第4話 嘘じゃないなら裸を見せて
♪ ザーッ。
(雨音)
「あら~、もう帰り? って……ずぶ濡れじゃない!?」
祥子は雨の中、買い物に行っていたが啓一の姿を見かける。玄関ドアを開ける途中だった啓一は祥子に呼び止められ、祥子の招きに従い彼女の部屋へ。
濡れたまま家に上がる訳にいかず、祥子が部屋から身体を拭くタオルを持ってくる。
「はい、タオル。濡れた制服はそっちのビニール袋に入れちゃってね。あとで洗っておいてあげるわ。靴も任せて頂戴」
啓一は祥子にお礼を絞り出すように告げ頭を下げた。
「ううん、気にしないの。お隣同士なんだから」
啓一が頭を拭いている間に祥子はお風呂の準備をする。
「まあ! それは大変だわ。体調が悪くて早退したのね」
祥子は啓一の額に自分の額を合わせて熱を計った。
「う~ん、熱は……なさそうね。まあ、顔が真っ赤!? やっぱり熱が……、えっ? そうじゃない?」
啓一は祥子の熱の計り方が恥ずかしかったと説明する。
「あはははは……ごめんなさいね、優香の熱を計るときはいつも額を合わせていたから……最近は『ママ、止めてったら』なんて断られちゃんうだけど……」
祥子が親馬鹿っぷりを発揮していたが、優香の名前が出たことで啓一の表情が曇る。
「んん? 優香の名前は出さないで欲しい? えっ!? 優香が他の男の子と浮気しているところを見てしまった? なるほど……それで気分が悪くなって早退してしまったのね」
そんなことで早退したことを笑われると思った啓一は自嘲してしまった。
「キミか情けない? なんでそうなるの? 悪いのはキミじゃないでしょ? そうだ!」
♪ パン!
(祥子が軽く手を叩いた)
「じゃあ、優香に内緒で私と浮気しちゃう?」
啓一は祥子の提案に驚いてしまう。
「うふふ、さすがにそれは色々とマズかったかしら。でも優香がキミを裏切るようなことをしてしまって申し訳ないと思ってるわ」
「え? 私はまったく悪くない? いいえ、子の過ちは親の責任よ。こんなおばさんだけど、キミの言うことをなんでも聞いてあげようと思うの……」
「嘘じゃないわ。キミのことが心配なの……」
優香の浮気している場面を目の当たりにしてしまった啓一は自棄気味になっており、祥子の言葉を疑う。
「え!? だったら裸を見せろ?」
「ええ、いいわ。でも……キミの身体を温めるのが先……お風呂で待っていて……」
祥子が脱衣室へ入ると浴室から啓一の声がする。
「ごめんなさい? さっきは冷静さを欠いて、大人の女性に言っていい言葉じゃなかった? 裸を見せろ、と言ったことは撤回する……ね」
啓一が反省していることは分かったが祥子は構わず啓一のいる浴室へ入る。すでに服を脱いでいた祥子はバスタオルをチューブドレスのように巻いて……。
「ふふっ、そんな慌てて、どうしたの? 私の裸が見たいって言ったのはキミの方なのに。ダメよ、男の子はね、自分の言ったことに責任を持たなくちゃ。あとで言ったことを後悔するくらいならね♡」
「でもちょっと恥ずかしいから後ろを向いていて欲しいな……」
♪ ゴクリ。
(啓一が息を飲んだ音)
♪ はらり……。
(祥子がバスタオルを)
♪ ちゃぷん。
(祥子が湯船に足を浸けた音)
「もうこっち向いていいわよ」
啓一はずっと後ろを向いたまま振り返らない。
「あれ~? せっかく恥ずかしさを抑えて、脱いできたのに見ないの? 残念だなぁ……」
祥子は啓一の背中をつんつんと指先を突いて様子を見ていた。祥子より先に入っていた啓一の身体がどんどん赤くなってゆく。
「大変っ!?」
ぐたりとなって浴槽の手すりにうなだれてしまった啓一。
――――祥子の寝室。
♪ ふわ~、ふわ~。
(団扇を扇ぐ音)
「起きた?」
啓一が目を開けると祥子が覗き込んでいた。
「びっくりしたわ。上せちゃうんだもん」
啓一は布団を捲って確認する。浴衣を着ており安心するが、浴槽で意識を失い裸だったはず、と思い出す。
そう思うと恥ずかしくなるが、誤魔化すために祥子に質問していた。
「どうやってここまで? キミは忘れてないかしら? こう見えても元看護師なのよ~、ふふっ」
明らかに自分よりか弱そうな祥子が運んだとは俄かに信じ難いが、他に人手があったとも思えない。
「まさか私の裸が見たいって言ったキミが、私に裸を見せてくれるなんてね。ふふっ、キミって優しそうな顔して逞しいのね♡」
啓一は祥子に裸を見せて欲しいと言ってしまったことを激しく後悔していた。
「お返しにまた見てみる? こんなおばさんの身体で良ければね♡」
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