第5話 デートで浮気

――――啓一の部屋。


「おはよ、元気になったかしら?」


 啓一は祥子の姿に驚く。


「変かな? でもキミが言い出したことなんだからね! 裸は無茶振りすぎたから制服で! なんて……この歳で自分の着ていた制服を着るとかとても恥ずかしいんだからね」


「ねえ、なにか言ってよ……じっとなんにも言わずに見られたままだと羞恥に耐えられそうにないんだから……そ、そりゃ、私も悪乗りして『私とキミが制服を着て並んで歩いている姿を見たら優香が嫉妬するんじゃないかしら?』なんて言ってしまったけど……」



――――カフェテラス。


 啓一に押し切られるようにして、二人でデートに出掛けるが祥子はご近所の人の目がないか落ち着きがない。


 それもそのはず、オープンテラスで二人を見た通行人たちがひそひそと何か話していたから。


「キミを励ますためとはいえ、この格好で外に出るのはかなり痛々しいような……。え? そんなことよりも学生時代の制服を未だに着れることが凄い? あ、えっと……そうね、学生のときとそれほど体重は変わっていないから。よく似合ってる? も、もうっ、またそんな大人を揶揄って! 嘘じゃない? 本当に? いやいや……それこそお世辞もいいところで……○○ピー年前の制服を着させて衆人環視のところに置いてしまうとか、キミはそういう趣味なのかしら?」


 啓一は全力で首を振る。祥子は羞恥から通行人たちの声をちゃんと聞き取っていなかったが、啓一は聞き逃さない。


「みんな……私のことを誉めているの? ホントに?」


 祥子は恐る恐る聞き耳を立ててみる……。


「ええっ!? あの娘、かわいい? 付き合いたい? 一人で居てたら絶対声かけてたとか……そんな……みんな、ちゃんと私のこと見てるのかしら? もう高校生にもなる子供がいるおばさんなのに……」


 啓一は自分の見立てが間違ってなかったことでうれしそうに微笑む。


「良かった……キミが優香に浮気された腹いせで私に制服を着せて、外に出歩こうとか思ってなくて……。えっ? さすがにそんな趣味はない? う~ん……ほんのちょっとなら、そういうのに付き合ってあげても……ううん、なんでもないの、こっちの話」


「まだ腕の調子、良くなってないでしょ? ほら私に貸してみて。もう治ってる? こういうときは治っていないって言うものなのよ、ふふ」


 祥子は啓一の頼んだチーズケーキをフォークで切ると啓一の口へと運ぶ。


「わ、私も!? ええ、分かったわ……お互いに食べさせ合いながらなら、いいだなんて……」


 啓一はほぼ完治していた右手で祥子の頼んだモンブランをフォークで掬うと祥子の口元へと持ってくる。


「あ~ん」


 お互いに食べさせあった。


「まさかこの歳でお互いに食べさせ合うことになるなんてね……しかも高校生と……」


 恥ずかしがりながらも祥子はどこかうれしそうだった。


「どうしたの?」


 急に啓一が顔を伏せたので、祥子は気になり訊ねると啓一は歩道の先を指差していた。


「優香!?」


 向こうから優香と男の子が楽しそうに並んで歩いてきていた。


「隠れなくていいわよ。キミはなにも悪いことをしてないんだからね。堂々と胸を張っていて。優香にはちゃんと私が言ってあげる」


 優香たちは啓一がテラス席にいるとは思っておらず、平然とこちらに向かって歩いてきていた。

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