第25話 共に戦うため

「ロブレンたちの居所がわかった!?」


 ルークがロブレンたちの所在を知ったのは、エマと修行を始めてから一ヶ月半ほど経った後だった。

 修行を終えた後、バレットに呼ばれてルーク・エマ・セレナはギルドへ来ていた。


「あぁ。俺もまさかとは思っていたが、ダンジョンに身を潜めているみたいだ。信頼できる冒険者パーティをいくらか雇ってたんだが、その内の一組がダンジョン内で強固に閉じられている部屋を見つけたらしい」


「閉じられた部屋? でも、ダンジョンにはそういう部屋って割とよくあるものなんじゃないか? そこにロブレンたちが隠れてるってなんでわかるんだよ」


「あまり言いたくはないが……周囲に、魔物の肉片が多数散らばっていたんだよ」


「魔物の肉片、って魔物は倒されると塵になるんじゃ」


「あぁ。だからそれらは『意図的に肉片にされている』んだ。恐らく実験の副産物……ロブレンの固有スキル効果だろう」


 ダンジョンのかなり奥、人目に付かない場所にその部屋はあったらしい。

 冒険者パーティの決死の捜索が功を奏したようだった。


「探索の途中で、パーティの人間が一人亡くなっている。見つけてくれたパーティの人間たちのためにも、俺たちは全力でロブレンたちを倒さなければならない」


 バレットの言葉に、ルークの拳は自然と力が入る。

 命を賭して敵の行方を見つけてくれた人々がいるのなら、自分たちもその期待に応えるべきだろう。

 修行の成果を見せる時だった。


「それで、ロブレンたちの居所がわかったのなら、そこに襲撃をかけるんだろ? いつ行くんだ」


「出来るだけ早く、かといって準備は整えねばならないし……そうね、明後日にダンジョンに潜ることにしましょう。それまでルーク君もバレット君も、体調を整えておいて」


 頷くルークとバレットを見て、エマが唐突に立ち上がる。


「あ、あの! 私も……というか私たちも連れて行ってくれませんか?」


 その言葉にルークは驚くが、すぐに宥めるようにエマを諭す。


「いや、ダメだ。なぁエマ、街跡の魔物以上の強敵なんだぞ? あの時はたまたまうまく行ったけど、今回ばかりは流石に了承できない」


「私もメリッサさんもシャノンちゃんも、もうあの時とは比べ物にならないくらい強くなってます。今度こそ役に立って……いえ、一緒に戦ってみせます!!」


 エマの宣言にルークは少しだけ胸を打たれるのの、ここで折れてはいけないと姿勢を正す。


「いや、それでもダメだ。今回ばかりは」


「それでもっ……!」


「その話なんだけど、ルーク君。実は私たちとしても人手が欲しいの」


「え? でも、前は三人で仕掛けるって」


「ロブレンたちが隠れている場所……ダンジョンなのがよくない。ロブレンの固有スキルは魔物を操るものよ。そしてダンジョンは絶え間なく魔物が湧き出てくる。この二つの事実から考えられることは」


