第34話 わたしたちの成長アルバム
「ごちそうさまでした。おいしかったぁ」
晴夜くんはホットケーキを食べ終わると、満足そうな表情で言った。
お皿はすっからかん。
すっかりきれいになくなっている。
「ふふ、よかった。晴夜くんは座って待ってて。お皿洗いしてくるね」
「手伝うよ」
「大丈夫。ほらほら、座って」
お客さんに家事をさせるわけにはいかないよ。
ホットケーキをおいしそうに食べてくれただけで十分嬉しいの。
わたしは2人分の食器を洗ったあと、晴夜くんの隣に座る。
ただ黙って横にいるだけだと、なんだかソワソワしてしまう。
何かしていないと落ち着かないな……。
あ、そうだ!
「ねえ、宝物探ししない?」
「宝物? どんな?」
「どんなのか……は、わからないけど、探してみようよ! そこの棚を見てみよう」
晴夜くんの手を引っ張って、写真が飾ってある棚のそばに行く。
ずっと気になっていたんだ。
この棚には引き戸があるんだけれど、今までに一度も開けたことがなかったの。
何が入ってるのかな……。
ワクワクしながら、棚の戸を開けた。
「わあ、なんだろうこれ? ねえ晴夜くん」
「うーん……アルバムかなぁ?」
見つけたのは、ずっしりと重くて大きい本。
藤色の分厚い表紙がオシャレだ。
表紙をめくると、赤ちゃんの写真が出てきた。
ニコニコ笑ってて、とっても無邪気。
「この子ゼロじゃない?」
「なんで?」
「なんとなく」
ええ……? なんとなく?
でも、わたしの家にあるんだから、わたしかお兄ちゃんの写真だよね。
……あ、写真の横に日付が書いてある。
えーっと……12年前の3月6日だって。
「……ということは、やっぱりゼロだね。可愛い〜」
「んん……」
赤ちゃんの頃の写真に向けて言っているのはわかるけど、ちょっと照れちゃうな……。
ページをめくると、小さい頃のわたしの写真がたくさん。
ご飯を食べている写真、お母さんとハグしている写真、お兄ちゃんと遊んでいる写真……どれもこれも幸せそう。
この頃はまだ髪の毛が毛先まで黒かったみたい。
めくっているうちに、銀髪の男の子がわたしの隣に立つようになった。
「晴夜くんだ! ふふ、可愛い」
「可愛いかな……」
初めはそう笑っていたけれど、どの写真も笑顔が見れない。
でも大きくなるごとに笑顔が増えてきた。
いつもの晴夜くんと同じ。
「小さい頃、あんまり笑わない子だったっけ?」
「……」
晴夜くんは口を閉じた。
一瞬表情に影が差したのを隠すように、口元に笑みを浮かべる。
「忘れちゃったの? いつもニコニコだったでしょー?」
「う、うん、ごめんね」
今の表情、なに……?
どうしちゃったんだろう。
気になるけど、触れちゃいけない気がする……。
「いいよいいよ。古い記憶から忘れていくのは自然なことだからね」
「晴夜くんも、わたしとのこと忘れてたりする?」
全部覚えていたらすごいと思いながら、そう聞いてみる。
すると晴夜くんはあまり楽しくなさそうに言った。
「……覚えてると思う」
「そうなんだ。例えば?」
「一緒に歩いてたら転んだ。君が」
「いつの話?」
いつも転んでるから分からないよ。
今日の朝も布団で転んだでしょ。
リビングに行くときも足が滑って転んだでしょ。
もう困っちゃう!
「んんっ」
「なんで咳払いしたの」
「なんでもないよ」
「顔が笑ってる!」
わたしが転びすぎるのが面白かったのね!
笑っていいもん! 勝手に笑えばいいんだもん!
「違うよ。可愛いなぁって」
「はえっ!?」
や、やや、やめてよ照れちゃう……。
「あははっ。顔も態度もコロコロ変わるね。ゼロってほんと可愛い」
「も、もう……」
晴夜くんって、すぐ「可愛い」なんて言っちゃうよね。
「他の子には言わないでよ? わたしだけにして」
「えっ……うん。…………あの、ゼロ、あのさ」
「なあに? わたし変なこと言ったかな」
晴夜くんは頬をほんのり赤くしている。
何故かわたわたしてるし……。
熱でもあるの? 大丈夫?
「……その、それは、僕が他の子を可愛いと思うことが気に食わないということでしょーか……」
「え? ……わかんない」
晴夜くんが言うように思ってるのかな……?
うーん、晴夜くんが美華ちゃんを「可愛い」と言ったら……嫌かも。
でもでも、美華ちゃんが可愛いのは事実だし……。
何が嫌なのかな、わたし。
「ま、まあいいや」
晴夜くんはコホンと咳払いして、おもむろに立ち上がった。
「帰るね」
「なんで?」
「頭を冷やしたい」
「なんで……?」
晴夜くんはわたしに手を振ると「おじゃましました」と出ていってしまった。
「考えてること、全っ然わかんなかった……」
わたしは彼が出て行ったリビングのドアを見つめながら、そうつぶやいた。
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