第22話 修行

 翌日、しっかりと休息をとったルークはギルドへと赴いた。

 既にセレナとバレットは来ており、席を空けて待っていた。

 周囲の冒険者が、ギルドには場違いな黒いドレスを着ているセレナを、物珍し気にジロジロ見ている。


「おはようございます、ルークさん。では早速ですが作戦の説明を」


「さんと敬語はなくていいですよ。俺たち、多分歳も近いだろうし」


 和やかに話しかけるセレナの言葉を、ルークはおずおずとさえぎった。

 

「そう? それじゃあもっとフランクにいくね。ルーク君も敬語はなしで」


「わかりまし……わかった。よろしく」


「俺もそうさせてもらう。よろしく」


 軽く挨拶を済ませ、三人は早速本題に入った。


「まず状況を整理するわ。ロブレン・アラシェインはここ数か月、流星竜のラウドを用心棒として雇いつつ、比較的メイラスに近い小規模な村々を魔物を使って壊滅させている。それが愉快犯なのか何かの目的があるのかはわからないけど……とにかく、そろそろメイラスも襲われる危険性が高くなっていると思うの」


「小さな村から段々大きな街にって、狙う規模を大きくしてるのか?」


「恐らくそう。最終的には、この王国の王都に攻撃を仕掛けて、国家転覆を狙っているのかもしれない。街や村を狙うのは、その予行演習とも考えられる……冒険者協会はこの国から要請を受けて、私たちを派遣したの」


 セレナは地図を取り出し、今まで襲われた村や小規模な街にしるしをつけていく。

 確かに、それによるとロブレンたちの進行方向はジワジワとメイラスへと向かっていた。


「とりあえず、セレナたちが派遣された経緯はわかったけど、これからどうするんだ? ロブレンたちが街を襲うのを待ってたら、対応が後手に回らないか?」


「確かにそうだ。だからセレナさんは街の防御の強化を、俺はロブレンの行方を探り当てに来た」


 バレットがメイラスの周囲をグルグルと指でなぞる。


「恐らく、超長距離の転移スキルでも持っていない限りは、ロブレンはメイラス周辺に身を潜めているだろう。時が来るまで魔物の数を蓄えつつ、牙を研いでいるはずだ。とりあえずその場所さえ見つけられれば、俺たちの方から襲撃をかけられる」


「そうね。ロブレンたちの探索は、バレット君に任せてる。私は最終的にロブレンたちを見つけられず、街を襲撃された時の対策を行う予定。一応、街に結界を張る魔道具を持ってきているの」


「なるほど。襲撃にまで見つけられたらこちらから奴らを攻撃、見つけられなかったら諦めて防衛戦ってことか。それで、俺はどっちに付けばいいんだ?」


「基本的に探索は一人の方がやりやすい。俺の方は大丈夫だから、セレナに付いてくれ」


「わかった」


 それからルークたちは、もし街を襲撃された際の詳細な計画を練っていった。

 基本的に、人材はルーク・セレナ・バレットの三人では足りないことから、魔物たちの襲撃は街の守衛や冒険者たちに任せることになるが、それでもロブレンとラウドだけは、三人で止めることを決めた。