「っ! そうか、相手の手駒が常に補充されていくのか」


「えぇ。だから、私たちとしても動ける人があと最低三人は欲しいの。道案内も含めて」


「セレナさん、道案内は俺が出来ます。探索したパーティから道は教えてもらいましたから」


「そう? じゃあバレット君に道案内は任せるとして、戦闘人員を残り三名程度ね」


 そんな会話を聞いたエマは興奮したように手を振り回す。


「残り三人ってことはピッタリじゃないですか、ルークさん! 私たちも一緒に行きます! 既にメリッサさんとシャノンちゃんの同意も取っているので」


「……でも、いや……うーん」


 それでもルークは、エマたちを連れて行くことを渋る。

 それほど、ルークにとって街跡の魔物との戦いはトラウマになっていた。

 もう二度と大切な人を失う、失いかけるような真似はしたくなかった。

 しかしそんなルークを見ていたセレナが、ポツリと呟く。


「では、一つテストを設けてみたらどうかしら?」


「……テスト、ってどんなものを?」


「エマさんたち三人で、魔級の魔物を一体討伐してもらうの。勿論、ルーク君の手助け抜きで。これが今回の同行の最低条件」


「単純に、力を示せってわけですか」


 セレナの言葉をまとめるバレットに対して、悩むものの「それなら、まぁ……」と同意するルーク。

 するとエマはみるみる顔を輝かせ、「やらせてください!」と決意を新たにした。


「じゃあルーク君は明日、エマさんたちとダンジョンに潜って。そこで魔級魔物の討伐を見届けたら合格、ということにしましょう」


「わかった」


「よし、決まりだ。セレナさん、準備手伝います」


「ありがとう、バレット君。それではルーク君、また明日。私かバレット君のどちらかは常にギルドにいるから、何かあれば連絡しに来て」


「了解」


 実力を存分に発揮する機会だ、と張り切るエマを心配気に見つめつつも、ルークはメリッサとシャノンが待っている家への帰り道を急いだ。


 ― ― ― ― ―


 翌日、ルークたち四人はダンジョンへ潜った。

 ギルドの情報によれば、以前ルークとエマで討伐した『泥沼大鬼マッド・オーガ』がもう一体現れたらしい。

 今回のテストは、その泥沼大鬼の討伐だった。


 ギルドでダンジョン探索用に配布されている魔道地図を見ながら、細かく枝分かれしている道を慎重に進む四人。

 やがて、前と同じような開けた場所に出ると、そこには泥沼大鬼が鎮座していた。

 前回と違うのは、空間の中央に巨大な石造りの椅子があり、そこに大鬼が座っているということくらいだろうか。


 大鬼はルークたちが来たのを勘づくと、目を開いてゆっくりと立ち上がる。

 

「ルークさんはここで見ててください。成長した私たちの実力、見せてあげますよ!」


「いいね、エマちゃんやる気だねー。そういうことでルーク君、見学よろしく」


「……頑張る」


 勇ましく歩いていく三人を後方で見送りつつ、ルークは後方へと下がった。

 テスト時は、エマたちが瀕死になるまで手出しは無用とセレナに言われている。

 固唾をのんで見守るしかなかった。


「いきますよ、メリッサさん、シャノンちゃん!」


「オッケー!」


「うん!」


 三人は別々の方向から、それぞれ大鬼へ向かって駆け出した。


「ガアアアアッ!!」


 大鬼はそれを見ると、戦闘開始の合図だと言わんばかりに咆哮する。

 そして、飛び掛かろうとする三人を薙ぎ払うように、巨大な棍棒を振った。

 その巨躯には似つかわしくないほど素早い初撃、ルークと出会った当初のエマだったら避けられないであろう攻撃。

 しかし。


「これくらいでっ! 閃光撃ライトニング・シュート!!」


 エマは紙一重の距離で棍棒をかわすと、そのまま棍棒を足場にして跳躍、そこからスキルの閃光撃を撃ち、上空から大鬼にダメージを与えた。

 前回の大鬼戦より格段に強化された閃光撃によろめく大鬼、さらにそこへ追撃するように、エマは杖を膨大な魔力で覆う。


「立て続けで……閃光大槌ライトニング・ハンマー!!」


 光り輝く巨大なハンマーと化した杖は、大鬼の頭に直撃した。

 あまりの威力に、大鬼はバランスを崩して倒れてしまう。


「す、すごい」


 遠巻きにハラハラしていたルークだったが、エマの成長ぶりには目を見張るものがあった。

 そして、倒れた大鬼を油断なくメリッサとシャノンが攻撃していく……その連携も息が合っている。

 

 しかし、大鬼は再びゆっくりと起き上がると、体から一斉に濁流を流し始めた。

 前回の大鬼戦では、ルークも苦しめられた技だった。


 だが、濁流の中にばちゃりと降り立ったエマは何も気にしてはいない。

 むしろその顔は、自身に満ち溢れていた。


 エマは光り輝くハンマーを杖に戻すと、今度はそれを宙へ放った。

 しかしそれは濁流の中へ落ちる手前、空中で停止した。

 エマは不敵な笑みを浮かべると、大鬼に向かって啖呵を切った。


「私の力を見くびってもらっちゃ……困ります」

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