第13話 騒音退治と新人
「あれー、ルーク君にエマちゃん。今日は依頼は休みにするんじゃなかったの?」
二人がギルドへ到着すると、併設の酒場で昼間から飲んだくれているメリッサの姿を見つけた。
そんなメリッサに、二人は内見のアレコレを説明する。
「なるほどね。じゃあ今からダンジョンに潜って、騒音の原因を駆除しに行くんだ」
「そうなんです。メリッサさんにも手伝いをお願いしようと思ってたんですが……酔っぱらってるなら二人で行った方がよさげですね」
「えぇー、つれないこと言わないでよー。今日はそんなに酔ってないって、呂律もしっかりしてるでしょ?」
「それはそうですが……」
メリッサにうねうねと絡まれるエマを置いて、ルークは一旦適当な依頼を取ってこようと受付に向かう。
しかし、受付で書類仕事を行っていた受付嬢は、ルークの顔を見るとパッと立ち上がって、探し人が訪ねて来たと言わんばかりに話しかけてきた。
「あ、ルークさん! お待ちしてました」
「待ってた? って、何かあったんです?」
「ギルド長が直々に、ルークさんへお願いがあるそうなんです」
唐突な受付嬢からの申し出に、一体何が?と首をひねりつつも、そのままルークはギルド長の執務室へと案内される。
「おぉ、ルーク君。久しぶりだね、君の活躍はよく受付の子たちからも聞いているよ」
「それはどうも……ところで、俺に用って何ですか?」
「あぁ、それはだね」
ギルド長……ゾウスがこちらへ来いというように手招きをするので、素直にルークはゾウス近くへと歩いていく。
するとゾウスは、机の引き出しから一枚の紙を取り出しつつ説明した。
「実は今、ギルド総出で新人冒険者の育成を行っていてね。上級以上の冒険者に、それぞれ一人から三人ほど下級冒険者を同行させて、依頼の進め方などを指導させてるんだ」
「はぁ」
「それで、最近この一帯で活躍している君にも参加して欲しくてね。この子をお願いしたいんだが」
ゾウスが差し出した魔道写真付きの履歴書を受け取り、ルークは書かれてある情報を読んでいく。
どうやらつい一週間前に下級冒険者になったばかりの『シャノン・キアン』という少女のものらしい。
年齢は13、ルークやエマの少し年下である。
魔道写真を見る限りでは、大人しそうな灰髪の少女だった。
「どうだね、引き受けてくれるか?」
「はぁ、ギルド長の頼みなら勿論なんですが、あいにくこれからちょっと用事が……」
そう言いかけたところで、執務室のドアがノックされる。
「入りたまえ」
ドアが開くと、先ほどの受付嬢ともう一人、履歴書に書かれてあった少女……シャノンが入って来た。
「失礼します、ちょうどシャノンさんが来られていたので、ルークさんと顔合わせをしていただこうと思いまして」
「そうだね、その方が良い。ルーク君、彼女がシャノン・キアンだ」
シャノンはぬぼーっとした顔つきで、ルークを見つめている。
その顔は喜怒哀楽といった感情が全く浮かんでいない。
感情が希薄なのか顔に出すことが苦手なのかはわからなかったが、とりあえずルークは手を差し出した。
「ど、どうも。俺がルーク・ストレイルだ。今しがた君の指導の話を聞いたよ」
「……」
無言で手を取り、握手を返すシャノン。
が、しかし次の瞬間。
「うわっ!?」
突然シャノンはその場でルークに飛び掛かり、その頭へとかみついた。
「うわ、うわ何!? なんだよ!? ちょ、ちょっと痛いって!」
「むわー」
ルークの頭を、若干よだれを垂らしながらガジガジ噛みつくシャノンに対し、ルークは「と、とんでもない奴を押し付けられた」と戦々恐々とするが、受付嬢とゾウスはまたか、という感じで若干呆れ気味に笑っている。
「いや笑ってないで止めてくださいよ!」
シャノンを何とか引きはがし、息も絶え絶えルークは叫ぶ。
