れる。
それが光を増すとともに、ルークの体も光の粒と化していった。
ルークが次第に消えていくのを見ながら、何を思ったか神は言った。
「最後に、お前に一つ聞いておきたいことがある。お前は転生したその先に、何を望む?」
神の口から出ると思わなかった質問に戸惑うものの、ルークの答えは既に決まっていた。
「……自分の前世は、不幸の繰り返しでした。ほんの少しの幸福すらもしっかりと味わえないほど、不幸が自分に深い傷を与えていた」
自分で言ってて少し目頭が熱くなったが、それでも最後まで言い切る。
「だから今度の人生こそ、不幸に縛られないほど強く、そして幸福でありたい。誰だって、生まれたからには幸せでありたいはずです。自分も……それは同じですから」
それを聞いた神は、口元をほころばせる。
神にも感情があるのか……今まで無表情で話していた雰囲気とは打って変わって、ルークは柔和な印象を受けた。
「そうか。二度目の人生……楽しむがいい」
「……はい!!」
こらえきれず少し涙がこぼれた瞬間、ルークの姿は完全に白い空間から消え去った。
― ― ― ― ―
次にルークが目覚めたのは、木漏れ日の下だった。
「……ぁう」
声を出そうとして、口元の違和感に気付く。
異様に舌の動きがおぼつかない。
それどころか、両手両足を激しく動かすこともままならなかった。
やっとの思いでもぞもぞと横を向き、景色を見ようとすると編まれたカゴの側面が目に入る。
どうやらルークは、カゴの中に小さな体を収めているようだ。
「ぅ、あ、あー」
起き上がろうと手足をばたばたさせてみるが、一向に体が動く気配はない……が、手足を動かしたことで、その姿がよりはっきりと見えた。
しばらくもぞもぞと動いて気を紛らわし続けていると。
「……おや、こんな辺境に捨て子だと」
一人の老人が、カゴの中を覗き込んできた。
助かった、と思い大声を出すルーク。
「あー、あー!」
「おぉ、そうかそうか。一人で心細かったろう」
厳しそうな性格が垣間見える顔つきの老人だったが、ルークが声を発すると途端にニコニコとした穏やかな表情になり、ルークを抱きかかえた。
「ここで出会ったのも、何かの縁だろう。ちょうど引退して暇をしていたところだ。連れ帰ってやろう」
あやすようにしばらく抱くと、やがて老人はカゴに戻してカゴごとルークを持ち上げる。
すると、老人はカゴの中に入っている何かに気付いたようで、探って拾う。
それは文字が書かれた一枚のカードだった。
「ルーク……そうか、それがお前の名前か。よろしくな、ルーク。儂はゼルフだ」
「あー!」
よろしくの意を込め、ルークも返事をする。
老人・ゼルフは和やかに話しかけながら、カゴを携えて草原を歩き続ける。
こうして、ルークの第二の人生が始まったのだった。
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