第17話 旧市街跡への遠征

 三か月後に開催される魂測戦抜こんそくせんばつを新しい目標に据えたルークたち。

 魂測戦抜内で開催される昇格試験に合格するため、ルークたちは新たな依頼・特訓方法などを組み立ててからその日は就寝した。


 しかしその翌日、ギルドを訪れたルークたちは、ギルド長・ゾウスから思いもよらない申し出を受ける。


「メイラスのさらに北に市街地跡があるのだが、そこで魔物を狩っていた大規模な冒険者パーティが壊滅したそうだ。どうやら市街地跡に推定魔級以上の魔物が住み着いているらしい。君たちにはその討伐を頼みたい」


 いつにもなく険しい表情のゾウスに対し、自然と四人は顔を引き締める。

 どうやら、市街地跡でその魔物と戦ったパーティはメンバーの半数以上が死亡、残った僅かなメンバーも、かなりの怪我を追って息も絶え絶えメイラスまで逃げて来たらしい。


 このままその魔物を放っておけば、いずれメイラスにまで被害を及ぼす可能性が高かった。


 ルークたち……というよりもルークはどうやらギルドでもかなり良い評判を得ているらしく、そのことから以前のシャノンの教育や今回の依頼などもギルドから直に飛んできていた。


「明日から数日かけての依頼になるが、頼む。他に頼めるパーティもいなくてね……急を要するんだ」


「……わかりました、後は引き受けます」


「すまない、ありがとう」


 ギルドとしても相当頭を悩ませていたみたいで、ゾウスはルークの承諾を聞くとホッと顔の力を抜いた。

 そのまま依頼書にサインをした後、四人は一旦ギルド長の執務室を出てギルド内のテーブルに座る。


 今までにない強力な魔物の討伐、ということで四人には緊張した雰囲気が漂っていたが、それに一人抗うようにルークは口を開いた。


「……今回の依頼、どういう編成で行くべきか。正直俺は悩んでる。率直に言えば、エマやシャノンはまだ実力不足だと思ってる。今までより強力な魔物となると、恐らく俺も庇うことができない。二人にはここで、今回の依頼を一緒に行くかどうか決めて欲しい」


 ルークとしても、エマやシャノンを無為に傷つけさせる訳にはいかない。

 最悪、死ぬことも有り得るかもしれない今回の任務で、ルークやメリッサは恐らくエマたちのサポートなど出来ないだろう。


 だからルークとしては、ここで少しキツい言い方をしてでも、エマたちをメイラスに置いていくつもりだったのだが。


「何言ってるんですか、行きますよ。当たり前でしょう」


「……うん」


「二人共、本気なのか? 今回は俺やメリッサでもかなりギリギリな任務なんだぞ?」


「実力不足でも、足手まといにはならないつもりです。いざとなったら必死こいて安全圏まで逃げますよ。それに何て言ったって、私たちはパーティじゃないですか?」


 少し怒ったような顔をしながら、それでもどこかに希望はある、という表情でエマは言う。


「私たちだけ仲間はずれにしないでください、死ぬ時は一緒ですよ。それに、死にに行くわけじゃない、パーティで魔物を倒しに行くんです」


「それは……」


「ルーク君、完全に勢いで押し切られててちょっと笑うよ。ま、いいんじゃないかな。『もしかしたら死ぬかもしれない』って危機感はあった方がいいけど、絶対死ぬわけじゃない。何事も勝ち気でいった方が、案外うまくいったりするもんさ」


 メリッサはルークの肩にポンと手を載せると、覚悟を決めろ、と促す。


「エマちゃんやシャノンちゃんがいたことで、活路が開けることもあるかもしれない。二人だって冒険者だ、自分の身は自分で守れるさ」


「……わかった。じゃあ今回の討伐、四人全員で行くぞ! 絶対ブッ倒して、この街まで帰ってこよう!!」


 四人で手を重ね、ルークたちは必ず街へ帰還することを目標に定めた。


 今回の遠征は数日がかり、つまりそれなりの準備を行わなければならない。

 四人は手分けして、遠征のための食糧・武器・魔道具などを準備するため、それぞれの担当場所へと散った。


 ― ― ― ― ―


 翌日、メイラスの北入り口に、旅の装備を整えた四人は立っていた。

 心地よい朝の風が、ルークたちの頬を撫でる……そして、そんな風に少し力を貰ったように、ルークたちは力強い表情で佇んでいた。


「じゃあ……行くか」


 誰からともなく、四人は歩き始める。

 市街地跡はメイラスから丸一日ほど歩いたところにある。

 本当は手前まで馬車を使っていくべきなのかもしれないが、いつ何時魔物がメイラス側へ侵攻を始めるとも限らない。


 馬車を使う場合、四人は馬を操れないので必然的に御者を頼む必要がある……そして、魔物がもし襲ってくるとなれば御者を守れる可能性は限りなく低い。

 そのことから、ルークたちはやむを得ず馬車で行くことを断念した。


 荒涼とした大地をルークたちはトボトボと歩いていく。

 最初は草原が広がっていた地面も北へ進むにつれて段々と枯れていき、数時間ほど歩いた今では、ひび割れた地面が続くのみとなっていた。


 二、三時間に一回休憩を挟みつつ、ルークたちは黙々と歩いていく。

 何か気晴らしに雑談でも出来ればよかったものの、これから強敵と戦いに行く中で軽い話に興じれる余裕が、あいにく四人にはなかった。


「……よし、一旦休憩だ。今日はここで野宿しよう」


 日が暮れた後、適当な場所を見つけると四人は腰を下ろした。

 それぞれ背負っていた雑のうの中から食料を取り出し、もさもさと食べ始める。

 硬いパンに干し肉、それに水筒に残っている水……それらが、ルークたちの今日の夕食だった。


「もっとマシなもん持って来ればよかったかな」


「バタバタしていてあんまり時間なかったですし、しょうがないですよ。お腹が膨れるだけ良し、です」


「そうだねー……シャノンちゃんはもう結構眠たくなってるみたいだし、早めに寝ようか」


「……ま、まだだいじょう……ぐー」


 パンを手に持ったまま舟をこぐシャノンに、ルークは苦笑すると立ち上がった。


「よし、じゃあ皆は先に寝てくれ。俺が最初に見張りするから」


「そうかい? ありがと。それじゃあ二人共、寝袋出そう」


 綺麗に折りたたんだ寝袋を出した三人は、もぞもぞとその中へ入ると、あっという間に寝息を立て始めた。


 それを見て微かに笑ったルークは、すっかり暗くなった空を見上げる。

 周囲をたまに確認しつつ、ふと夜空をきらめく星々を見ているとルークは昔の事を思い出す。


「修行が辛かった時、よく草むらに座ってこうしてたよな……」


 流れる星を見続けていたら、いつの間にか夜空に吸い込まれそうになる錯覚を覚える。

 ルークはきらめく星々に見とれながらも、いつも星を掴むことが出来ずにいた。


 昔のルークは星を眺めながら、友達や仲間がずっと欲しいと思っていた。

 そしてその願いは、メイラスに来てから驚くほどのスピードで叶っていったのだ。

 星を掴むことが出来ずとも、仲間を得ることが出来てルークは満足していた。


「だからこそ、明日の討伐は絶対勝たなきゃな」


 地面から目を離し、エマ・メリッサ・シャノンを見るルーク。

 気持ちよさそうに寝息を立てている三人の仲間たちを見ながら、ルークは討伐の決意をさらに固めるのだった。

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