第11話 誠意
「ッ!? 結局戦わないといけないのかよ!」
メリッサが素早く振るってきた剣を、ルークは距離を取って避ける。
「なぁメリッサ、俺の過去ならいくらでも話すから! だから剣を下ろしてくれ!!」
「……」
しかしメリッサはルークの訴えに言葉を返すことなく、再び距離を詰めると斬撃を放った。
仕方なく、再度避けるルーク。
「……わかった、そっちがその気ならこっちも好きにやらせてもらう」
ルークは跳躍すると、メリッサの背中側へと回り、そのまま素早く回し蹴りを放つ。
だがメリッサはそれを剣身でガードすると、さらに剣を捻ってルークの足を斬り裂いた。
「痛ってぇ!?」
サーペントとの戦いで流星気を纏っていたので、若干足の皮膚が裂ける程度で済んだものの、やはりメリッサは本気らしい。
太刀筋に迷いがなかった。
「ちょっと、やめてください二人共! なんでこんな所で喧嘩なんか始めるんですか!?」
「エマちゃんはそこで座ってて。すぐ終わるから」
エマが割って入ろうとするのを、メリッサは低い声で押しとどめた。
それでもエマは二人を止めようとするが、ルークたちの攻撃の応酬を完全に目で追いきることが出来ず、入るタイミングを逃してしまう。
「このっ!」
そしてそんなエマを振り返りもせず、ルークは次々と流星気を併用した打撃をメリッサに与えていった。
ルークとしては『メリッサがこちらを攻撃してくるのなら迎え撃つのみ』という思考でまとまっている。
しかし、流星炎を使ってしまえば、十中八九メリッサを死なせてしまう。
だから流星気を使いつつ、尚且つその力をある程度抑えてメリッサを倒さねばならなかった。
「めんどくさいことをさせる……!」
やがて剣で受けきれなくなったメリッサの腹部に、ルークは一発拳を当てる。
流星気の力に押されたメリッサは、魔力でガードしたもののそのまま吹き飛び、地面を転がった。
「チッ」
メリッサは舌打ちしつつ素早く起き上がると、その場で剣を構える。
瞬間、ルークが防御する暇もなく、そのスキルは発動された。
「
ルークに無数の斬撃が刻まれる。
先ほど足を斬られた時とは違い、今度はスキルを使用している。
ルークの身体にも、相応のダメージが通っていた。
体のあちこちから細かい血しぶきが放たれる。
「ぐっ……!」
片膝をつき、ルークは荒い息を吐きつつメリッサを睨み据える。
メリッサも先程の応酬で大分疲労が溜まっているのか、若干構えが甘くなっていた。
恐らく、両者が次に攻撃を交えた時、勝敗は決まるだろう。
二人は体勢を整えると、最後の一撃を繰り出すために構えを取った。
エマが悲痛な声で、戦いの中止を求める。
「もうやめてくださいよ、そこまでやる必要ないでしょう!?」
「悪いけど、私にはその必要がある」
「俺には……ないけど、メリッサがその気ならとことん付き合うまでだ」
両者の強情な態度に、エマはただただ歯痒そうに顔をしかめていることしか出来なかった。
そして。
「
「
両者は雌雄を決するため、激突した。
― ― ― ― ―
「……全力でやっても勝てなかったかぁ」
地面に倒れ伏したメリッサはボソリと呟く。
そんなメリッサによろよろと歩み寄ったルークは、手を差し伸べた。
「こっちもかなりダメージ受けたけどな……」
「君、私に致命傷を与えないように力をセーブしてただろ? 同じくらいの実力だと思ってたけど、よくやるよホント」
「ハハ」
ルークの手を取り、体の痛みに顔をしかめつつ立ち上がるメリッサ。
「俺が流星竜のスキルを使えるのは、本当に生まれつきってだけなんだ。信じてくれ」
「信じるしかないみたいだね。こっちもいきなり襲い掛かって悪かった。謝るよ」
「いいよ。パーティを組む以上、わだかまりがあっても嫌だしな」
「メリッサさんッ!!」
「あぁ、エマちゃん。悪かっ……ぐへあっ!?」
一戦交えたことで和解したルークとメリッサ。
しかしその二人の間に、エマがドロップキックで割って入る。
