第15話 くっころとニンジャギャル

揺れる赤い髪を追いかけて、

途中で雪だるまを作るアホ魔王を引っ叩き

引き摺りながらヒールブーツの足跡を

雪の上に見つけて、追いかけて。


そうしてどうやら目的地らしい

ポツリと聳えるどう見ても怪しい

酒場と

———殴り合う酔っ払いの群れが見えた。


「ネシア、ちょっと平定して来てよ」

「DV男の命令なんて聞くほど、

 私はバカ女ではないのよ。DV男」

「もー僕が悪かったから

 機嫌直してよー」

「謝ってもDV男シンドロームは治らないの」


何か感染力強そうだなー。

DV男シンドローム。


「なんだ〜〜〜アソコのガキども!?」

「オメエら行くぞォ」


釘バットに錆びたクソデカい包丁…だよな?

それから鎖鞭とかスレッジハンマーとか。


北斗の拳の一般人みたいなゴツい男達が

こっちを見つけるなりそんな世紀末過ぎる

武器を各々担いで走って来ている。


「じゃあ何か使い捨てでイイから

 武器をちょうだい」

「そうやってより強力なDVを私に

 与えるつもりなのでしょう??」

「より強力なDVって何…?」

「私は暴力を振るわないし

 振るわれても屈しない。

 そして服従もしないの!!」


世界最強の魔王からそんな聖人君子みたいな

言葉が出てくるなんて意外過ぎるし

嫌すぎる。


仕方ない、抱えて逃げるしかないか!

周りの建物もほとんどが廃屋で

助けてくれるような人は当然いないだろうし。


しかしこの魔王、全力の抵抗である。


「何故抗う貴様ッッッ!?」

「私は誇り高き女騎士!!

 肉体を如何な快楽に浸されようと

 心と魂だけは決して!!

 魔王…お前の好きには出来ないぞ!!」

「魔王はキミでしょーが!!!」

「なんだコイツら!!

 こんなあぶねえスラムで

 『くっころプレイ』してやがるぜ!!」


いつの間に!!

というかこの魔王マジでこのまま何も

しないつもりでいやがる!!!


「バーカバーカ!! ネシアのバーカ」

「DV男よりは全然利口よ」

「え…DV男…?」


何故かネシアのDV男という言葉に

カラフルモヒカンの男達は急に

固まって何かを話し始めた。


この世界には他所様の家庭の問題には

関わってはいけない不文律でもあるのか?


と静観していたら男達はネシアと僕の間に

壁の様に立ち塞がった。

まるでネシアを守っているようだが

そんな事はないだろう流石に。


「俺らぁクズの寄せ集めだがよォ、

 テメェの女1人大事にしねぇクズと

 同じでいるつもりはねぇよ」


「おうよ」「そうとも!」と泣く子も泣き出す

イカつい顔の酔っ払い達は真顔で僕を見つめた。


「先を急いでるのに雪だるまとか

 作り始めたから雪だるま叩いただけだよ。

 ウチのご主人様アホなんだよ」

「そうなら尚の事ダメだろ。

 ましてテメェの主人の雪だるまなんか。

 人が大事にしてるモン粗末にすんなや」


「おうよ」「そうとも!」と次第に男達は

僕が謝るまで動かないという雰囲気を醸し出してきた。


確かに普段の生活の中で理由なくそんな事したらイケナイと思うし、僕だってモヒカン達に同意している。だが今は一分一秒が貴重な緊急事態だ。


「私…彼に只笑顔になって欲しくて…

 ヨヨヨヨヨ……」

「なんでこんなイイ女がテメェみてぇな

 クズにくっついちまったんだか…」


なんでそんなイイ女がヨヨヨヨヨとか訳分からん

嘘泣きをしているのに疑わないんだか…


「謝れや」

「謝らない」


僕とモヒカンは完全な平行線へと

到達してしまった。


というか背後で密かに面白そうみたいな

顔してるアホ魔王に早く気付いてくれ。


「また他所の人を襲って!!」

「げっ、マキシだ」


もうどうしようもないと双方が拳で

話し合おうとしたその瞬間、

ド派手なコートを羽織った

派手なニンジャ、、、

モヒカンの1人を

ひょいっと投げ飛ばしてしまった。


自分の3倍はありそうな大男を

それも片手で、だ。


「めーって何回言ったら分かるわけ〜!!」

「おああああああ」

「ズラかるぞオメェら!!」


…………。

……。


何人かの男が追加で投げられたものの

モヒカン達のほとんどは巻き上げた雪だけ

残して姿一つ見えなくなった。


「まじメンゴね〜。

 大事ない感じー??」

「おかげさまで」

「私も貞操一つ怪我してないわ」

「貞操は一個しかないだろ」


というかネシアのせいで

無駄に大事になったと思うのだが…???


「あーしマキシ!

 そこのバーの居候。よろ〜」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る