第21話 人間対天使

———傲慢不遜。


神様は自身に似せて人を作り

それを守り自身の考えを伝える為に

天使を作り上げた…だから。


擬装フォルトアームス聖剣タナトス

「成程、それが幾多の世界を渡っただけの

 只の人間の力ですか!!」


海の上を走り抜けて、海水の一部に

聖剣の情報を与えた。

だから今この手に握られている海水は、

剣の形をしているし剣としての機能を持っているし剣としての力を宿している。


切り結び。鍔迫り合い。

実際には剣の様な形をしている光だが、

ガブリエルの得物は充分に凶器足り得ていた。


「武器に合わせて身体能力が変化する…違う…

 の方ですね!!」

「…フッ」

「英傑の如き剣筋…しかし所詮は人間業。

 恐るるに足りません」


腕をかち上げ、ガラ空きの胴体に放った一閃を

上体を逸らして天使は躱した。

しかし、距離は開いた。


「擬装・聖槍ロンギヌス…!」

「器用ですね」


天使が4枚羽を震わせて制動・制止する瞬間。

そこに絶対の死を与える槍を投擲した。

ガブリエルは手を前に差し出す。


アテナ純潔と知恵の盾

「擬装ではダメか…」


神々しい光の盾を前に聖槍は

溶けて無くなってしまった。

おそらくは不浄な物を全て清め溶かす乙女の盾。

攻撃は最大の防御ということか。


「擬装・魔鎌ハーデス

「!

 とても興味深いですね」


何人たりとも観測る事能わぬ

不可視の鎌。

刃の触れた者の魂にダメージを与える…

防御出来ないという代物だ。


ガブリエルは距離を取った…違う!

上昇して、そのまま此方に

一直線に突っ込んで来ている。

時速1,236kmをも遥かに超え、

ソニックブームすら置き去りにして此方に

突っ込んで来ている!!


アレス・アレグリア戦神の怒槌!!」

「———おいで、棄てられた聖剣」


威光と共に召喚に応じてくれた黒い黒い聖剣。

握り、構え、振り抜く…

———ただそれだけで、辺り一面を影が覆った。

さながら月明かりの隠された真の宵闇の帷か。


「滅されろ羽虫ィィィ」


戦神の振るった眩い大槌の一撃と

国を滅ぼした獰猛な聖剣の一振りが交差した、

その瞬間。


「!」

「よくもこのわたしの邪魔を…!」


———海も、雲も、

   大槌の一撃も、聖剣の一振りも

   …全てが一刀、、両断された。

   跡形もなく、等しく全て。


「もう良い子は寝る時間でごさるよ〜」

「ゼクウさん…!」

「命拾いしたな…羽虫」

「待て!!」

「ダメでござる。シンジ」


まるでそれが自然な事の様に水上に仁王立ち

腕を組むゼクウさんによって、

もはや天使を追う事は出来なくなってしまった。

聖剣が元の世界へと帰っていき、

僕の身体はようやく海へと沈み出した。


「もう、帰るでござるよ」

「…うん」

「?」


先程まで僕が水上を沈まずに歩けていたのは

擬装や聖剣のおかげだ。


…そんな不思議そうな顔をされたって

僕は水面を歩いたり立ったり出来ないので

早く助けて欲しい。


「はは〜ん」

「?」

「普段は只人の男子おのこなので

 ござるな〜」

「2人だけの秘密だよ」

「拙者、口は緩い方だが

 努めて秘密にしておくでござるよ」

「ありがと」


ニヤニヤしたゼクウさんは僕を

引き揚げると僕をおんぶして

そのまま夜空を見上げながら

ポツリと呟いた。


「天使殿を殺す、、のはまずいでござるよ」

「あれくらいじゃ死なないよ」

「そんなわけなかろうでござろう」


その通りだ。

聖剣の一撃なら天使は充分殺せた。


「というかゼクウさん、本当に強いんだね」

「えぇ!?

 信じてくれていなかったのでござるか〜??」

「信じられないでしょ」


酔っ払いの戯言だと思ってたよ。

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