既にボロボロになっていたメリッサは、さらにエマのキックを受けて地面にひっくり返った。
ひっくり返ったメリッサの上に馬乗りになると、エマはメリッサの襟元を引っ掴んだ。
「なんでルークさんを襲ったりなんかしたんですか!? ちゃんと話し合えば納得できたかもしれないのに!! しかもダンジョンでやる必要あります!?」
「ご、ごめんねー。経験上、話し合っただけじゃお互いの底が見えないこともある。ルーク君が人間に対してどんな風にスキルを使うか、見ておきたかったんだ。……もしかしたら化けの皮が剝がれるかもと思ったけど、杞憂だったよ」
「目覚めたらいきなり二人が戦い始めて、ホントにわけがわからなかったんですからね!? パーティで内輪もめなんて起こさないでください、悲しいです!!」
「わ、悪かったよ」
メリッサに馬乗りになったままわんわん泣き出すエマを何とか慰めようと、二人は四苦八苦する。
しかし、結局ダンジョンから出るまでエマが泣き止むことはなかった。
― ― ― ― ―
「ということで、君たちのパーティに正式に私も入れてくれないかな」
後日。
ギルドのテーブル席でメリッサと顔をつき合わせたルークたちは、意外な申し出に驚く。
「メリッサほどの実力があるなら、ソロでもやっていけるんじゃないのか? なんだってウチに」
「勿論、君が変な行動を起こさないか監視するためだよ」
「まだ疑ってんの!?」
「ハハ、嘘だよ嘘。ただ、王都で依頼を受けてた時はずっと一人で行動していてね。それこそ、件の男にパーティがやられてから。それをずっと引きずってたんだ。だからルーク君をあんなに警戒してたってわけ」
「そうだったのか……」
「でも、一戦交えたことでルーク君は信用に足る人間だと判断した。勿論、エマちゃんもね。それに、流石にそろそろ人肌恋しくなってたところだし」
メリッサはルークたちに手を差し出す。
そして、憑き物が落ちたような顔で爽やかに述べた。
「だから、よければ君たちのパーティに入れて欲しい。相応の働きはするからさ」
「そういうことなら。エマもいいよな?」
「はい。パーティがにぎやかになるのは、単純に嬉しいですしね」
ルークはメリッサの手を取る。
こうして、ルークたちのパーティに、三人目のメンバーが入ることとなった。
「しかし、なんというかパーティって『お互いに利点があるから一定期間だけ組むぞ』みたいな感じでドライなモンだと思ってたけど、案外ヌルっと組んだり出来るんだな」
「いや、私たちのパーティが例外寄りなんじゃないですかね? まぁ、私たちは目標からして結構緩いですし、こんな感じでいいのかも」
「ん、このパーティにも目標があるの?」
「あー、うん。一応『家を買うぐらいのお金を貯める』のが直近の目標かな」
「冒険者なのに家を買う?」
メリッサは一瞬とても意外なことを聞いたように身を乗り出すが、しかしすぐ体を戻すと、妙に納得がいったように笑い出す。
「ハハ、ヘンテコなパーティもあるもんだと思ったけど、そっちの方が君たちらしいか」
「なんで家を買うのがおかしいんだよ?」
「いや、冒険者は傭兵稼業でもあるし、根無し草なんだ。大抵は野宿や、宿に泊まって過ごす奴らが多いのさ。ま、でも安心して身を落ち着けられる家を持つというのも悪くない」
そんな他愛もない会話をしながら、ルークたちはギルドで過ごしていく。
この日は依頼終わりに三人で集まったので、特にこの後用事もない。
穏やかな時間が、三人の周りに流れていた。
「それじゃこの後は、メリッサの歓迎会でもするか!」
「そうですね、盛大にいきましょう」
「ふふ、嬉しいね。お姉さん吐くまで飲んじゃうぞ!」
「いえ、それはやめてください」
冷静なツッコミをするエマ、それを受けて少し悲しそうな顔をするメリッサ、そんな茶番を横にギルド併設酒場の店員を呼ぶルーク。
三人体制となったパーティで、ルークたちは新しいスタートを切ったのだった。
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