後からゾルスたちから聞いた話だと、シャノンは出会い頭に相手に飛び掛かる習性があるらしい。
シャノンが人に飛び掛かるのは、その人が気に入ったというサインらしく、ルークも相性がいいとみなされていたようだった。
「で、出会い頭に飛び掛かるとか獣じゃないんだから……」
受付嬢がくれたハンカチで頭を拭きながら、ルークは嘆く。
その間もシャノンは無言で、ルークの周りをグルグル回っていた。
「どうだね? 今からシャノン君と下級の依頼を受けてみては」
「そうしたいのは山々……でもないけど……なんですが、今回は完全に別件でギルドに来たので、また次の機会にできれば」
「行こう、ルーク」
「え、ちょっと!? 待てっ、うわ力強っ!?」
初対面の数秒で何故かシャノンに気に入られたルークは、そのまま腕を掴まれ外へと引きずり出されかける。
体格差からも腕力の違いがあるはずなのに、それでもルークは碌に抵抗できずシャノンにズルズルと引っ張られていった。
「シャノン君は一回言い出したら聞かないからねぇ。ルーク君、それでは今から森で軽く討伐を頼むよ」
「いってらっしゃい、ルークさん!」
「いやなんでアンタらはコイツにそんな甘いんだよ! おかしいだろどう考えてもぉ……!」
やがて抵抗しきれなくなったルークは、猛スピードでシャノンに引きずられて執務室を後にした。
「……あれぐらいの歳の子になると、どうしても孫みたいな可愛さを覚えてしまうんだよねぇ。多少のワガママは許してしまうというか」
「わかりますギルド長。私も歳の離れた妹みたいに思っちゃいます」
ゾウスと受付嬢がシャノンに甘い理由を、ついぞルークは聞くことが出来なかった。
― ― ― ― ―
「エマちゃんも飲んでみる? このお酒、中々フルーティで飲みやすいんだよ」
「いえ、一応私は未成年なので……まぁ律儀に守ってる人はほとんどいないんですが」
ギルドのテーブルに座り、ルークが執務室から帰ってくるまで時間を潰していたエマとメリッサ。
しかし、いきなり執務室からルークが引きずられるようにして出てきたのを見て、二人は度肝を抜かれる。
「な、なにやってんだろうルーク君」
「なんか小さい子に引っ張られてますけど……」
「み、見てないで助けてくれ二人共ー!!」
だが、エマたちが立ち上がる前にルークはズリズリと引きずられたままギルドを出て行ってしまった。
二人が困惑していると、遅れて執務室から出てきた受付嬢が、エマたちに事情を説明する。
「……というわけで、ルークさんは今から下級魔物の討伐に行かれました」
「行かれました、というより引きずられていきました、の方が正しそうだけどねー」
「どうしよう、ルークさんとダンジョンで騒音の原因を討伐しようとしてたんですけど……」
ルークが消えてしまったことで「一人で討伐に行くか? いやしかし、ダンジョンの魔物は自分の実力では討伐するのは難しそうだし……」と悩みだすエマを見たメリッサは、ニヤリと笑うと立ち上がった。
「よし、それじゃあエマちゃんにはお姉さんが付いてってあげよう!」
「付いてってあげよう、ってメリッサさんは既に出来上がってるじゃないですか」
「今日はほろ酔いぐらいだからダイジョブダイジョブ」
がはは、と笑うメリッサに若干不安を覚えながらも、エマはメリッサと討伐に行くことを不承不承で承諾する。
「……ところで、ダンジョン内の魔物生成を抑制する魔道具って残ってますかね?」
「あぁ、それなら二階の魔道具店に少し残りがあったはずですよ。私が取ってきましょう」
「いえ、私が行きます。他に用意するものもあるので」
二階の魔道具店へ小走りで上がりつつ、エマは騒音退治の準備を始めるのだった。
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