第21話 メイラス防衛計画
ロブレンたちが逃げ去った後、セレナとバレットが乗っていた馬車に乗り、ルークたちはメイラスへと帰った。
負傷したメリッサたちは報告をルークに任せ、そのまま自分たちの家へと帰っていった。
残ったルーク、セレナ、バレットの三人はギルドの扉を叩く。
受付嬢に軽く挨拶をしたルークは、そのまま『先日受けた依頼の報告がしたい』と、ギルド長・ゾウスへの面会を頼んだ……勿論、セレナとバレットも一緒に。
「討伐できたのか! そうか……いやはや、本当に良かった」
セレナ、バレットの存在を訝しみつつも、ゾウスはルークから討伐完了の報告を聞くと、安堵したように背もたれに体重をかけた。
「ですが、討伐後に謎の二人組に自分たちのパーティが襲われました。そしてその二人組は、街跡に住み着いていた魔物と何か関係性があるようです」
「……ふむ。それで、その二人は」
「謎の二人組に襲われた俺たちを助けてくれました。セレナさんとバレットさんです」
ルークの紹介から、セレナとバレットは肩書を話す。
「なるほど、冒険者協会の方でしたか。しかし協会が関わっているとなると、その二人組は協会のブラックリストに載っている犯罪者なのですか?」
「ええ。二人組の内、ロブレン・アラシェインはブラックリスト入りしている犯罪者です。そしてそのロブレンが組んでいるラウドという流星竜も、最近協会では度々行動が危険視されています」
セレナによると、ラウドは世界各地の有名な冒険者や騎士たちに勝手に戦いを挑んでは、殺すまで戦闘を辞めない戦闘狂のような行動をとっているらしい。
「一連のラウドの行動は、どうやら流星竜たちの中でも快く思われていないらしいですが、ラウドはそれを無視して各地の強豪たちを一人で倒しているようで……そして、そんなラウドをロブレンがスカウトした、という経緯のようです」
セレナは淡々と説明するが、それを聞くゾウスの眉は段々と険しくなる。
「……して、何故ロブレンたちは、街跡などに魔物を放ったのです」
「これについては未だにわかっていませんが、何かしらの実験を行っている可能性が高いです。ロブレンの『固有スキル』は恐らく魔物を操る能力です。最近はこの辺りで行動していることから、メイラスを何かしらの目的で狙っている可能性もあります」
「それは困りましたな……メイラスの衛兵たちは、そこまで能力が高くありません。何せここ一帯は、ダンジョンが発見されるまで正に平和そのものでしたから……冒険者たちを街の守護に集めても、果たして無事に街を守り切れるかどうか」
どうしたものか、と頭を抱えるゾウスに、それでもセレナは優しく言葉を返した。
「ご安心ください、そのために私とバレットはこの街に来ました。私たちが必ず、ロブレンたちを捕縛してみせます。そのために、何人か冒険者をお借りするかもしれませんが、よろしいですか?」
「ええ! あなたたち主導で対策を進めて頂けるのなら、願ってもないことです。本人の意思もありますが、とりあえずギルドは全面的にメイラス防衛に協力させていただきます」
「ありがとうございます。つきましては、ここにおられるルークさんを防衛作戦に貸して頂きたいのですが、よろしいでしょうか」
唐突な願い出にルークは驚くものの、ゾウスの「頼む」と言うような真剣な表情を見て、覚悟を決めた。
ルークはセレナに向かって了承する。
「……俺としては構いません。俺の実力がどこまで通用するかはわかりませんが、全力を尽くします」
「儂としても、ルーク君がいいなら異論ありませぬ」
それを聞くと、セレナの顔は少し明るくなった。
「よかった。では、今後は私・バレット・ルークさんの三人を主体としてロブレンたちの捕縛計画を進めていきます」
それを重ね重ね了承するゾウスを見ながら、ルークはロブレンと一緒に現れたラウドの事を考えていた。
今後、二人を捕まえるとなると、必然的にルーク自身もラウドと戦うことになるのだろう。
それを考えると、ルークの顔にはじっとりと汗がにじんて来た。
正直、先日対峙した時の極度の緊張感を思い出すと、自然と腰が引けてしまう。
しかしここでルークが参加せねば、街の防衛に支障が出るかもしれない。
もっと言うと、再びエマたちに危険が降りかかるかもしれなかった。
それだけは、絶対に避けたかった。
たとえ自分が、死ぬより辛い目に遭っても。
やがて、細かい情報交換を終えたセレナたちとルークは、ギルド長の執務室を後にする。
「ルークさんは疲れも溜まっているでしょうし、計画についてはまた明日詳しく話しましょう」
セレナにそう言われたルークは、ありがたくエマたちの待っている家へ帰ることにした。
― ― ― ― ―
「おかえり、ルーク君」
ルークが帰ってくると、どうやらベランダに出ていたらしいメリッサが声をかけてきた。
片手に小さな箱を持っている、恐らくタバコでも吸っていたのだろう。
「エマちゃんとシャノンちゃんは部屋で寝てるよ。医者を呼んで診せておいた。数日安静にしておけば後は大丈夫だそうだよ」
「そうか……よかった」
ソファに勢いよく腰を落としたルークは、疲れ切ったように背にもたれかかった。
「さっきの男たちを捕縛するために、冒険者協会から来たのがセレナたちって話は、メリッサも帰り道で聞いただろ?」
「うん。中々、大変なことになってるみたいだね」
「その捕縛作戦に、俺も参加することになった」
「……マジ?」
ソファの前で立ち尽くすメリッサに対し、そのままルークは言葉を続ける。
「うん。明日から細かな作戦を練るみたいだ」
「うん、って。私たちはあのロブレンとかいう男に手も足も出なかったじゃないか! それなのに捕縛作戦に参加するって、万が一のことがあったりしたらどうするの!?」
「わかってる。だから明日からは俺は依頼を休んで、徹底的にスキルの修行をやるつもりだよ。セレナさんたちの足手まといにはならないぐらいに」
「……ッ、そんな勝手なことって」
メリッサは、ルークの胸倉をつかんで引き寄せる。
「私はエマちゃんたちが傷付くような目には遭って欲しくない。でも、君が傷付くのだって嫌なんだよ! そんな危険な作戦なんて参加しない方がいい、そんなにこの街に未練があるのか!?」
「……未練はそりゃあるさ。でも、それ以上にこの街で作ったエマやシャノン、メリッサとの思い出が、壊れて欲しくないんだよ。いざとなったら他の街に逃げるなんて、俺にはそんな選択肢はないんだ。俺はこの街を守りたい」
メイラスは、ゼルフの家から独り立ちしたルークが、初めてやって来た街だった。
それだけに、その街が危機に陥っているというならルークとしても街を守りたいのが本心である。
例えそれで命の危機に瀕するようなことがあっても……いや、そうならないように、ルークは修行を始めるのではあったが。
メリッサは呆れたように、片手をルークの胸倉から放す。
「……私は王都を起点にして、今まで色々な街を転々としてきた。根無し草、真っ当な冒険者として生きてきた。だから君の気持ちはあまりよくわからない。でも、家を買った時と同じように、ルーク君らしいと言えばそうなんだろうね」
「ごめんな、メリッサ」
「いいよ。私はルーク君の意思を尊重する。でもこれだけは誓って……死なないでね」
真剣な目で見つめてくるメリッサに、ルークは静かに答えた。
「あぁ、約束する。死なずに、この街を守り切ってみせる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます