第8話 パーティの目標

「い、依頼のスライム・ファイターを倒しただけでなく、新ダンジョンも発見!? さらにそこの魔級モンスターも討伐!?」


 メイラスのギルドに帰ってきたルークとエマは、早速カウンターにゴロゴロと魔石の山を転がす。

 それを見た受付嬢は、唖然としながらそれを受け取った。


「これ、全部売ればどれくらいになりますかね?」


「く、詳しく計算しなければわかりませんが、恐らく二、三か月ぐらいは生活には困らないかと……」


「そんなに!? やったな、エマ!」


「いや、流石にこの量だったらそれくらいはしますって」


 意外に儲かったと喜ぶルークに、冷静にツッコミを入れるエマ。

 それを見た受付嬢は頭痛を覚えたのか頭を押さえると、ため息をついた。


「とりあえず、詳しい鑑定をこの後行います。報酬のお渡しは明日になりますがよろしいですか?」


「それで大丈夫です、よろしくお願いします!」


 受付嬢に頭を軽く下げた後、ルークたちはギルドを出た。

 茜色の空が、ルークたちを優しく包んでくれていた。

 宿への道を歩きながら、何気なく会話は始まった。


「なぁエマ、俺たちのパーティの目標って何にしよう?」


「目標ですか? そうですね……そういや、私の個人的な目標ってルークさんに話しましたっけ?」


「いや、まだ聞いてないな」


「私は一年ほど前から、世界中の様々な種類の竜を見るために旅をしていました。そのおかげで、地上に住まう竜はかなりの数見てきたと思います」


「ふむ」


「なので、今度は空の上に住まう竜を一目見たいんです」


「それって?」


「はい。私は流星竜の巣に行ってみたい」


「へー、いいじゃん。俺も流星竜の巣には行ってみたいかも」


 ルークが使っているスキルたちは、流星竜が使用しているものと同じもの。

 そこからルークは、流星竜に妙なシンパシーを感じていた。

 しかし、そこでふと気になったことを口にする。


「流星竜の巣が空の上にあるんなら、空を移動する手段を身に付けないといけない。それはどうするんだ?」


「そうですね、何らかの空を飛ぶ魔道具を見つけてもいいですし、スキルを習得するのもアリです。まぁとりあえずの目標は、空を飛ぶ手段を見つけて身に着けることですね」


「そうかー、応援するよ」


 とりあえず、エマの『流星竜の巣に行きたい』という目標は今すぐ行動したい、というものでもないらしい。

 ルーク自身も流星竜の巣は気になるので、生活基盤が整ったらボチボチ協力を申し出ようか、などと考える。


「ところで、ルークさんの目標は何なんですか?」


「俺か? 俺の目標は……ダンジョンでもちらっと言ったけど、とにかく強くなりたい、かな」


「強くなりたい、ですか」


「そう。この世界、弱いままだったら虐げられるだけだ。幸せになるためには、やっぱりそれなりに強くならなきゃならない。武力なり知力なり、財力なり」


「なるほど……」


「そして俺は、ただ幸せになるだけじゃ嫌なんだ。それこそめちゃくちゃ幸せになりたい! 自分の周りまで幸せになるような、そんな人生を送りたいんだ」


「ふふ、なんだかすごいルークさんらしい答えですね」


 口元に手をやりクスクスと笑うエマを見て、ルークは少し照れる。

 だが、これがルークの偽らざる本心だった。

 幸せを手に入れるためには、少なくとも一人で世界を渡り歩いて行けるほどの強さが必要だ、とルークは考えていた。


 勿論、幸せになるためには強さ以外にも必要なことは沢山あるし、それを否定するつもりもない。

 しかし今のルークの眼前には、とにかく『力』が強い魅力と共に燦然と輝いていたのだ。

 やはり、男として生まれたからには強くなりたいものなのだろう。


「お互いの目標もわかったところで、このパーティの目標を決めますか!」


「あぁ。と言っても、まずは目先の宿代や食事代を稼ぐために、毎日依頼を繰り返すことになりそうだけど……今回のダンジョン攻略で、当分余裕があるとはいえ」


「そうですねー、生きてくだけでお金って沢山掛かりますもんね……あっ!」


