第20話 2人と2人

◇◇◇


すっかり暗くなってしまった。

夜の極北港は寒いけど、それでいて

空気が澄んでて月明かりが地平線のずっと

向こうの海まで照らしているのが分かる。


「いい世界だな」


前の世界も、その前の世界も、更にその前も…


「考え事してた感じ〜? シンちゃん」

「…いやさ、月が綺麗だなって」

「それ知ってる!! オシャンティーな告白

 っしょ〜!! 一目惚れかよ〜♡」

「…あ」

「え」


ピョコピョコと桜の花びらみたいな耳が

忙しなく動いて、震えて、また動いたりする。

尻尾もクーデレぶっている小型犬のそれみたいだ。恥ずかしそうにマキシは頬を掻いた。


「でもさほら、シアちゃんとシンちゃんって

 夫婦でしょ…??

 浮気っていうカタチじゃーさ、

 その…———ちゃんと幸せになれない、

 みたいな?」


意外と重い…愛が?

海の向こう側を見つめながら僕は応えた。


「ネシアとはあくまで主従関係…かな」

「全然そんな感じしないけど、そうなの??」

「そうだよ」

「ふ〜〜〜ん」


絶対に納得なんかしていないようだった。

ネシアの態度を見れば分かってもらえる通り、

あの子は僕の事を

ちゃんと奴隷として・・・・・扱っているんだと、

僕的には思っている。

不快感とかは勿論ないけど。


「僕の勝手な妄想なんだけど、

 ネシアは僕にだけは

 逃げられたくない、、、、、、、、んじゃないかな、って」

「逃げる?? マジ卍コンビなのに…?」


マジ卍コンビ…卍固めされてたから…??


「初めて会った時のネシアは…」


——何度も見てきた、全部諦めて

  それでも縋り付く何かを求めている

  絶望した人の眼差しだった。

  光も希望もない、絶望だけが満ちた瞳。


「シアちゃんは?」

「凄く嬉しそうだったんだ。

 誰かとただお話出来た事が」

「あーぼっちちゃんだったんだ〜」

「きっとね」


…それも1000年も、たった1人で。

たしか『神座の護り手』…みたいな事を

やってたんだっけ。


「立場も種族も関係性すらも超えて、

 ただ誰かと喋ったり自分の事を理解して貰え

 るって事は…幸せな事なんだなって」


何でも出来るであろう力の持ち主の少女を見て

そう思わずにはいられなかった。

世界最強の魔王…それはつまり。


「誰もシアちゃんの横にはいられないってコ

 ト?」

「うん。

 だからずっと『友達の作り方』を召喚してた

 みたい」

「そっか」


マキシはちょっと引いてた。

分かるけど。


「でも今は隣にシンちゃんがいるじゃん」

「ちゃんと上手くいれてるかな」

「今日会ったばっかのあーしでも、

 ベストバディって感じで見てて楽しいよ♪」

「…良かった」


いつの間にか隣にはマキシの耳があった。

でも顔は何故か逸らされていて。

同じ方向を見るも、ただ静かな廃墟達だけ。


「…返事はさ?

 この仕事が終わってから、ちゃんとするね」

「え」


確かに料理が上手なところとか

感情が身体の端々に滲み出て隠せない感じとか

モフモフのピンクの髪とか

晴れやかな空みたいな青い瞳とか

好きだけど…。好きだな…結構??


バレてるよな〜

…無自覚に自白したようなもんだし。

なんなら図星だったし。


「じゃ、おやすみ」

「おや、すみなさい…行っちゃった」


僕もかなり恥ずかしかった感じだが、

どうやらマキシはそれ以上にそうだったみたいで

コミカルなSEでも聞こえてきそうな勢いで

ヒョイっと走り去っていった。


「なくはないのか。脈」

「———そのようですね」

「…なんだよガブリエル」


天国から地獄みたいな気分だ。

天使にそんな風にされるとは予想外過ぎて

笑えない、本当に。

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