「それで、ルーク君には一つお願いがあるのだけれど」


「なんだよ?」


「出来れば、ロブレンは私とバレットで確実に抑えたい。魔物の制御権を握ってるのは彼だからね。だからルーク君には、ラウドを一対一でお願いしたいの」


「ら、ラウドと一対一……!?」


 自分が想像していたよりもかなり過酷な状況に置かれそうになったルークは、じっとりとした冷や汗をかく。

 今でも、ラウドと向き合った時の気迫を思い出すと吐き気がするほどなのに、それを一対一でもう一度やらなければならないとなると、相当な覚悟が必要だった。


 しかし、ここでルークがラウドを止めねばセレナとバレットの連携が崩れる。

 すると、ロブレンは何をするかわからない……街を守り切れなくなってしまう可能性も出てくるのだった。


「……わかった。何とかやってみるよ」


「ありがとう。とは言っても、今のルーク君の実力ではラウドを倒すことは出来ないと思う。だから、私がしばらく君の指導をするわ」


「ちょうど俺も修行しようと思ってたところなんだ、助かる。ところで、セレナたちは実力的には何級なんだ?」


「俺は魔級、セレナさんは天級だ」


 ルークが上級……魔級にギリギリ引っかかるぐらいだとすると、バレットとセレナはそれよりかなり格上ということになる。

 先日での戦いを思い返してみても、それは明らかだった。


「そうか……セレナ、よろしく頼む」


「えぇ。今から数週間で、ラウドを倒せるくらいまで君を強制的に成長させる。かなりスパルタだから覚悟しておいてね」


「お、おう」


 それから諸々の予定調整を済ませた後、解散の運びとなった。

 バレットはロブレンたちの行方を探索すると言って、一足先にギルドから出て行った。


「それじゃ、私たちも出ましょうか。ギルドの修練場に予約を入れてあるから、今から行きましょう」


 そのセレナの一言と共に、ルークたちもギルドから出た。


 ― ― ― ― ―


「じゃあ、とりあえず君の実力を再度確認しておきましょう。軽くかかってきて」


 修練場に来たルークは、早速セレナに組手の相手を頼まれた……が。


「その、ドレスじゃかなり動きにくいんじゃないか?」


「特に問題はないわ。この方が何と言うか……私としても気分が乗るし」


「そ、そうなのか」


 修練場で漆黒のドレスを着た少女に殴りかかる、というのも変な状況だったが、とりあえずセレナの胸を借りるつもりで、ルークは駆け出しつつ拳を振るった。

 しかし、固く閉じた拳は人差し指でいとも簡単に止められてしまう。

 いくら天級とはいえ、圧倒的な実力差にルークは驚愕した。


「なっ!?」


「あぁ、言い忘れてたけどスキルを使ってかかって来てね。素の状態じゃ、多分勝負にならないから」


「ッ、流星気メテオ・オーラ!!」


 ルークは流星気を全開にして身体を超強化した上で殴りかかる。

 だが、それでもセレナは汗一つかかずに全ての攻撃をさばき切った。


「こ、これが天級……」


「ほら、攻撃の手が緩んでるよ」


 指で額をツンと押されただけなのに、異様な力を感じたルークは吹っ飛ばされるように地面を転がった。

 そこから何とか体勢を立て直すと、周囲への配慮を忘れて火球を作り出す。


流星炎メテオ・ブレイズ!!」


宵闇の鎖ダスク・チェイン


 しかし最大火力の流星炎も、セレナのスキルである鎖にガードされてしまい、セレナ本体には傷一つ付かなかった。

 そして、火球を撃ちだした後に隙が出来たところで、ルークは鎖に捕縛されてしまう。

 そのまま鎖で”すまき”にされた状態で、ルークは地面を転がる。


「なるほど、実力は概ねわかったわ」


 セレナは地面でバタバタしているルークに近づくと、鎖を解いていった。


「ルーク君はそこそこ動けるとは思う。でも、魔級や天級を相手にするとなると、まだまだ火力が心もとない。街跡に住み着いていた魔物はどうやって倒したの?」


「む、無我夢中で仲間を助けようとしたら、何故か力が出たんだ。なんか今までに自分でも感じたようなことがなかった、体の底から出てくるような力というか」


「ふむ、『固有スキル』の発現、なのかな」


 セレナが言う固有スキルというのは、一部の人間に稀に発現することのある、『その人物にしか扱えない特殊なスキルのこと』である。

 他のスキル、『汎用スキル』よりも一般的に能力は強力で、固有スキルのみを好んで使う人間も多い。

 しかし、全ての人間が固有スキルに目覚めるとは限らない……とルークはゼルフから聞いていた。


「どうだろう、わからない」


「でも、その謎の力だけに頼るのは恐らく悪手ね。固有スキルもそれは同じ。不確定要素がある力に頼るのは、ポテンシャルを十分に活かせない可能性が高いわ。今回は、手持ちのスキルをさらに高めたり組み合わせたりして、新しい強みを作ることが先決でしょう」


「新しい強み?」


「そうね、こう言った方がわかりやすいかも」


 ルークに手を貸し、地面から起こしながらセレナは言った。


「編み出しましょう、あなただけの『必殺技』を」

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