 突然大声を出したエマにビクッとするルーク。


「そうですよ、生きていくだけでもお金がかかるんですよ!」


「お、おう?」


「衣食住! とりあえずこれらの不自由をなくせばいいんです! 衣類はまあ大丈夫、食は継続的な出費がありますが、とりあえずオーケー。つまり住! 住むところです!」


 ピコン、と人差し指を空に突き上げる形で、エマは高らかに言った。


「私たちパーティの目標って、『家を買えるぐらいのお金を貯める』ことじゃないですか!?」


「家を買う……!?」


「そうです! あの宿はいいところですが、ずっと泊り続けるにはそれこそ家を買う以上のお金が必要です。それって勿体なくないですか? それに、この街から旅に出る時にも『いざとなったらここに帰れば家がある!』と思うと少し心が軽くなりません?」


「な、なるほど。言われてみれば確かに」


「でしょう? だから、私たちはこれから魔物を狩ったり悪人をとっ捕まえて、報酬をもらったらそれを貯め続けるんです! そうしたらいつかはこの街に家を持てますよ」


 『どうです?』と自信たっぷりな表情でこちらを見てくるエマに、ルークは少し気圧されるが、それでもエマの言っていることは決して間違ってない。

 ルークにとっての故郷はゼルフの家だが、何かあるたびにゼルフの家まで帰るのは流石に距離が遠すぎる。

 しかし、メイラスのような大きな街ならば、何かあっても割とスムーズに帰って来られるだろう。


「よし、決まりだ。とりあえずのパーティの目標は『家を買う』! これでいこう」


「も、燃えてきました!」


「はは、目標あった方が確かに依頼へのモチベも上がるよな」


 『どんな家に住みたいか?』をあーでもないこーでもないと話し合いながら、二人は夕暮れの街を歩いていった。


 ― ― ― ― ―


 それから数週間、ルークたちは『家を買う』という大きな目標のために、積極的に依頼を受け続けた。

 大抵の魔物……それこそ、上級までならルークの力で大体何とかなるし、採取や雑用系の依頼も二人で力を合わせれば、失敗することはなかった。


 上級の魔物を倒す依頼は、この世界ではどうやらかなりの金になる仕事らしく、二人は積極的に魔物討伐の依頼を請け負っていった。

 大きな目標があるためか、無駄な出費をあまりしない二人の下には、あっという間にお金が貯まっていった。


 数週間後、家を買うまであと一息となった頃。

 ルークたちはギルドでの認知度も上がり、馴染みの冒険者や受付嬢たちから軽く声をかけられることも増えてきた。


 そして、二人の実力を見込んだギルドから、専用の依頼が舞い込んだりもし始めた。

 今回、ルークたちがギルドに来ているのは、その専用の依頼を受けるためである。


「それで、その依頼ってどんな内容なんですか?」


「はい。先日お二人が発見してくださったダンジョンで魔級の魔物を一体、討伐して頂きたいと思っています」


 受付嬢の言葉を聞いて、二人に緊張が走る。

 魔級と言えば、恐らく泥沼大鬼マッド・オーガと同程度の強さだろう。

 現状の二人では、討伐できるギリギリのラインだった。


「……わかりました。何とか二人でやってみます」


「あ、いえ。今回はお二人だけではなく……追加で一人呼んでおりまして」


「もう一人、冒険者を?」


「はい。上級の方です。お二人にはその方を、一時的にパーティに入れていただきたいのです」


 パーティに新しい人間が入ることは今までなかったので、ルークたちが驚いていると。

 背後から、ルークはいきなり肩を掴まれた。

 思わずビクッとして振り返ると、そこには。

 受付嬢が、ルークの肩を掴んだ人物を紹介する。


「あ、ちょうどいらっしゃったんですね。この方が、今回お二人とパーティを組んで頂く冒険者、メリッサ・ぺルトルスクさんです」

「うぃー、よろしくー」


 そこには長身で気怠げな女性が、にへらとした笑みで立っていた。







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